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企画
2.二人きりで(+ちょこっと土方夫婦)
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※短編の土方夫婦も出てまいります。
そっちを読んでなくてもおそらく大丈夫かと思いますが、そういうの苦手な方はすみません。
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「うわ、マジでやってらァ」

夕方。外は18時にさしかかろうとしているにもかかわらず、まだ明るい。
沖田の誕生日を祝う為、特に本人が希望したわけでもない流しそうめん大会をやると当日の朝言い出したのは、真選組局長である近藤勲だった。
その会場だという近所の広場にぶらりと顔を出した沖田は、その気合の入った会場を見るなり一言冒頭の言葉を漏らし、直後ふっと微笑んだ。

「おう総悟!」

近藤が何故かふんどし姿で広場の中央から沖田に向かって手をふっている。
そして沖田の姿を見て、不思議そうに口を開いた。

「今日は休みだろう、どうして隊服なんて着てるんだ?」
「そんな気分だったんで」

上着を脱ぎ腕まくりしているが、沖田はスカーフもベストもきちんと着用している。
話を逸らすように、それにしても、と沖田は呆れたような感心したような顔で周囲を見回す。
ここは夏祭りの会場かと思うほど見事に雰囲気が出来上がっていた。

頭上にはちょうちん、長テーブルの上には女中達の作ってくれたてんぷらやから揚げ、おにぎり、枝豆をはじめとしたつまみの数々、そして酒などが乗っている。
どうりで名前が朝からバタバタ忙しそうにしていたはずだ。
前から準備しておくならまだしも、いきなりでこれらを用意するのはさぞ大変だったに違いない。
そして一際目立つのが中央に設置してある竹の流しそうめん台だ。
大きい、そして長い。脇の台には山ほどのそうめん。
隊士達が童心に戻ったような顔つきで楽しそうにセッティングしている。
女中達は料理を作った後は、通常業務をすませるなりこの会に自由に参加してもらっているのだろう。
全員はきていないようだが、若い女中が意中の隊士の横で何か手伝ったり、女同士笑いあっていたりする姿が見えた。
この広場は住宅街からはずれているので、夜まで騒いでいても迷惑にはならないだろう。

「まさか本気でやるたァ」
「昔、武州に居た頃に一度やったことがあっただろう。総悟がトシと競い合うように食べてた姿を思い出したらどうしてもやりたくなってな」
「そんなことありやしたっけ」
「最後には取っ組み合いになってそうめん台を壊して、ミツバさんに叱られてたぞ」

近藤は太陽のように明るい顔で力強く笑う。
道行く人たちが、広場で何をやってるんだと興味深げに覗いてくるが、
中で動いてるのがあのチンピラ警察の面々で、しかも一匹のゴリラがふんどし姿で堂々としている姿を見て皆早足でその場を去っていく。

「そういや名前見ませんでした?」
「ああ、名前さんなら一度部屋に戻って着替えてから参加するそうだ」
「行き違いになっちまったか。近藤さん、俺ァ名前迎えにいってくるんで適当にはじめてて下せェ」
「ああ、食い物はたくさん用意してもらったから、少しくらい遅れても大丈夫だぞ」

すまんな、朝から二人きりでいる時間もなかったろう、名前さんとゆっくり来い。
そう言って、近藤は沖田を快く送り出してくれた。



ズボンのポケットに手を入れ今来た道を戻っていく途中で、沖田はばったりと見知った顔に出会った。
土方と、その横に並んで歩いているのは、今にもスキップしそうなくらいにこにこしながら小さな花束を持っている土方の妻だ。
「あらっ!」と沖田に気付くなり更に眩しい笑顔になる。

「沖田さん、こんばんは」
「ああ、どーも」

妻が自分以外にかわいい笑顔を向けることが面白くないのか、土方は口をへの字にして腕を組んでいる。
そんな土方の袖を引き、今ですよね? と小声で土方の妻がすがるような眼差しで夫である土方を見上げた。
土方がそんな妻を可愛くて仕方がないという目で笑って微かに頷く。

「おっ、お誕生日おめでとうございますっ!」
「あーどーもありがとうごぜーやす」

土方の妻は土方とお見合い結婚するまで滅多に外に出してもらえなかった世間知らずの箱入り娘だと聞いている。
同じ年頃の知り合いの間でこういう言葉を交わすのははじめてなのだろう。
物凄くわたわたと「十四郎さん、言えましたか!? 私、ちゃんと言えましたよね」と
片手で口を隠しながら顔を真っ赤にして土方に助けを求めるように見上げていた。
「上出来だ」と土方に褒められ、目を潤ませながら土方の妻は安心したように笑う。そして

「これ、沖田さんにプレゼントです!」

そう言って、持っていた花束を沖田に差し出してきた。
面食らう。鮮やかな黄色の小型のひまわりに、濃いオレンジのバラ。
女ではないのだ。花などもらってもどうしていいかわからない。

「よろしければお部屋に飾っていただけたらと思いまして。名前さん、お花がお好きでしょう」

ああ、そういうことかい、と沖田は目元を緩ませる。
花を見ても心は動かないが、花を見た名前が、綺麗だね、と顔を綻ばせる姿なら別だ。
どーも、と短く礼を言い花束を受け取る。

「お誕生日パーティー楽しみです。私までお招きいただきありがとうございます」
「俺が呼んだんじゃねーですけどねィ」
「つーか総悟、どこ行くんだ。会場はこっちだぞ」

土方が指で広場の方を指し示す。

「名前を迎えに行くんでィ」
「さっさと連れてこねェと食うモンなくなっちまうからな」
「そん時ゃピザなり特上寿司なり出前してもらいまさァ。もちろん支払いは土方さんの財布からで」
「誰が出すか」
「奥さん、知ってやすかィ。誕生日の人には何でも奢ってやんなきゃなんねー決まりがあるんですぜ」
「しりませんでした!」
「嘘教えんじゃねえよ」

ったく、と土方は妻の頭にぽんと手を乗せると、
「本当に御馳走してさしあげなくてもよろしいのですか?」と心配する妻に、沖田の冗談を真っ赤な嘘だと説明しながら広場へと向かっていった。
沖田も花束を片手に歩き出す。
数分で屯所につくと、真っ直ぐ自室へ向かった。



外は広場に居た頃に比べたらほんの少し薄暗くなってきていた。
ほとんどの隊士、女中が広場へと出払っているようで、屯所には人の気配があまりない。

「名前さーん」

一声かけて自室へ足を踏み入れる。

「わっ、驚いた。もう向こうへ行ってるのかと思ってたよ」

沖田を振り返った名前からは清潔な石鹸の香りがする。シャワーを浴びたのだろう。
女中の着物はすでに脱ぎ、さらりとした浴衣姿になっていた。
それは黄緑色に白の輪郭で牡丹唐草が描かれた浴衣で、清楚な大人の佇まいに沖田は言葉も忘れて見惚れてしまう。

「この前衝動買いしちゃったんだこれ、どう?」
「悪くねェですぜ」
「後は髪飾りをどうしようかなーって思ってて」

テーブルに並べた立体的なふわりとした様々な色の髪飾りを前に、名前は正座してうーんと唸っている。
ひとつに纏めた長い髪。無防備な白い首筋が沖田を誘っているかのようだ。
沖田は名前の真後ろにどっかり腰を下ろし、名前を後ろから抱きしめる。
耳元に唇をあてながら名前の手を取り、持っていた花束を渡した。

「可愛い、どうしたの花束なんて」
「土方さんとこの奥さんにもらったんでさァ」
「さっそく花瓶に飾ろうか」

沖田の腕の中から抜けようとする名前を「まだいいだろィ」と言って腕の力を強めた。
ふと思いつき、花束の中の一本、濃いオレンジのバラの花を抜き取る。棘は綺麗に取られていた。

「名前、こっち向きなせェ」

身体をねじるようにして沖田の方を向いた名前の形の良い耳の上に、挟むようにしてそのバラを髪に挿す。
生花の持つ美しさが、思った通り浴衣にも髪型にもしっくりと馴染み、今夜の名前によく似合う。
『似合う』とも『いい』とも言わず、沖田は名前を見て小さく頷きながらただ静かに微笑んだ。
沖田のその表情に、名前の頬紅がより濃くなる。

「総悟はどうして着替えたの? 昼まで袴だったよね」

沖田の微笑を間近で受けて、声を上擦らせながら名前は沖田の格好を見て首をかしげる。

「ああ、名前からもらったプレゼント、早くつけてみたかったんで」
「そういうこと」

名前から毎日身につけてもらえるから、とプレゼントされたのは、本革のベルトだった。
あの昼に差し掛かる時間、名前を捕まえた時に、そういえば渡してなかったね、と自室へ駆け込んで持ってきてくれたのだ。

「気に入ってもらえてよかった」

名前の腕が沖田の首に巻きついてくる。
胡坐をかいた腿に座るようにして、名前が唇を重ねてきた。
沖田の手が名前の腰の辺りをゆるりと撫ぜる。
唇を重ねたまま、閉じていた名前の瞼がゆっくりと開いた。
沖田も薄目を開ける。名前の反応をうかがいつつ、沖田は帯の結び目に手をかけた。

「……遅れるよ」
「先にはじめててもらうよう近藤さんに言っときやした」
「主役なのに」
「主役は遅れて登場するもんでィ」

そう言って柔らかく目を細めると、沖田はきちんと結んであった名前の浴衣の帯をその手でゆっくりと緩めていった。




■彼女ちゃんの浴衣姿見てニヤニヤムラムラしちゃう沖田さん

のリクエストで書かせていただきましたー!
ムッツリスケベ気味な沖田さんになってしまいましたが、楽しんでいただけたら嬉しいです。
素敵なリクエストどうもありがとうございました!

2015/07/05 いがぐり

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