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企画
むかむか(現パロ高杉)

今夜、名前は会社の同期達と食事をすると言っていた。

『晋助の会社の近くのホラ、美味しいチーズとワインのあるお店』

何も身に着けていない高杉の胸の上に“ちーず”とさらさらとした感触の細い指を滑らせた名前が、
明日が楽しみだよ〜と言って指でなぞった部分に唇を落として笑っていた。
そんな名前に、何人で食事するのか、男はいるのか、
なんてことを聞くのは男として格好がつかない気がして、黙って名前の頭を撫でたのが昨夜のこと。

その時、迎えにきてほしいと言われたわけではない。
だが、残業をして、会社を出た21時近く。
目の疲れを解すように眉頭を指で押しながら夜道に足を踏み出した際、高杉の脳裏に名前の顔がふと浮かんだ。
いつもの帰り道から少し外れた店に、今名前がいるかもしれない。
会える保証は無い。それなのに、いつの間にかいつもの帰宅コースとは別の道を進んでいた。



昔ながらの居酒屋や、最近増えてきた若者向けの飲食店が立ち並ぶ繁華街は、
行きかう人々の多さに歩いてるだけで溜息が出る。
やはり帰ろうと、そう思った時にはもう名前が行くといっていた店の近くにきていた。思わず苦笑いをこぼす。
女性の二人組みが楽しそうに店に入っていく。周囲に名前らしき姿は見えない。
まだ中か、それとも帰ったか。
こうしていてもわからない。電話をかけるつもりはない。
高杉はここまできたら十分だろうと自分を納得させた。
ふう、と首の後ろをかき、ようやく来た道を帰ろうとしたその時。

「ちょっと名前、大丈夫」
「ん、んー、疲れてるのかな、ちょっと飲んだだけなのに足がふらつくなんて」

名前の声に高杉は足を止めた。
5人程で食事をしていたらしい。店から次々と男女が出てくる。
その内の男女二名はどこかへまた飲みにいくと言い、挨拶もそこそこにどこかへ消えた。
残った人数は3人。その中に、ぽうっとした表情でにこにこ笑いながら女にもたれかかる名前がいる。
そんな名前に、スーツ姿の男が話しかけた。

「苗字、俺送ってくから」
「いいのいいの、実はね、この近くに彼氏の会社があるんだ」
「へえ、迎えに来てくれるんだ。よかったじゃない名前」
「ううん、そんな約束はしてない! ただ言いたかっただけ」

それを聞き、名前を支えている女が、頭をがくりと垂らしハーと溜息を吐く。
綺麗にウエーブのかかった髪が、大人びた動きで揺れる。
名前と同年代とは思えない落ち着きだ。
というより、名前にこの年齢の落ち着きが足りないのだ。
高杉は、クッと小さく笑う。

「ホントこの子は可愛いのに…どこか残念っていうか…」
「放っておけないよな。俺、苗字と一緒の方角だし、送ってくって。この足取りじゃ危ないだろ」
「あら私は危なくないの?」
「お前はこの近くだろ、家」

男はきっと会社では皆のまとめ役のような存在なのだろう。
明るい笑顔にさっぱりとした親切心。
下心を柔和な笑みに隠し、名前のバッグを持とうとする。
同期の女は少し迷いを見せたものの「転んで怪我でもされたらアレだしね」と
名前を男へ託そうとする。
皆と別れ、名前と二人きりになったら、強引に肩を抱いてどこかへ連れ込むのではないかと、
そんな失礼な心配をさせないくらい、この男は信頼されているようだ。

「だいじょーぶだってば、もしかして帰り道に晋助と会えるかもしれないし!」
「約束なんてしてないんでしょ。しかも彼氏はとっくに帰ってるかもしれないじゃない。それとも連絡でもきてんの?」
「ううん、常に私から一方的に連絡してるから。晋助から連絡くれることって滅多にないよ!」

あはは、と明るく笑う名前を、男と女は同情するような瞳で見つめる。

「……それってあんた、悲しくないの」
「ううん。晋助が私のメッセージ読んでくれるだけで嬉しいんだ」
「信じられない。俺の彼女が苗字なら、その男より大事にするしちゃんと返事だって返すけど」
「晋助は忙しいから。私が勝手に送ってるだけだし」

普段よりふにゃっとした顔で笑う。
その笑顔を間近で受けた男が「苗字」と頬を染め名前の腕に手を伸ばした。
触れられる前に、高杉は男の腕をひねりあげていた。

「コイツが迷惑かけたようですまねぇな」
「ってぇ……! 誰だよお前!」
「あー! 晋助だ!」

男の腕を離したところで、名前が高杉の腕に飛びついてきた。
名前のその行動で、名前の同期達は突然現れたこの男が例の名前の恋人だと瞬時に把握する。
今まで見せたことも無いくらい幸せそうな笑顔で名前が二人に高杉を紹介した。
酔っ払っている名前はわかっていないが、高杉と男の間に見えない火花が散っていて、
同期の女はアチャーと引きつった笑みを浮かべる。

「名前は今夜俺が送る。心配は無用だ」

店の中が暖かかったのか、名前の体温がアルコールにより上昇しているのか。
身体を寄せてくる名前からのやわらかなぬくもりは、高杉の心を緩めてくれた。
高杉は同期の男の敵意のこもった視線を真正面から受けても、微動だにせずに深く微笑む。
その有無を言わさぬ高杉の底知れない迫力に、男はゾクリと背筋を震わせたじろいだ。

「ところで本物の晋助だよね、幻覚じゃないよね、私そこまで酔っ払ってないし本物だと思うんだけど」
「ああ、本物だ。証拠でもくれてやらなきゃ信じられねぇか?」

楽しげに目を細め、高杉は名前の額を指で弾く。
目をきゅっと閉じて口を三角にして「いた!」と驚く名前の額を、今度は指で撫ぜた。
「晋助だ!」と笑う名前の腰を、目元を和らげた高杉が引き寄せる。

「じゃあ私も帰るね〜、みんなお疲れ様でした」
「お疲れ名前、また会社でね」
「……またな、苗字」

男は高杉に何か言いたかったようだが、名前が幸せそうにくっついているので何も言えず、
唇を噛んでふいと背を向けた。
そんな男の背中を、「ありゃ手ごわすぎる。諦めな」と女がバンと叩いた。



「今日はなんてラッキーな日なんだろ。ワインはおいしかったし、晋助に偶然会えるし」

名前はどうやら、高杉があの場にいたのは偶然だと思っているらしい。
帰り道、人気の無い道をふわふわとした足取りで高杉の真横を歩く名前は、
鼻歌でも歌いだしそうなくらいご機嫌だ。

「幸せだなー、うれしいなー、……ハッ、これもしかして夢オチ、なんてことないよね!?」
「酔いを醒ましてやろうか。さっきよりもっと痛いのくれてやるからもう一度額を出せ」
「もうデコピンはいいです!」

そう言って、名前が腰を抱く高杉の腕から逃げようとしたので
「やめておけ」と背中を引き寄せ正面から抱きしめる。

「今日は大胆だね!」
「何がだ」
「こういうことしてくれるなんて。いつもは私が抱きついても離れろって言うくせに」

ぎゅ〜、なんて言いながら、名前からもしっかり高杉に抱きついてくる。
顔を上げ、無防備な笑顔を高杉に向けた。

「食事は楽しかったか」
「うん、すっごい美味しかったんだよー! チーズとろっとろで、みんなと色々わけて食べたんだ」

あの男ともか、と聞きかけて口をつぐむ。
名前に馴れ馴れしく手を伸ばしかけたあの男。
仕事でもああなのだろうか。高杉の眉間に浅く皺が寄る。

「仕事はヤになっちゃうことあるけど、人間関係はすごくいいから、今の会社入ってよかったな」

ふふ、と高杉の腕に頬を寄せて笑った。しかし高杉は笑えなかった。
これは他の男へ気が向かないよう、しっかり心と身体に自分を染み付けてやらなければと、高杉は思う。

「名前」と高杉は名前の耳元に囁きかけように名を呼び、顔を上げさせた。

「ん?」
「俺の部屋に来い」

高杉に誘われることを全く想像していなかったのだろう。
低く確かな高杉の声に、たちまち酔いに緩んでいた瞳にパッと光が走り、名前の目が最大に見開かれる。

「しんすけ、どうしたの、熱でもあるの? 看病くらい喜んでするけど、大丈夫!?」
「病気じゃねぇ。勝手に人を病人にするな」
「だってありえない! こんな風に私を誘うなんて!」
「そうか?」

慌ててる割に嬉しそうに口元を手で覆う名前に優しく笑いかけてやる。
かあっと、名前の頬が赤く染まった。

「昨日も行ったのにいいの? 迷惑じゃ……」
「俺が来いって言ったんだ。いいから来い」

うん、という返事と同時に、名前の唇が高杉の頬に音を立てて当てられる。

「おっととと」

まだ身体に酔いが残っていたことと、伸び上がった勢いで口付けしたせいで、
足元のバランスが崩れ名前がふらりと転びそうになった。
しかし高杉がしっかりとその身体を抱きしめ事なきを得る。

「危なっかしいったらねぇな」と、名前の耳を軽く噛んだ。わざと甘ったるく歯を立てて。
舌を耳朶に這わせ、吐息を名前の耳に吹きかける。
名前は喘ぐように声を震わせ「んっ」と高杉にしがみつく。
指がスーツを着た高杉の背中に軽く食い込んだ。一時間後には、素肌に爪を立てるのだろう。

身体を火照らせ絡まりあう夜など、幾度と無く共に過ごしているが、
嫉妬交じりの衝動が加わることで、今夜がどれほど激しい夜になるか、高杉さえ想像がつかなかった。





□現パロ高杉さん夢で、二人でデートで夢ちゃんが酔っぱらって可愛いこと言っちゃって、
 高杉さんがしっかりお持ち帰りする

□現代パロの高杉で、ヒロインに嫉妬してしまうお話
 普段ヒロインからの愛情が強い為、高杉の嫉妬に全然気づかず、
 しびれを切らした高杉にお仕置きされてしまうような、最後ほんのりエロで終わる感じ



華さま、高宮杏さまのリクエストで書かせていただきました!
現パロ高杉さんの、とても新鮮で楽しくてワクワクするリクエスト、
とてもとても嬉しかったです。
どうもありがとうございました!!

2016/10/19 いがぐり

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