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企画
高杉晋助(現パロ)

「晋助、はい」
「ああ」

この時期、どこのチョコレート売り場でも見かける、知名度の高い高価だけれど安定した美味しさを誇る、
高級感漂うあるブランドのチョコレートの箱を名前から受け取った時、
名前は高杉の手元を見ながらはーあと肩を落とした。

「本当はね、ジュバ……違う、シュヴァ……ルツ? だったっけな、まあいいやなんたらルツヴェルダー・キルシュトルテ、をね、」
「……何が言いてェんだお前は」
「ケーキの名前。ちょっとまってね」

二人掛けのモダンなソファに高杉と並んで座っている名前は、
お尻を浮かすようにして後ろのポケットに無造作に入れていた携帯を取り出し、
指ですすっと手馴れた手つきで画面をなぞった。
ある画面を見てパッと目を輝かせ「これこれ!」と高杉に画面を見せてくる。
名前は高杉の腕に腕を絡ませるようにして画面の中の写真を指差した。
ただ写真を見せるだけにしては近寄りすぎだ、と思ったが、高杉の顔は正直だった。口元が勝手に綻んでしまう。
名前の胸元にどうしても視線を注いでしまいそうになるのを何とかこらえ、携帯に意識を集中した。

画面には、手の込んでそうな大きなケーキの写真がうつっている。
ケーキ生地はチョコレートらしい。
その周囲にたっぷりと白い生クリームがぬられ、上に円を描くように均等に乗せられたチェリーの赤が映える見た目の、
食べ応えのありそうな、しかもとてつもなく甘そうなケーキだ。

「このシュヴァルツヴェルダー・キルシュトルテってケーキをね」
「お前が一生かかったって作ることのできそうにねぇ名前のケーキだな」
「……ええそうですよーだ。晋助はきっと会社の女の子に高級チョコとかもらってそうだしさ、
 せめて彼女の私からは、凄い名前の手作りケーキとか作ってみようとか思うじゃない。失敗したけど」

凄く手の込んだ美味しいケーキ、ではなくインパクトを狙ったのであろう、凄い名前のケーキを作ろうとするところが名前らしい。
名前は昨日一日、このケーキを作ろうと格闘したようだが、試合結果はどうやら惨敗に終わったようだ。
高杉の手にある市販のチョコレートが、物言わずともその存在によって雄弁にそのことを物語っている。

「顔も知らねえ女とくだらねーことで張り合おうとしてこのザマか。辛気臭い面しやがって」

高杉はこみ上げてくる笑いを、うっすらと青い血管や骨の浮かぶその手の甲で口元を押さえながら、軽く咳をする振りして誤魔化す、
それを見て、名前はむーっと唇を尖らせた。

「だって晋助をびっくりさせたかったんだもん」
「ああびっくりだ。名前のバカさにゃ毎回驚かされてんだ、これ以上笑わせるな」

高杉は片手でチョコレートの箱を持ち、つっとリボンを解く。
名前は今の今まで唇を尖らせていたくせに、箱の中から出てきた艶やかなチョコレートを見るやいなや
「わあい、やっぱりおいしそう!」と、ころりと表情を変えた。

「名前んじゃねェだろ」
「晋助のだよ、うん。でも名前も一緒に食うか? って聞いてくれたら喜んで一緒に食べる!」
「いい。俺一人でも丁度良い量だ」
「………。私の愛情こもったチョコを誰にもあげたくないんだね。それだけ愛してるんだ、私のこと!」

ふふーん、とからかう様に高杉の顔を覗き込んでくる名前に見せ付けるようにして、高杉がチョコレートを一粒口に入れる。
ゆっくりそれを食べた後、優しい眼差しで名前を見つめながら唇を開いた。

「そうだな」
「えっ、何がそうなの?」
「名前が今言ったこと、間違っちゃいねェ」

“それだけ愛してるんだ、私のこと”

ただ高杉をからかう為だけに言った自分の言葉を思い出すなり、
名前は顔を真っ赤にして両手を自分の口に当てた。

「うそ! 晋助が認めた!?」

目をまん丸にして驚く名前に、高杉が一瞬意外そうに動きを止め、瞬きをした後、不意にふっと柔らかく笑う。

「なんだ、俺が認めたらおかしいか?」
「え、えええ、だ、だって、いつもなら、誰がいつどこのどいつのこと愛してるって? みたいなこと冷めた顔でズバっと言うじゃん!」

あわわわと、よく喋る名前の口を高杉は自らの唇で塞ぐ。
返事など、この口付けで十分だと思ったのだ。

「こんなに、こんなに嬉しいバレンタインになるなんて……!」
「お前の作ったケーキ食ってたら認めなかったかもな」
「酷い!」
「冗談だ。耳元でほえるな、ガキじゃあるめェし」

高杉はキャラメル色をしたチョコレートを静かに指先で持ち上げ、ゆったりと名前に視線を移しにこりと目を細める。
そして名前に向かって、その唇を軽く開いた。口を開けろ、ということだろう。
上唇と下唇が離れる時の微かな音がとても艶かしい。
しかし、高杉の眼差しの方が遥かに妖艶だ。

名前はぼうっとしながら、促されるままに唇を開く。
その中に、高杉の指によって薄いチョコレートがゆっくりゆっくり押し込まれた。

「……ん……」

鼻にかかる甘い声が名前から漏れ聞こえた。
高杉はその喘ぎにも似た音にふっと笑みを深める。

チョコレートのひとつひとつの大きさは、子供の口にも入るほどの大きさだ。
名前の口にもすぐ収まってしまう。
甘い、と思いながら食べる。高杉の視線は名前から動かない。

名前の口の中のチョコレートが全て溶けるのと、二人の唇が重なったのは、ほぼ同時のことだった。





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あきゅろす。
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