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企画
心からの(藤)
藤くんに“好きだ”と言われるたびに胸が痛む。

「なー名前、頼む、宿題みせてくれよ。彼女だろ?」
「あのね〜、いい加減にしてよ。宿題は自分でやれって毎日毎日言ってるのに」
「そうは言っても写させてくれんだろ?お前のそーいうとこ好きだぜ名前」

まだいいよなんて言ってない内から私のノートを勝手に開いてさらさらと宿題を写していく藤くんに、わざと大きな溜息をついた。
二人きりの時には好きだなんて口が裂けても言ってくれない。
こういう頼みごとをする時にだけ、それはもう軽々しく“好き”を連発してくるものだから、最初は嬉しかったものの最近はあまり聞きたくなくなってしまった。

「言葉に心がこもってない!」
「あ?」
「藤くん、私のこと好き?」
「あー好き好き、授業まであと何分だ?」
「5分だよ」
「ヤベ、ギリで間に合わねーかも、クソ」
「ねえ、私のどういうところを好きになってくれたの?」
「おい、人が一生懸命宿題書き写してる時に話しかけんな、集中できねーだろ」
「………」

ノート取り上げたろか。
さらさらと動く左手はさっきからスピードを緩めることなく私の宿題を書き写し続けている。
こういう時くらいしか見られない真剣な顔の藤くんに、女の子達の視線が熱い。
しかしそれとは反対に、私の視線は冷めていた。


▽▽▽▽▽


「名前、これからゲーセン寄ってかねーか?」
「…行かない。一人で帰る。バイバイ」

教科書をカバンに詰め終わると、私の言葉に唖然としてる藤くんに背を向けて歩き出す。

「なにヘソ曲げてんだよ」
「さっきの質問に答えてよ」
「さっきの質問だぁ?」
「私のどういうところを好きになってくれたの?ってやつ」
「んなもん…わかんねー」

ほら口ごもる。
サボりの黙認だとか委員会の用事だとか、そんなものを頼みたいときだけ、私のことを好きだと言うんだ。
だからこうして正面からこういうことを聞かれるとこたえられないんだ。

「わからないなら教えてあげる。藤くんにとって私は頼みごとをなんでも聞いてくれる便利な存在だからだよ!」

くるりと藤くんに背を向けて、走って教室を出る。
きっと追ってはこない。こんな私を相手するのは面倒だろうから。
廊下を走り抜け下駄箱へ着いた時には、もう息が上がっていた。
酸素の足りない頭でぐるぐると考える。
私は藤くんと別れたいんだろうか。別れたくないんだろうか。
藤くんの態度にはもううんざりしているけれど、どこか憎めないところもあって、だけど気持ちのこもらない言葉を聞くことに心底疲れていた。

「名前!」

教室から下駄箱までの距離ではあはあ言っている私とは対照的に、息ひとつ乱れてない藤くんが私の腕を掴んできた。

「宿題ならもう見せてあげない」
「…言いたいのはそんなことじゃねーだろめんどくせーな、言いたいことあるならハッキリ言いやがれ」

藤くんの後ろを何人もの生徒が通り過ぎていく。
こっちをちらりと見てくる女子達も居たけれど、藤くんは自分達が見られていることを気にもせず私に迫る。

「藤くんは私のこと本当に好きなの?」
「あんだけ俺が毎日言ってんじゃねーか、何言ってんだお前」
「だって藤くんは頼みごとするときくらいしか言ってくれないじゃない、しかも物凄く言い方も軽いし」

私の言葉に思い当たるフシがあるのか、藤くんの顔に微妙に動揺が走る。

「だからって、俺が何とも思ってない相手にんなこと言うと思うのか?」
「…わからないから聞いたんです」

ふう、と小さな溜息が降ってくる。
何かを決心するような、そんな感じの。
耳に小指を入れ、藤くんはゆっくりと言った

「俺はそういうこと、お前以外には絶対言わねーから。頼みごとついでっつーのは、まああれだ、二人きりの時は照れちまうけどこういう時はするっと言えるから言ってるっつーか…」

ほんのりと頬を染め、しどろもどろになりながら話すその姿に、しぼんでいた心がゆっくりと膨らんでいく。
望んでいた言葉とは違うけど、藤くんの気持ちはじゅうぶんに伝わってきた。
「ん、わかった」と言う私に、藤くんの顔に安堵が広がる。
靴を履き替えた私達は、どちらからともなく手を繋いで歩き出した。


▽▽▽▽▽


それから、藤くんが私に頼みごとをすることはなくなった…わけがない。

「名前ー、悪い、宿題見せてくれよ」
「私に悪いなんて思ってないでしょ、どーせ」
「好きだよ、愛してる」
「な、な、な、なにいってるの!!」

“好き”だけだった言葉に“愛してる”まで増えてしまった。
私が嬉しくてポーっとしてる間に藤くんは要領よく宿題を写し、私は我に返ったときはもう写し終えた後。

「藤くんのバカー!!愛してるだなんて簡単に言うな!!」
「本気だぜ?」
「なら尚更こんな時に言わないでよ!」

私の悩みはいつまでも尽きることなく、藤くんの言葉に振り回され続ける日々。




紫苑様からいただいたリクエスト
藤くんで「好きだよ。愛してる」というセリフでした!
雰囲気たっぷりに甘く言うより、冗談めかして言ってるけど本気、というイメージが思い浮かんだのでこんな感じで使わせていただきました。
紫苑様、素敵なセリフをどうもありがとうございました!!
これからもどうぞよろしくお願いいたします♪

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あきゅろす。
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