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企画
笹塚衛士(警視庁捜査一課)

風邪をひいて寝込んでると連絡をもらい、笹塚は仕事帰りに名前の家へ寄った。
合鍵で玄関の鍵を開け、頼まれて買ってきたものが入ってる買い物袋を脇に置き、名前が横になっているベッドに腰掛ける。
手のひらを名前の頬に当てると、名前が辛そうに目をあけた。

「衛士……ごめんね」
「大丈夫か? 食欲は」
「うん、そんなないから水分だけとってる……」

枕元には、常備していたものだろう、飲みかけのポカリのペットボトルがある。

「それより、今日はバレンタインなのに、衛士にチョコ作ろうと思ってたのに立てなくて……」
「元気になってからでいいから気にすんな」
「……バレンタイン過ぎちゃうー……材料も買ったのに……」
「つーか、もう付き合ってんだから、バレンタインなんて一回くらい飛ばしてもいいんじゃねーの?」

笹塚の言葉に、名前はぼんやりした瞳をしながらも、ぷうっと頬を膨らませる。

「もう! 衛士ってそういう人だよね。どうせ私からのチョコなんてどうでもいいんでしょ」
「そうは言ってないだろ」

小さく首を鳴らし、笹塚は落ち着かせるように名前の胸元に手をそっと置いて、とんとんと優しく子供を寝かしつけるように布団を叩く。
少し考えるように、黙って名前を見つめた後、

「ちょっと台所借りる」

そう言って、笹塚はベッドから離れた。



名前は笹塚に向かって手を伸ばそうとしても、だるくて動かない身体にしょんぼりしながら、
あたたかい布団を口元まで上げて目を閉じる。
少なくとも、今は一人きりじゃない。
笹塚の、静かだけど優しい気配に、熱で弱っていた心も安心する。

カチリとガスの火を点ける音がした。
続いてことりと小鍋を五徳に置く音。
おかゆでも作ってくれるのかと思った名前の鼻に、すぐに甘い香りが漂ってくる。

「………チョコ、のにおいが」
「そう。当たり」

笹塚が、厚手のマグカップを手に再び戻ってきた。
ベッドに腰掛け片手で名前を起こすのを手伝うと「これ飲んで」とマグカップを渡してくる。

「ホットチョコレートだ……!」
「これ俺からのバレンタインな。名前はホワイトデーにうまいもんで返して」

マグカップを持つ名前の手に、笹塚の手が重なった。かさりとして、ひんやりとした男の手だ。
笹塚は静かな動きで名前の額に温度の低い唇を押し当てる。
その熱さに瞼を下ろし、今度は頬を名前の額に当てた。

「ねえこれってもしかして台所にあった衛士へ作る予定だったチョコレート使ったの」
「牛乳に入れた」
「……………まあいいや。ありがとう、美味しそう」

今日一日、ポカリ以外何も口にしていない身体にしみこませるように、
名前はホットチョコレートをひとくち、ひとくち、幸せそうに味わう。

笹塚の為に用意したビターチョコレートで笹塚が名前の為に作ってくれたホットチョコレートは、
名前の好みのお砂糖たっぷりの味には程遠かったが、
なぜかもっと甘くしたいとはおもわないくらい美味しかった。





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