[携帯モード] [URL送信]

企画
愛情日和(長編銀さん番外編)


※銀さん長編「EDGE OF THIS WORLD」番外編です。読んで無くてもだいたい大丈夫かもしれません。
※二人の子供が出てきます。
名前変換はお手数ですが息子の名前を「登場人物1」娘の名前を「登場人物3」で入力お願いいたします。




「ねえパパ、なんで玉をカゴになげてるの? ゆきがっせんじゃないの?」
「予備、あれは玉入れっつってな、どんだけ自分とこのカゴに玉入れられるかの勝負だ」

銀時の説明にわかったのかわかってないのか、「予備もやりたい!」と愛娘の予備が、
満面の笑顔でそのお尻をぴょんぴょん銀時の膝の上で弾ませる。

「おいコラ、大人しくとーちゃんの膝に座ってろっつーの」

そう言いながらも、自分の膝の上ではしゃぐ娘のことがかわいくて仕方ないらしい。
その後頭部を目を細めひどく愛しげな眼差しで見つめている。
爽やかに晴れた今日、銀時と名前の息子である苗字のはじめての運動会が行われていた。

「予備、お兄ちゃんがんばれーって、みんなでいっぱい応援しようね」
「うん!」

予備に微笑む名前の表情に、銀時はこの笑顔は何度見ても見惚れてしまうと思いつつ、
他の保護者が大勢いる手前顔が緩みすぎないよう控えめに微笑む。
けれど身体は正直で、銀時は触れたいと思うがままに自分の隣に座る名前の手の上に自分の手を被せた。
嬉しそうに照れくさそうに、名前は小さく微笑んで銀時と視線を絡ませあう。
息子が産まれてから今まであった色々なこと、優しく見つめあいながら、言葉も交わさず視線だけで語り合った。

「あっ、おにーちゃーん! ねえパパママかぐちゃん、おにーちゃんあそこいるよ!」

予備の指差す方向へ視線を向けると、同級生とじゃれあう苗字がいた。

「おっ、アイツ俺達に気付いたぜ」
「かわいい、手ふってくれた」
「私と名前にナ。銀ちゃんには舌出してたアル」
「っとにあのクソガキは」

苗字と予備のことを自分の弟と妹のようにかわいがっている神楽と新八も、当然のように運動会の今日、
二人揃って応援にきてくれていた。
すらりとした美人に育った神楽は、レジャーシートの上に座り深く日傘を差していてもなお男性からちらちら視線を送られている。

「新八くん遅いね」
「トイレで大の方でもしてんじゃねぇの」

そんな会話をしていた夫婦の間に「あの、」と声がかけられた。
見上げると、お洒落で綺麗な人がいる。
名前はその人に見覚えはなかったが、銀時は違うらしい。
銀時はさっと膝の上の予備を名前の膝の上へ渡し、素早く立ち上がった。
名前はきょとんと銀時を見上げるが、銀時の視線はその女性に向けられている。

「いやー、あん時以来ですね、元気でしたか」

まるで結野アナを前にした時のような舞い上がりっぷりだ。
神楽のゴミを見るような視線にも、名前のすがるような視線にも気付いていない。
名前の胸が、細い針で突かれたように小さく痛む。

「あの時は坂田さんのおかげで助かりました。引越しや何から何まで助けていただいて……どうもありがとうございました」
「いえいえいえ! いやーしかしお元気そうで何よりで。またこちらに?」
「ええ、仕事の関係でまた戻ってまいりました。今日はお子さんの応援に?」
「そーなんすよ。そちらも?」
「ええ。今でも母一人子一人の母子家庭ですから、私だけでもきてやらなきゃと」
「こんな美人なんだから結婚したいーってヤロー共が山程いそうですけどね」
「ふふ、なかなか難しくて。娘と時々坂田さんがお父さんだったらなあって話してたこともあったんですよ」
「マジでか! 俺が独身の時に聞きたかったぜ……!」
「私のいない間にご結婚されたなんて残念だわ。でもまた困ったことがあったら以前のように坂田さんを頼ってもいいかしら?」
「もちろん、いつでも万事屋にきてください」

「じゃあ」と去り際に女性がちらと、瞳に不安げな色を浮かべ二人を見つめている名前に視線をやる。
目が合って、名前がぺこりと頭を下げた。
女性も形だけ頭を下げ、そして銀時を熱く見つめ艶やかな微笑を浮かべる。
そっと銀時の腕に触れ、こそっと耳元に「また」と意味ありげに囁いていった言葉は、
名前の耳にもしっかりと届いた。
銀時はでれっと笑顔でその女性に手を上げている。
その光景を見て眉をハの字に下げた名前は、指を鼻に押し当てるとすっと視線を逸らした。

「いやー懐かしいお客さんに会っちまったよ」

膝を折りながら誰に言うでもなく喋る銀時の言葉に、誰も反応する者はいなかった。
神楽は呆れた顔して銀時を横目で睨んでいるし、名前は膝の上に予備を抱きしめたまま、銀時の方を見ようともしない。

「な、なに、なにこのいたたまれないような微妙な空気」
「銀ちゃん最低アルな」
「なんでだよ、あ、もしかして今の会話のこと言ってんの!? やだねーただの世間話だろ」
「名前の前でデレデレして。しかも不潔な内容だったアル」
「んなこたねーよ。なァ名前」
「………どうだろう」

意外すぎる名前の返事に不穏な空気を感じたのか、
銀時は聞かれてもいないのにベラベラと当時のことを話し出す。

「あの人とは何もねーから! ホラ新八神楽達が来る前に、引越しやら子守やらそーいう仕事しただけで」
「私がいなかったらあの人と結婚できてたのに、残念だったね」
「オイオイオイオイ、あれはただ冗談に話し合わせただけだろ」

そうだよね、そう名前が笑って言ってくれるのを期待したが、
出てきた言葉は全然違うものだった。

「それにしては嬉しそうに見えたから」

予備を膝でぎゅっと抱きしめたまま、前を向いて銀時と目も合わせない名前に、
銀時は後ろめたさと苛立ちとが募っていく。そして言ってしまった。
突き放すように。面倒くさそうに。

「そーかよ。俺の言うことが信じられねーんならもういい。一生そう思ってろ」
「っ……!」

名前の目の淵が熱くなる。
信じたいのだ。名前も。いや、とうに信じている。
銀時が言うなら、本当に何もなかったのだろう。
自分だって過去、銀時と出会う前に他の男と恋愛してきた。
だから銀時だってあの女性と関係はなかったとしても、他の女性と色々あったはず。
今更それは咎めないが、今のやりとりは、まるで名前がいなかったらあの女性と結婚できたのにと、
そう言われたような気がして、それが悲しかった。

せっかくのいい天気なのに。運動会日和だというのに。
名前の表情は暗く、今にも泣いてしまいそうな気分になってしまった。
でも、泣かない。と名前は唇を噛んで膝の上のぬくもりに顔を埋めるようにぎゅっと抱きしめる。
と、いきなり自分の身体が強引に真横に引き寄せられ目が丸くなった。

「って、悪ぃ。違うよな。俺は美人にゃ弱いけどよ、名前の笑顔に一番弱ぇんだ。悲しそうな顔なんざ見たくねえ」

名前のその肩を力強く抱き寄せたのは、隣に座った銀時だった。
膝の上の予備も一緒に斜めになって、けらけら笑っている。

「銀さん……」
「考えてみろよ、俺が名前以外の女に目移りすると思うわけ? んなこと絶対ありえねーだろ」

銀時は、名前を抱き寄せた手を名前の肩から腕まで優しくさするように上下させる。

「それはそうアルな」
「そうあるー!」

神楽と予備が笑顔を見合わせて「ねー」と言い合った。

「俺の奥さんは名前だけ。名前と出会わなかったら俺ァ一生独身だったさ」
「………!」

ここでようやく名前の悲しみが、身体に入っていた力が、すっと抜けていくのがわかった。
安心して、心の底から安堵して、ふにゃっと銀時の胸にもたれかかり顔をすりよせる。

「………ごめんね銀さん、嫌な態度とっちゃって」
「いいのいいの。ヤキモチ焼く名前ちゃんも銀さん大好きだからね」
「私も、他の女の人にでれっとするのはちょっと悲しいけど……でも銀さんのこと大好きだよ」
「予備ママとかぐちゃんだいすきー!」
「おい予備、とーちゃんは!?」
「パパすきー」
「大はつかないアルか。悲しいナ銀ちゃん」
「るせぇ!」

チェ、と口を突き出しながら銀時は拗ねる。
名前はそんな銀時の胸の中で、ふふ、と幸せそうに笑った。




「やれやれ、すごい人だったな」

大混雑していたトイレからようやく運動場へ戻ってくることができた新八は、
開放感からうーんと伸びをしつつ自分達の場所へ目を向ける。
その視線の先で、四人はいつものようにのんびりと、楽しげに笑っていた。




□長編銀さんで子供の運動会のお話
□長編銀さんにて夢主さんが嫉妬、二人の喧嘩、仲直り、のような切甘甘




sck様、ミサ様のリクエストで書かせていただきました!
とってもとっても楽しく書かせていただきました!
どうもありがとうございました♪

2016/11/08 いがぐり

[*前へ][次へ#]

9/34ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!