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企画
夏祭り2015(土方夫婦)

※土方短編に入ってる「夏祭り2014」の続編となっております
 読んでなくてもだいたい大丈夫だと思います。



夏の長い大雨でずっと延期続きになっていたとある町内の小さな夏祭りが、
秋の入り口に差し掛かった頃にようやく開催のめどが立ったらしく、真選組に知らせが入った。
攘夷浪士達のテロ活動への警戒で、祭りを開催する際には連絡がくるようになっていたのだ。

「屋台の数は減っちまったようだが、見廻りルートは変えなくていいな。俺が隊士数人とこっからこのルートで回るから、総悟と近藤さんはこっちから頼む」
「おいおいトシ、トシはこの日休みを取ってただろう」

初夏の頃に提出されていた書類を出してきて話を詰めようとする生真面目な土方に、近藤が困ったように笑う。

「休みは翌週に振り替えとく」
「それじゃあ名前ちゃんが気の毒だ。トシと一緒に過ごせる日を楽しみにしてるんじゃないのか?」
「名前は真選組副長の女房だ。こんくらい理解してくれるに決まってんだろ。でなきゃ俺の女房なんざ勤まらねぇよ」
「それならトシ、私服警備に回って名前ちゃんと祭りを楽しみながら見廻りするってのはどうだ」
「近藤さん、アイツのこと気にしてくれんのはありがたいが、仕事は仕事だ」
「トシ、そんな意地張ってると、もう俺が名前ちゃん連れて祭りまわっちゃうからね!」
「どうしてそうなる」

眼光を鋭くする土方に、近藤がニカっと白い歯を見せた。

「私服警備で組んでた隊士達の内、その半数を別件に割いちまっててな、祭りの日は人数が足らんのだよ。だからそれを補う為に俺が名前ちゃん連れて……」
「わかったよ近藤さん。そういう理由なら仕方ねえ、俺がやる」

大袈裟に肩をすくめ、仕方なさそうなふりをして土方は懐から出した煙草を口に銜え火をつけた。
近藤は警備ルートが書かれた紙にそれとなく視線を落としつつ「そうか、それなら任せたぞトシ」と小さく笑う。
土方の微かに緩んだ口元は煙草を銜えても誤魔化せていなかった。



「お祭りの見廻りに私も連れて行ってくださるのですか!?」
「ああ、俺は半分仕事だが、名前は普通に祭りを楽しめばいい」
「夢みたいです、十四郎さんとお祭りに行けるだなんて!」

そう言って、名前は無邪気ににこにこと笑うその頬を、おもむろに自分の指でぎゅっとつまむ。

「痛いです!」
「ああ現実だ。よかったな」
「こ、こちらはどうでしょう」

今度は反対の頬を引っ張った。柔らかな頬がのびる。
かなり強い力で引っ張っているようだ。
土方は眉間に若干の皺を寄せつつ、妻の突飛な行動をなんとか黙って見守った。

「やっぱり痛いです!」

数秒間頬を引っ張っていた名前は、ようやくその指を離し、頬をさすりながらふわりと笑う。
じんじんと痛む頬はこれが夢ではないことを名前に伝え、
それが嬉しくて嬉しくて、名前は何度も頬をつねり幸せそうに目を細める。
そんな両手を軽く掴んで止めた土方は、微笑と共に赤くなった名前の頬に唇を落とした。



秋口とはいえ蒸し暑さの残る日となった夏祭り当日。
真夏より日が落ちる時間が早いということもあり、夕方早々に土方と名前は揃って浴衣で夏祭り会場へ向かった。

「十四郎さん、すごいですね! こんなにも人が楽しげに……あっ、あれは!」

涼しげな色合いのしじら織の浴衣を着こなす土方の隣で、初々しく可愛らしい笑みを浮かべながら歩く名前が纏う浴衣は、
白に近い薄い青地のあちこちに大柄の赤い花の咲く可憐なもので、名前にとてもよく似合っていて可愛らしい。

「りんご飴の屋台ですよね、十四郎さんが去年お土産に下さった」
「食うか?」
「はいっ!」

おろした髪に一輪の赤い花の髪飾りを挿した名前が元気よく返事した。
小さなバッグを細い手首にかけ、その手に土方からりんご飴を受け取った名前は、その飴を舐めてとても幸せそうに笑う。
時折名前がりんご飴の口をつけていない面を土方の口元へ近づければ、
土方は何も言わずその表面の薄い飴にぱりりと歯を立てリンゴを齧った。

「美味しいですね」
「ああ」

土方がじっと妻を見つめると、名前が照れたように微笑む。
その仕草に妙に惹きつけられ、土方は視線を逸らし赤らむ頬を誤魔化すようにこほんと咳払いした。

「十四郎さん、もう少しだけお傍に行っても大丈夫ですか?」

言われて気付いたが、いつもなら二人で出かけた時は腕を組んでくるか手を繋いでくるのに、
今日は少し距離を開けてついてきていた。
土方は仕事で来ているのだ、名前なりに気を使っているのだろう。
くっつきたい。けれど夫の邪魔になってはと、健気にも我慢していたらしい。

「ああ。ホラ、手ぇ貸せ」

土方は、りんご飴を持っていない名前の左手を取った。
そっと優しく握ると、名前の濡れたような瞳が笑顔に弾け、にっこりと細められる。

「十四郎さんは私の喜ぶことがまるで全てわかってるみたいですね」
「名前の喜ぶことなんざてんでわかんねぇよ。俺ァただ、自分がやりたいことやってるだけだ」

ふ、と笑って土方は、繋いだ手にきゅっと力をこめる。
名前はりんご飴のように顔を真っ赤に染め、ぽかんと口を小さく開き押し黙ってしまった。

「どうした? 名前」

ひょいと土方が名前の顔を覗き込んだ。
すると途端に「な、なんっ、なんでもないですっ!」と顔をぶんぶん振りつつも、
決して土方の手を離すことなく誤魔化そうとする。
しかし、数秒もしないうちに意を決したように顔を上げた。

「あの、十四郎さん、お願いがあるんです」
「なんだ」
「私の頬を……つねって欲しいんです……」

名前は消えそうな声でそう言うと、小さく首を傾げながら髪をさらりと揺らし、土方をうるうると潤む大きな瞳でひたむきに見つめてくる。
両手が塞がってる為、これが夢ではないか確かめる為に土方に頬をつねってもらいたいらしい。
土方の胸がどくんと大きく脈打つ。
名前と手を繋いでいない方の手を、柔らかな頬へ伸ばす。
指先でそっと触れると、白い肌のきめ細かさと吸い付くような感触に、土方は喉をごくりと鳴らした。

「……夢なんかじゃねぇよ」

土方は胸にこみあげる熱を吐息で逃しつつ、つねるかわりに名前の頬をピンと軽く指で弾いた。



名前「痛くない! ということはこれはやはり夢なのでしょうか!」
土方「………」



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□夏祭り2015。今度は夫婦で浴衣をきて夏祭りへ行く

のリクエストで書かせていただきました!
以前書いた話の続きのリクエストをいただくと、すごくなんというか、はしゃいでしまいます。
それだけその話を気に入ってくださったんだなあと嬉しくって嬉しくって。
もちろん、まっさらなリクエストも幸せですよ!
リクエストいただかなかったらこの夫婦、今年も一緒に夏祭りにこれませんでした。
リクエスト下さった沙月さま、本当にありがとうございました!!

2015年09月17日 いがぐり


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