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企画
やさしい熱(笹塚)
※ほんのりネウヤコ風味


魔界探偵事務所で今夜、ハロウィンパーティーをするらしい。
時間が空いたらきてね、と恋人である名前からメールが入ってきたのは数日前のことだった。
仕事が立て込み、返事する暇も無いまま当日を迎え、目の下の隈は普段以上に濃く、脳が身体が睡眠を求めていた。
にもかかわらず笹塚が向かったのは家ではなく魔界探偵事務所だった。
バカ騒ぎしたいわけじゃない。ただ、名前の顔を久々にゆっくり見たかったからだ。

「…邪魔するよ」

パーティーをしているにしては静かな部屋に入る。
静かなはずだ。弥子は夢中でカボチャパイを口に入れている真っ最中だし、ネウロはいつもの窓際のソファに座りパソコンを眺めていて、肝心の名前ときたらソファでワインの空瓶握り締めすーすーと寝息を立てていた。

「熟睡してんな…何杯飲んだんだか………」
「名前さんずっと笹塚さんのこと待ってたんですよ」
「酔って愚痴って大変だったので、度数の高いお酒を口に突っ込んで先生が早々に潰しました。非力な僕が止めようにも先生の腕力には到底…」
「ちょっと!それやったのネウロでしょ!」
「ハハハ、何をおっしゃいますやらこのお口は」

ギャーギャーと二人で取っ組み合いつつじゃれあいはじめ、やれやれと笹塚は溜息をついた。
視線を名前の方へと移すと、小さく声を漏らしながらもぞもぞと狭いソファで寝返りを打とうとしていた。
落ちるぞ、と笹塚が手を伸ばすと、良いタイミングでころりとその柔らかい身体が笹塚の腕の中へと転がってきた。
待たせて悪かったと、しっかりと抱きとめ立ち上がる。

「俺達もう帰るからさ、弥子ちゃんも早いとこ帰んなよ」
「あれ、もう帰っちゃうんですか笹塚さん。きたばかりなのに」
「今度こいつとゆっくりこさせてもらうよ…もう遅いから、帰る時はちゃんと送ってもらうんだぞ」

そう言った笹塚に、弥子はどことなく目を泳がせて何かを誤魔化すように笑顔になった。
…今日はきっとここに泊まるつもりなんだろうな、とすぐにわかったが、個人の恋愛に笹塚が口を出す権利は無い。
名前のカバンを取ってもらった笹塚は、じゃあな、とだけ言って名前を抱きかかえ事務所を出た。
去り際に漏らしたネウロの意味深な笑みに、弥子ちゃんも大変だなとぼんやり思った。


▽▽▽▽▽


助手席に名前をそっと下ろしたところで名前の瞼が薄く開いた。

「衛士…?」

シートベルトをかけてやろうとしていたので、まるで名前を押し倒しているかのような格好だった。
驚かせちまったかなと笹塚は思ったが、名前は即座に状況を理解したらしい。

「えへへ、寝ちゃったんだね、私」

11月も目前だというのに今日は気温の高い日で、名前の服装は軽やかな長袖もワンピースにトレンチコートという格好だった。
ワンピース越しの柔らかな胸のラインすら今の笹塚には目の毒だ。

「…待たせちまったな、わるい」
「いいんだよ。約束してたわけじゃないんだから」

こうやっていつも名前は笹塚のことを許す。
心にどんな寂しさを抱えようと、そのことをほとんど口に出すことは無い。

「ここまで運んでくれたの?」
「ああ、重かった」
「………」
「…冗談だって」
「だったらよろしい」

起きたのなら自分でシートベルトを装着できるだろうと笹塚が身体を離そうとすると、ぐいとスーツの前面を引っ張られる。

「トリック・オア・トリート」

突然発せられた耳なじみの無いその言葉に、笹塚は目を見開いて小首を傾げる。
名前はそんな笹塚の様子を見てふにゃっと笑った。

「お菓子をくれなきゃいたずらしちゃうぞ?」
「ああ…ハロウィンな……俺、菓子なんて持ってねーんだけど」
「じゃあいたずら」

まだ酔っているのだろうか、人通りは少ないとはいえ路上に停めた車の中で名前は笹塚の首に腕を回し伸び上がって唇を重ねてきた。
唇から、名前の好きな白ワインの香りがする。
くらりときたのは強いアルコールのせいだろうか、名前のとろけるような唇のせいだろうか。
身体は火照っているのに、唇から伝わる熱はゆるやかで甘い。
脳の芯から揺さぶられるような中毒性がある。

「…酔っちまいそうなんだけど」
「え?そんなに飲んでないよ?」
「嘘つけ」

笹塚はバレバレの嘘を吐く恋人に苦笑いしながら、酔いをうつされないうちにさっさと自分の家に連れ込もうと、自制心をかき集め名前から身体を離した。





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