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企画
今夜は離さないで(坂田)

手を繋ぐどころか、指先にすら触れるのを躊躇ってしまうのは、
名前の手がとても綺麗で、無垢な笑顔はどこまでも無防備に銀時に向けられていて、
自分のような柔らかなところなど何もない無骨な手でそんな名前に触れていいのかと思うからだ。
きっと一度でも触れた途端、歯止めが利かなくなりその先を荒々しく求めてしまう。
それで名前を怖がらせてしまうくらいなら、我慢するほうがマシだった。

年下の名前から好意を寄せられていることは、ずっと前からわかっていた。
ひたむきに、じんわり心を暖めてくれるような名前の想いは、
様々な女性との爛れた関係を数え切れないほど送ってきていた銀時に、初恋のようなときめきを思い出させてくれたが、
付き合いたいだとか、抱きたいとか、そういった生々しいことは考えてはいなかった。
というか、考えたら名前に悪いと、気持ちが深まる前に一線引いておこうと思ったのだ。
その矢先、名前に告白された。
見たこともないくらい必死に、健気に銀時への気持ちを伝えてくる名前を、銀時は突き放すことができなかった、
かわいかったのだ。それはもう。
この手で護りたいと思ったのだ。考えるより心で感じた。
そうして気がついた。いつの間にか名前に惚れていたことに。



「銀さんとのデート、今日も楽しかった」
「そりゃよかった。遅くなっちまって悪かったな」

名前が暮らすアパートの前についた二人は、ゆっくりと動かしてきた足を止める。
しばらくかける言葉を互いに捜しているうちに、くい、と銀時の着物の裾が引っ張られた。
デート中、手も繋がず、一定の距離を保って歩き、少し腕が触れただけで「ごめん」と互いに目を逸らすような、
まるで子供のようなデートをしてきた中で、初めて名前から銀時に手を伸ばしてきた。

「……キスしてほしい……」

頬を赤らめてそうねだる名前に、銀時は驚きつつパチパチと瞬きをした後、すうと覚悟を決めたように息を吸い、
街灯の弱々しい光から名前の身体を隠すようにして、軽い口付けを何度か名前の唇に落とす。
緊張からか硬く結ばれる名前の唇が愛しい。
これまでの経験から得た技巧を駆使してその唇を解くことは簡単だが、
名前に対しては笑ってしまうほど初々しい口付けしかできず、それを幸せだとおもいつつも、自分らしくねぇなと内心苦笑いを浮かべる。
ここで身体に力も入れられないくらいとろとろに唇を蕩かして、名前の家に上がりこんで、
帯を乱暴に解き、白い肌を舐めまわし、深くまで自分を沈めたいと、
そう昂ぶる気持ちをぐっと堪え、銀時は優しい笑みを浮かべ名前の頭を撫でた。

「今日は疲れたろ、早く寝ろよ」
「ううん、楽しかったから、全然疲れた感じがしないんだ」

名前は潤んだ瞳で銀時を見上げ、再び瞼を伏せた。
銀時は目を細め、今度は名前の身体を抱きしめながら少し長めに唇を重ねる。
少しだけ名前の唇が開いたと思ったら、舌先で銀時の下唇をちろりと舐められた。
拙い誘い。あまりにもたどたどしくて、こちらが申し訳ないことをしてる気持ちになる。
ここで舌をねっとり絡ませでもしたら、へたり込んでしまうのではないだろうか。
銀時は微笑みながらやんわりと唇を離した。

「じゃ、な」
「……っ!、あのっ、少し寄っていかない? うち、そんなに広くはないんだけど、飲み物くらい出すから……」
「あー……もう遅いんじゃね? また今度寄らせてもらうわ」

銀時が身体を離そうとするが、名前は銀時の背中の手を外さなかった。
唇をぎゅっと噛み、悲しげな瞳を銀時に向ける。

「私と、深い仲にはなりたくない……?」

その言葉に銀時は目を見開いた。
いやいやいや、と呟き、名前の額にかかる前髪に誤魔化すように口付ける。
ちゅ、と乾いたリップ音が白々しく夜道に消えた。

「お前明日仕事だろ」

銀時と目を合わせないまま、名前は怒った様な深く傷ついた様な顔をして、パッと銀時から手を離した。
銀時がしまったと思ったときはもう、名前の口はへの字になっていた。
目尻にはうっすら涙が光っている。

「うん……そうだよね、わかった。お休み」
「まてまて、んな泣きそうな顔されてハイサヨナラってできっかよ」
「今日は疲れたので早く寝ることにします」
「なんで敬語!?」

銀時から逃げるようにくるりと背を向けて歩き出そうとする名前の肩に、銀時が慌てて手を置くが、
すたすたと歩き出した足は止ってくれそうになかった。

「わたしに魅力がないから」

今まで付き合った人はいないと言っていた名前が、これまでどれだけ勇気を出して銀時を誘ってくれていたのだろうと、
震えて消えそうな名前の言葉に、銀時の胸がつぶれそうになる。
銀時は両腕で素早く名前の身体を後ろから抱きしめた。
やめて、と名前は本気で身体をねじり首をぶんぶん振って銀時の腕から逃れようとするが、
名前を力強く抱きしめるその腕を一瞬たりとも緩めたらいけないと思った。

「あのよー、俺が名前んとこ行くとするじゃん、」
「……こなくていい、もう絶対呼ばない。何度誘ってもきてくれないんだもん、私のこと、彼女って思えないんでしょう」
「違ぇって。俺だって行きてェさ。でもお前が困ることになるんだぞ」
「どうして? こまったりなんて」
「一度抱いたらもうブレーキ利かねえぞ。一晩中名前を離せなくなる」

名前の体の動きがピタッと止った。
そっと銀時がその腕を外しても、名前は逃げない。
後ろを向いたままの名前のうなじに狙いをつけるようにするりと指を滑らせる。
明確な意思を持ってそこに吸い付けば、小さな声が上がった。
ここでやっと名前が振り返る。瞳は期待と羞恥と興奮で濡れていた。
視線を絡ませあいながら指先で桃色の小さな唇をなぞれば、
名前が水分の足りないかさついた銀時の指先を唇に含み、ちゅうと吸い付いてくる。
「最高に色っぽい顔してんな」と銀時は、熱っぽい瞳を隠しもせず微笑んだ。

「今夜は離さないで」
「明日仕事辛いぞ」
「いいの。それよりももっと近くにきてほしい」

だって私は銀さんの彼女でしょう?
何度もすがるように『彼女』と確認してくるのは、それだけ今まで自分が彼女かどうか不安だったということなのだろう。

「そーそー、お前さんは銀さんのかわいい大事な彼女だよ」

口調は軽いが本気で言っていると、銀時の気持ちが正確に伝わったのだろう。
その言葉を聞いた途端、精巧にカットされたダイアモンドのように目をきらきら輝かせる名前は、
やはり純粋無垢であどけなく、自分が触れてはいけない神聖な存在のように思えてしまうが、
それでも無邪気に抱きついてくるので、銀時は壊れないよう大事に大事に、その身体を包み込むよう抱きしめた。






□砂糖菓子のようなかわいらしいヒロインちゃんと、触れるのをためらう銀さん。
 原作沿いでも現パロでも
 触れると壊してしまいそうで怖気づいてなかなか触れられないもだもだ銀さんと、
 触れてくれないのはわたしに魅力がないんだろうかともやもやするヒロインちゃんが、
 すれ違いのちハッピーエンド

□お相手は銀さんで自分が彼女でいいのか不安になる年下彼女。
 少し切ない感じも




さしみ様、ぐみ様のリクエストで書かせていただきました!!
もだもだしている銀さん、なかなかのへたれになってしまいましたが、楽しんでいただけたら嬉しいです!
素敵なリクエスト、どうもありがとうございました♪

2017/04/14 いがぐり

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