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企画
3.とっくに満ちていた

湿った肌が畳にぺたりとくっつく感触を今更感じ、ゆっくりと上半身を起こしている途中、ふいに総悟の唇にその動きを阻まれた。
身体を繋げている最中も幾度となく重ねあっていたというのに、今日の総悟は私の唇をこれでもかと求めてくる。

「キス魔みたい」
「いいじゃねェですかい、今日は俺の誕生日だ」
「二人きりの時だけにしてね」
「善処しやす」
「なにそれ」

私の言葉にくすりと笑った総悟は、下げていたズボンをはき直し、私がプレゼントしたベルトをしめた。
今日、ひとつ歳を重ねた総悟は、当たり前だが特に劇的に昨日よりがらりと何かが変わったということはない。
けれど、以前より何気なく見せる微笑だとか視線に透ける、元から持っていた魂の芯が更に強まったように感じるのは、
付き合いだした頃より成熟しつつある逞しさを増した肉体のせいもあるのだろうか。

「そういえばね、あっちの会場にケーキはないんだ」
「へえ、まあ誕生日だからって特別食いてえわけじゃねェし、俺ァガキや万事屋の旦那じゃねェんでケーキなんざ別にどうでも」
「近藤さんがね、ケーキは二人きりでお祝いする時に一緒に食べなさいって。冷蔵庫に入ってるんだ、小さめのやつ買っておいたの。いらないの?」
「そういうことは最初に言いなせェ。アンタが食わしてくれるんなら喜んで食いまさァ」
「甘えん坊」
「こういう俺に惚れてんだろィ」

はいはい、と否定はせず、浴衣を羽織り乱れてしまった髪を下ろす。
すぐさま総悟の指が私の髪の毛を手櫛で整えてくれる。ゆっくりと髪の毛の間を指が通る感触は、優しくて気持ちがいい。

「今食べる? 夜に食べる?」
「今」
「即答だね」
「……もう少しだけ名前と二人きりで居たい気分なんでィ」

瞳を伏せて、少し照れくさそうに自分と居たいと言ってくれる総悟に胸がとくんと大きく鳴った。
流しそうめんの会場へ行ったら、みんなでわいわいと楽しい時間を過ごせるだろうが、
こうやって二人きりで誕生日を過ごせるのはもう、きっと後片付けも終わった後の夜遅くに帰ってきてからになってしまうだろう。
わかった、と言って私は大急ぎで浴衣を着なおすと、冷蔵庫へでケーキを取りに行った。



「どう?」
「甘ェ」
「ケーキだもん当たり前でしょ」

総悟は無表情でケーキをもう一口食べると、ふうと息を吐く。

「あまり好きな味じゃなかったかな、ごめんね」
「そんなこと言ってやせんぜ」
「でもなんだか食べたくなさそうな顔してるから」
「いや、そうじゃねェ」

総悟は持っていたフォークを離し、私に指を伸ばしてきた。
そして親指で私の唇の輪郭をそっと辿るようにして撫ぜる。

「味は不味かねーんですが入っていかねーんでィ」
「え、どうしたの。向こうでつまみ食いでもしてきた?」
「昼から何も食ってねェし、今も名前と運動したから腹ペコですぜ」

そこまで言って、総悟は言葉を一旦切った。
そして情事のときよりも妖艶な表情で、総悟は私を熱っぽく見つめてくる。

「けど俺ァこんなケーキも食えない程アンタに心を満腹にされちまってたらしい」

くすりと、総悟が本当に満たされたような顔で笑った。
目が離せない。今日の総悟はいつも以上に色々と心の内を素直に見せてくれる。

「ケーキ、残しちまってすいやせん。明日にでも食うんで俺の分は冷蔵庫に入れといて下せェ」
「うん、わかった。……総悟」
「へい」
「私も、胸がいっぱいでもう食べられないや。明日一緒に食べよう」
「……って名前さん、もう半分以上食ってんじゃねえか。あと2口くらいしか残ってねェですぜ、こんくらい食っちまいなせえ」
「いいの。満腹なの」

はは、と総悟は今度は子供みたいに楽しそうに声を上げて笑った。




■皆で宴会の後近藤さんの計らいとかで二人っきりでもお祝いできるような沖田くんが幸せいーっぱいなお話

のリクエストで書かせていただきました!
宴会の後、というよりその前にお祝いという感じになってしまいましたすみません!!!
幸せすぎてケーキも食べられなくなる(名前さんはバックバク食べてたけど)沖田さんを書くのは楽しかったです。
こんなですが気に入っていただけたら幸いでございます。
嬉しいリクエストどうもありがとうございました!

2015/07/06 いがぐり

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