企画
5,やっと再び二人きり
後片付けや風呂やなんやらかんやらで二人がようやく部屋に戻ってくることができたのは、日付が変わるほんの少し前のことだった。
沖田が歯磨きを終え部屋に戻ると、もうすっかり寝支度を整えた名前が、
小さなちゃぶ台の上に飾った土方の妻からもらった花束を見て微笑んでいる。
「綺麗ですねィ」
「うん、ほんと土方さんの奥さんってセンスあるよね」
「いやアンタが」
背筋をすっと伸ばし、じっと花瓶に生けた花束に視線を落としていた名前の横顔が、沖田の言葉にゆっくりと動いた。
沖田の言葉に珍しくむきになって否定したりせず、じっと沖田を見上げ黙ったまま甘美な笑みをただ静かに浮かべる。
それは息をのむほど気品があり、ぽかんとするほど濃密な微笑だった。
「もうすぐ総悟の誕生日も終わっちゃうね」
化粧を落としたというのに艶やかな名前の唇から、どこか残念そうな言葉がつむがれる。
沖田は名前の横に座り「今日は疲れただろィ」と名前の肩を抱き寄せた。
「疲れたけど、総悟に楽しんでもらえたなら頑張ったかいがあったかな。ね、どうだった? 今日一日」
「起きてすぐ名前を探し回りやした。そんで色気たっぷりの浴衣姿の名前食ってケーキも食って、夜にゃ大勢で流しそうめん大会で土方さんや旦那とバカ騒ぎだろィ
まさかこんな濃い誕生日になるたァ思ってやせんでした」
柔らかな短い笑い声と共に、沖田の頬に名前の唇が押し当てられる。
「素直に楽しかったって言えばいいのに」
「楽しいとはちっと違うかもしれやせん」
「どう違うの?」
「………教えてやんねえ」
唇が触れるか触れないかの近い距離で、しっかりと名前の瞳を見つめたまま沖田が笑う。
そっと名前の頬に手をあてた。
誕生日は終わってしまってもまだまだ夜は長い。
夜の静寂が優しく二人を包む中、沖田は言葉ではなく名前にそっと口付けることで、今日一日自分がどれだけ幸せだったか伝えた。
2015/07/08 いがぐり
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