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企画
とまらぬ想い(土方)

「あっれー土方さん、どこ行くんですかィ?」

後ろからかけられたのんびりとした声に、土方は振り返らず「見廻りに決まってんだろ」と
歩みすら止めることなくぶっきらぼうにこたえた。
へえ、と笑う沖田の声と共に、かちりと無機質な音が聞こえる。
沖田愛用の冷たく重い携帯式対戦車ロケット弾発射器、通称バズーカを向けられたからだろう。
この距離で発射されると面倒なので、土方は足を止め沖田を振り返る。

「土方さんの見廻りは午前中に終わってたと思いやすがね」
「いつ行ったっていいだろーが。ニコチン買いに行くついでだ」
「煙草なら持ってますぜ」
「お前煙草なんざ吸わねぇだろ」
「土方さんの為に買っておいたんでさァ」

封を切られていない、新品の煙草が土方にぽいっと投げられる。
どこにも穴は開いていない。煙草にタバスコなど染み込ませたりという悪戯はされていないようだ。

「どういう風の吹き回しだ」
「それ吸いながら書類仕事でもやってなせェ。もう外に出る必要はねーだろィ」
「本の発売日なんだよ。見廻りついでに買いにいってくる」
「それなら定期購読で毎月屯所に届くよう手配させときやした」
「………んなこと誰も頼んでねーがありがとよ」
「苗字のこと、もう少し信頼してやりなせェ。見廻りくらいアイツ一人で行けまさァ」

唐突に真っ直ぐ飛んできた沖田の言葉を、土方は表情を変えず受け止める。

「何のことだ」
「苗字のこと心配なのはわかりやすがね、アンタの心配は度を越してる」

真選組唯一の女性隊士である苗字名前は、名前が強いから入隊させたのではなく、
あくまで真選組のイメージアップの為に選ばれたお飾りの隊士だった。
のだが陰口をしなやかに跳ね返す強さ、素直さ、優しさを持っていた名前は、
すぐ真選組に溶け込んで、その一生懸命さを誰もが認めるまでになった。
しかし本人は心からこの仕事に打ち込みたくて頑張ってはいるのだが、力が無い。体力も無い。
散々土方が自分の補佐になれと言っているのだが、かたくなにそれを拒む頑固さで、毎日訓練に励んでいる。
危ないことはさせないようにガードしているが、自分の実力を冷静に見ている名前もそれに文句を言ってきたりしない。

「そんなつもりはねェよ」
「女の尻追っかけ回すなんざ、真選組副長さんもとんだ腑抜けになっちまったもんだ」
「何が言いたい」
「あいつには自分から手を伸ばすんですね」

何の感情も乗らない声で言うと、沖田はバズーカを肩に担ぎくるりと背を向ける。
儚く微笑む横顔は、いつか見た彼の姉の顔によく似ていた。



「あ! 副長」

外に出ると、名前が小さく手を振りながら土方を呼んだ。顔がほころび気持ちが弾む。
名前は午前中に半休を取っていたので、会うのは朝以来だ。
褒めて欲しげな子供の顔して土方に駆け寄ってくる。

「切ってきたのか」

いつも無造作に後ろでひとつに結わえていた髪が、肩の辺りまで短くなって風に揺れていた。
名前ははにかみながら髪をひとふさ指でつまむと「はいっ」と土方の言葉に元気よく返事して何かを待つように土方を見上げてくる。

「行きたいところがあるから半休取るっつって、美容院行ってたのかおめーは」
「そうですよ。お休みですもん、好きな場所へ行ってもいいじゃないですか」
「最初からそう言っとけよ。誰かと思ったじゃねーか」
「そんなに変わりましたか!? おとなっぽくなったかな!」

いやその反対、とは言えず、土方は名前の髪に指を通す。
さらりとした洗いたての細いしっとりした髪だった。

「苗字は苗字だな」
「どういう意味ですか?」
「ますます可愛くなった」
「っ!」

ぼん、と名前の顔が一気に真っ赤になる。
愛しさのまま土方は顔を綻ばせた。

「俺の女になる気になったか」
「なんっ、なんで、返事はゆっくり待ってくれるって!」
「俺だけじゃねェ、苗字も俺に惚れてんのはわかってんだよ」
「でも、私には仕事があります、まだまだ半人前です、恋愛に、現を抜かすわけにはまいりません!」
「だからそれが間違いだっつってんだろ。気持ちを我慢していい仕事ができんのか」
「私は副長みたいに器用じゃない……」
「俺も器用たァ言えねぇよ」
「不器用、ではないと思いますが」
「確かめてみろ」

名前の手を、土方が強く掴む。
土方の手の中で名前の手が跳ねるが、構わず握り続けた。
顔を真っ赤にした名前は土方の瞳を見つめることができず、握られた手に視線を落とす。

「そんなににぎらなくても」
「悪ぃな、加減できねェんだよ。痛くはねえだろ」
「いたくはありませんけど、でも、」
「そのうち力加減もわかってくるから安心しろ」
「それってあの、これからも手を繋ぐって、」
「安心しろ、仕事中にはしねェ」
「よかったあ……」
「今度休みの日だな」
「えっ!」
「何か文句でもあんのか」
「あー、あの、」

手を離すと名前がハッとして土方を見上げてくきた。
この瞳を見ていると、どうしようもなく胸の中が甘くかき乱される。
困らせたい、甘やかしたい、とびきり優しくしたい、笑いあいたい。

「苗字を急かしたりする気はねェんだ。だが俺からお前に近づくのを遠慮したりしねえ」
「は、はい……」
「行くぞ」
「ふェっ!?」

どこに!? と目を真ん丸く見開く名前にギリギリまで顔を近づけた土方は、
「見廻りだろ」と額を名前の額にこつんと当てながら笑った。




□土方さん/真選組の唯一の女隊士/
 土方さんが周りの妨害を物ともせずめっちゃ必死に女隊士を口説き落とそうとするお話




千明さまリクエストの土方さんでしたー!大変お待たせいたしました!
ちょっと必死ではなくなってしまいましたが、楽しんでいただけたら嬉しいです…!
素敵なリクエスト、どうもありがとうございました♪

2017/01/05 いがぐり

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