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企画
通じ合う日・後編(藤)
『本当に大丈夫なの!?』
「うん、へーきだけど、ちょっと足くじいちゃって歩くの辛いだけだから…」
『食べるものとかある?もしよかったら何か買っていこうか?』
「買いだめあるから心配しないで、藤くんによろしく言っておいてね」
『なんだったら私、名前を担いで行ったげようか?名前も藤くんに会いたいでしょ?』
「それは遠慮しておくよ…私のことは気にしないで迎えにいってあげて、私は一日大人しくしてれば治るから!」
『じゃあ、何かあったら絶対に連絡してよ、駆けつけるからね!』
「ありがとうシンヤ」

仮病に本気で心配してくれるシンヤに罪悪感をちくちく感じながら電話を切る。
会いたい。けど、会いたくない。藤くんは一年経って何か変わったのだろうか。
今の私を見たら藤くんはどう思うだろう。
いつまでもずるずると想いを引きずっている鬱陶しい女だと思われてしまうかも、なんて考えていたら苦笑いが浮かぶ。
どのみち、藤くんに“顔を見たくない”なんて言われたのだし、会ったらどう思うかなんて考えたって仕方がない。
藤くんがアメリカへ飛んだのは、お家だけじゃなく私からも逃げたかったのかもしれないし。
もう会わない方がいい。藤くんへの気持ちが無くならない限り。

お天気は最高なのに、私は一日中家の中で掃除をしたり料理をしたりテレビを見たりして過ごした。
今頃みんな楽しくやってるかな、と考えるたびに首を振って、なんとか一日をやり過ごした。
そしてとっぷり日も暮れてきた頃、玄関のチャイムが鳴った。
私はそれが心配性のシンヤだと思い込んで「はーい!」とそこに誰が居るか確認せずドアを開けてしまった。

「…元気そうじゃねーか、名前」
「ふ、じ、くん………」

顔が少し大人びて、髪が伸びていた。体つきだって以前と少し違う。
でも藤くんだった。藤くんが、目の前に居た。
何処か機嫌の悪そうな表情の藤くんが、玄関を開けたまま硬直する私を見下ろす。

「鏑木に名前が足くじいて来れなかったって聞いて、住所教えてもらった」

ドアノブを握る手が震えてしまう。
会いたくなかったのに、会えて涙が出るほど嬉しい。

「うん、そうなの。だからかえって…」

目を合わさないように、口から言葉を搾り出す。
ここで久しぶりだね!なんて完全に友達として再会を喜べるほど、私は器用ではなかった。

「バタバタ走ってきてバレバレの嘘付くな。…なあ、お前なんで今日来てくんなかったんだ?」
「それは…行かないほうがいいと思ったからだよ…」

顔が見れなくて、床へ視線を落としたまま藤くんに返事する。

「なんで」「言わない」「言えよ」「イヤ」「こっち向けって」「向かない」

そんな短い言葉のやり取りの間にも、涙が溢れ声は震えて、顔はもうぐちゃぐちゃだった。
なのに藤くんは私の後頭部に手を添えて、顔の向きを変えようとするものだから、そんな顔を見られたくなくてドアノブから手を離して顔を覆う。
玄関に踏み込んでくる足音とガチャリと玄関の閉まる音がやけに響いた。

「名前…」

感情がごちゃ混ぜになって身体を震わせる私を、藤くんが優しく抱きしめてくる。

「離して…藤くんなんて嫌い…散々人の気持ちから逃げてきたくせになんでこんなことするの」
「…悪かった、だから嫌いなんて言うな」
「しらない、帰って。こんなことしてもう私に期待を持たせないで…!」

「やだ」藤くんはそう耳元で囁いて私を抱きしめる力を更に強める。

「ずっと会いたかった。アメリカから帰ってすぐお前に会えると思って楽しみにしてたんだぜ。なのに来ないってどういうこった、ったく…」
「…顔見たくないって…言ったくせに」
「そりゃ出発間際に好きなヤツに泣かれたら、行くのやめたくなっちまうだろ」
「なにそれなにそれ、いみわかんない!」

ずっと気持ちを通じ合わせることから逃げてた藤くんが言った今の言葉を、あらそうだったんですかとすんなり受け入れるなんてできない。
何とかして藤くんの腕から逃れようともがくけど、体格に差がありすぎて無理だった。

「解れよ。お前のことが好きなんだ」

ふっと腕の力が緩み身体が開放されたかと思うと、両肩を掴まれて顔を覗き込まれる。
藤くんの両目に浮かぶ光はとても真剣で、私はただ瞬きを繰り返すことしかできなかった。
黙ったままの私に、藤くんがゆっくりと自分の気持ちを話してくれた。

ずっと私のことが好きだったこと。
告白したかったし、私の気持ちもわかっていたけれども、お家の事情で彼女と離れた藤くんのお兄さんを間近で見て、恋愛へ踏み出すことに抵抗があったんだという。
何で?私が聞くと、無理矢理引き離される可能性もあって、もしそうなったとしたら名前が傷つくだろ、と。

「傷つくっていったら、藤くんと一緒に居ただけの時間ずっと傷ついていたよ。中途半端な言動に一喜一憂させられて…」

両肩からすっと手が外されて、今度は両手を握られる。
気持ちを態度で表すことに躊躇うことなく、きゅっと握った私の指に唇を落としたかと思うと、ちゅ、ちゅ、と愛しげに何度もその柔らかな唇で触れてきた。
切なげな眼差しで私を見つめてくるその瞳に惹きこまれる。

「好きなヤツに普通の態度なんて取れるわけねーだろ。恋愛することに抵抗はあったけど、お前を徹底的に突き放すなんてこと、俺にはぜってーに無理だった」

そのぶっきらぼうな喋り方が、表情が、私のよく知っている藤くんそのままで、ふっと力が抜けた。
瞳からはまだじわじわと涙が浮かんでくるけれど、相変わらずの藤くんになんだかおかしくなってしまって思わず口を綻ばせると、藤くんがそれを見て嬉しそうに笑う。
互いに一方通行だった想いが、やっと通じ合った。

「どうして急にこんなこと話してくれたの?」
「交渉材料ができたしな。好きだって気持ち、もう我慢したくねーんだ」
「交渉?」
「そ、交渉。俺、家を継いでやるから結婚は自由にさせろって」
「え、継ぐの!?」
「ただし本店は山蔵に任せて、俺はアメリカで支店を出す」
「すごいね…」
「なあ名前、俺と一緒にやってくんねえ?」

藤くんが喋る言葉は、今まで沈むような気持ちで暮らしてきた私にとって、暗闇から突然強い力で明るい場所へと引っ張り上げられたかのように眩しくて、
これは本当に現実なのかとクラクラしてきた。

「大学あるし、私なんて全然役に立てないと思うよ?一緒にやるんだったらアシタバくんとか本好くんとか」
「違うって、そういう話じゃねーから」
「え…どういう話だったの?」
「だから、名前が大学出たらでいーから、俺と一緒にアメリカ行こうって話」

どうせ説得や手続きや準備やらで数年はかかるだろうからな、とサラッと大変なことを話し出した。
まってまって、ちょっと待って。これは私を頼りに共同経営しようってお誘いじゃないよね、どう考えても。

「再会して10分だよね…なんで突然そんな…藤くん、私展開についていけないよ……」

ふらふらしてきた私を、再び藤くんが腕の中に捕まえてくる。
もう抵抗する気力も無く、そろそろと腕を藤くんの背中に回した。
名前、と小さく名前を呼ばれて上を向くと、藤くんに唇を塞がれた。
後はもう、無理だった。我慢なんてできなかった。
ずっと好きだった気持ちが一気に押し寄せてきて、私は夢中で藤くんの唇をねだり、藤くんも負けないくらい激しく重ねてくる。
キスの合間に漏れ聞こえる吐息が色っぽくて、頭がとろけそうになった。

「一生、面倒みるから…いいだろ?」

唇を少しだけ離し、至近距離で囁くように求められる。
私が「うん…」と頷くと、ひょいといとも簡単に藤くんに身体を横抱きされた。

「え、な、なに!?」
「今までの分、取り戻す」

藤くんは私を抱きかかえたまま足で靴を脱ぎ捨て室内に足を踏み入れベッドを目指しスタスタと移動していく。

「や、ちょっと、まってよ、なにするつもりなのーっバカー!」

ベッドにゆっくりと降ろすなり覆いかぶさってきた藤くんの胸をポカポカと叩く。

「バカはねーだろ。バカはお前だって」
「違うもん、藤くんの方だよ!それに私、まだ藤くんに自分の気持ち伝えてない!」
「んなこと知ってるっつーの。俺のこと好きだろ?昔からずっと、今でもさ」
「ずっと言わせてくれなかったことちょっと怒ってるんだから!」
「だから悪かったって」
「軽い!!」

じゃあどーすりゃいいんだよ、とちょっと不貞腐れたように唇を結んだ藤くんが、わざと体重をかけて抱きしめてくる。
重いけど、ちょっと苦しいけど、やっとやっとちゃんと気持ちを伝えることが出来るんだと、緊張しながら口を開いた。

「藤くん…好きだよ」

ぎゅうと抱きしめられた胸の中で、私はようやく長年の想いを告白することができた。




ヒロ様のリクエスト
藤くん「一生、面倒みるから…いいだろ?」
というセリフで浮かんだ話をダダダダダと書いていたら、あれ、なんかちょっと…長すぎ???
でも削るのもな〜…ということで、二話にわけてアップさせていただきました。
ほんとずるずる長くてごめんなさい。
素敵なセリフを本当にありがとうございました!!
これからもどうぞよろしくお願いいたします♪

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あきゅろす。
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