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企画
肝心な部分(現パロ坂田)

今日は一日楽しく過ごすはずだった。

日曜日の朝の太陽が、レースのカーテンから少々散らかっている部屋を明るすぎるほどに爽やかな光で満たしてくれていたが、
その部屋の主である坂田銀時と、昨夜この部屋に泊まった銀時の恋人の名前の顔には、
部屋の明るさとは真逆の表情が浮かんでいる。

「ちったァ素直に甘えてくれたら可愛げがあんのによ」
「長年こうなんだからもう治らないと思う。諦めて」

んだよソレ、と銀時が大きな溜息を吐いた。
名前の心が、どすんとまるで鉛を飲み込んだように重くなる、そんな深い溜息だった。

はじめは他愛ない会話だったと思う。
恋人から、夫婦へ。二人でスタートを切る人生の大きな伏目が、曖昧ではなくきちんと実体を持ってきた今日この頃。
二人がこれから共に暮らしていくこと、そして結婚をするにあたり必要になる費用をざっと書き出していた時のことだった。
その費用を、全額とまではいかないものの、ほとんどを夫になる銀時が持つといいだした。
名前はそういうことは後々拗れる原因になるかもしれないから折半するのが一番わかりやすいと言ったのだが、
銀時はそれを変な風に捻じ曲げ、年下の俺じゃ頼りにならないのかと、
はじめは冗談めかして唇を尖らせ拗ねたように笑っていたというのに、
いつの間にか、本人達も気付いたら後戻りできなくなるような不毛な言い合いに発展していて、
どの部分で戯れの会話に険悪な空気がまじったのだろう、お互い引っ込みがつかなくなっていた。

「この状態で一緒にいてもどうにもならないだろうから私は帰る」
「フーン。気ィつけて」

引きとめもしない銀時に何の言葉も返さず、名前は持ってきたものを雑に鞄の中に放り込む。
その間、銀時はソファに足を投げ出して座ったまま、テレビを瞳に映し一言も言葉を発することはなかった。
自分から歩み寄れない頑固な意地がこういう事態を招くのだと、名前は唇を噛み、自分の性格を苦々しく思う。
ごめんと、謝ってみようかと一瞬考えた。
けれども自分は全部銀時が費用を持つのは納得がいってないし、
今更態度を軟化させても逆にぎくしゃくしそうだと、名前は一旦冷静になろうと滲む涙をぐっと際で留め勢いをつけて銀時の家を出て行った。



「なんていい天気」

一泊分の荷物を抱え、名前はしおれかかった植物のような気分で空を見上げる。
ちらと後ろを振り返っても、背が高く体格のいい天パが名前の後ろを追っかけてきている気配は無かった。
なんで追っかけてこないの、なんて自分から銀時の家を出てきたのにもかかわらず自分勝手なことを思う。
可愛げがない。そんなこと、言われなくてもよくわかっていた。
視線を前に戻し歩き出そうとする足が止まる。
余りにも驚いた。名前が目を見開いたその先に、同じように驚いた様子の男がいる。

ああ私は、昔と同じ失敗を繰り返そうとしているのかもしれない。

ふいに浮かんだ考えにゾッとした。
過去の失敗のことが鮮明に浮かんでくる。目の前の、銀時の前に付き合っていた男のせいで。

「名前」

先に声をかけたのは男の方からだった。なんて皮肉な偶然だろうと名前は思った。
こんな、銀時と喧嘩した日に、昔の彼氏にばったり会ってしまうだなんて。
ひさしぶり、とかすれる声は震えそうになったけれど、小さく笑みは浮かべることができた。

「名前」

もう一度名を呼ばれる。今度は後ろから。
振り返ると、走ってきたのか、息を乱した銀時が名前を何か言いたげに見つめ、そして前方の男へ視線をやり、
名前の肩に手を置く。

「久しぶり、名前。そのひと俺の次の彼氏?」

はは、と自分が名前の前の男だと、勝ち誇ることでもなんでもないというのに、やけに挑発的に笑っている。
銀時はそれをどうでもよさげに受け流し、名前の手を取ってその上にころりと小さな筒状のものを転がす。

「……これ」

リップクリームだった。化粧ポーチからころりと転がり落ちてしまったものを、わざわざ届けにきてくれたのだろう。

「ありがとう……」
「なに、コイツとどっか行くの?」
「行くわけ、ないでしょう」

まだ先ほどの言い争いの尾を引いている。銀時の表情に僅かな苛立ちが見て取れた。

「俺のことなら気にせず行っていいんだぜ」

この言葉に泣きそうになりながらも、ふるふると首を振る。
銀時は名前のその表情を見て、ぐ、と息を詰めた。
言い過ぎたと思った。言って良い訳がない。けれども放ってしまった言葉はもう、銀時の口へ戻すことができなかった。

「彼氏、ずいぶん寛大だな。なあ名前、彼氏もこういってくれてることだし、暇なら昔話でもどうだろう」
「いかない。あなたと話すことは何もないし。私、家に帰るところだから」

名前の返事に銀時が安堵する。
が、男が言った言葉に、頭にカッと血が上った。

「相変わらず可愛くない女。彼氏も疲れるだろ。俺もほとほと疲れて別れたんだけどさ」

いつもならこんな言葉、ふっと鼻で笑って無視しそうなものだというのに、
銀時に言われた言葉を思い出したのか、心臓のあたりをぎゅっとつかみ、名前は何も言い返さない。

(私の性格は付き合ってる人を疲れさせてしまう性格なんだな)

銀時もいずれ、自分と別れたくなるかもしれない。いや、もうそう思っているのかもと、
名前は言い返すこともできず下を向く。
すると自分の靴の隣に、ざっと銀時の靴が並んだ。

「生憎、可愛くないとこも愛してるんで」

こんなくれーで疲れるなんざ、アンタも相当タマが小せェんだな、と銀時が名前の肩を抱きながら笑う。
思わず銀時を見上げると、真剣な横顔と、小さく動く喉仏。
名前の視線に気付き、横目だけ動かし視線を絡ませ合う。
にっと唇の端を吊り上げ、銀時はいつものように笑った。

「あーやめたやめた。名前、俺が悪かったから戻ってきて。俺が昼飯も夕飯も作っちゃうから、なんならおやつも」
「ぎんとき……」
「え? おやつは銀さんのケーキが食いたい? しゃーねーな、焼いてやっからホラ行こうぜ」
「わたし、なにも言ってな、」
「じゃーな、名前の昔のカレシさん、名前はこの通り名前にベタ惚れの男と仲良くやってんで、もう気安く話しかけてくんなよ〜」

銀時は名前の持っていた鞄をさっと奪うと、唖然とその場に立ち尽くす男をよそに、名前の肩を抱き歩き出した。

「銀時」
「んー?」
「なに、いまの」
「わかんね。でも出任せじゃねェから」
「……うん」

銀時の腰に手を回す。肩がぐっとさらに引き寄せられる。
少し歩きにくかったが、いまは少しでもくっつきたかった。

「帰ったら抱く」
「……へ?」
「俺かなり妬いたから。妬いてるから。もしあのまま名前がヤローとどっか行ってたらって思うとムカついてしょーがねえ」
「行かないよ。っていうか、銀時自分で俺のことは気にせず行っていいとか、いってたじゃない……」
「余裕ぶってただけですぅー。名前は行かないって信じてたから言えたことだけど」
「そう思ってるなら、もしの話でムカつくのは変」
「わかんねー、けど今はとにかく名前とイチャイチャしたいの! 俺は!」

あまりにも率直な銀時の言葉に名前は思わず笑ってしまった。

まだ何も解決していない。これからかえってすぐ、また費用のことでモメるかもしれない。
けれど、一番肝心な部分が、凝り固まってがちがちになっていたところが、柔らかく溶かされていくような気がした。






伽椰子さま、現パロ坂田 ふとした事で大喧嘩して坂田さん家を出ていくヒロイン。
 とはいえ行くとこなくてフラフラしてる所を「曇りのち晴れ」で出てきた酷く傷つく別れ方をした元カレと遭遇。
 元カレに心無い言葉を浴びせられるもそれが坂田さんとの喧嘩の原因でもあったから何も言えないヒロイン

匿名さま、現パロ銀さん

はる様、めちゃくちゃ妬いているのに、他の人の前では素知らぬ顔、でも2人になると余裕がなくなる、
 というふうな現パロ銀さん




こちらのリクエストで書かせていただきましたーー!
現パロ銀さん書くの久々だったんですけど、とても楽しかったです!
ほんとに何一つ喧嘩の原因解決してないような気がしなくもないんですけど、
色々喧嘩しながら絆を深めていくのでしょう…たぶん…!
素敵なリクエストをどうもありがとうございました♪


2017/3/1 いがぐり

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