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企画
坂田銀時という男(長編銀さん)
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※銀さんとヒロインの息子が出てまいります。
※名前変換の登場人物1の苗字の部分に息子の名前をお入れくださいませ
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いつもきっかけは些細なことだ。
名前の右を歩くのは俺だ、僕だ、プリンを食べた、食べられた、からかった、からかわれた、そんなくだらない理由で
毎日のように銀時とその息子の苗字の取っ組み合いという名の親子の荒々しいスキンシップが繰り広げられる。

「ただいま」

買い物から帰ってきた名前は、いつものように部屋でじゃれあっている二人を見て、ふふ、と肩の力をやっと抜くことができた、というように安心した顔で笑う。
銀時はその笑い声の響きを聞くなり、おやという顔になった。息子のわきの下をくすぐっていた手を一旦止め、愛しい妻へと視線を上げる。
名前の口元は微笑みを浮かべていたものの、目元はどことなく物憂げで、
銀時は母親の元へ駆け寄ろうとする息子の頭に手をぽんと乗せ足止めすると、どっこいせ、と立ち上がった。
そして息子より先にごく自然な動作で名前を抱き寄せる。

「どーした名前、何かあったのか?」
「ううん、なんにもないよ。ねえ、おやつ買ってきたよ。今日はどら焼き」

銀時は、先日も名前が何か考え込むような表情をしていたことを思い出し、今の名前の言葉に若干の違和感をおぼえた。
前の時はすぐにいつもの名前に戻ったのだが、ここまで沈んだ表情はしていなかったことが気にかかる。

「なんもねーこたねーだろ。銀さんが何年お前さんと一緒に居ると思ってんの? 何かあったってバレバレだからね」
「……でもね、ほんとに何もないの。何もないんだけどね、」

名前は言い難そうに視線を泳がせた後、きゅっと銀時の手を握り、決心したように唇を開く。

「あのね、もしかしたら気のせいかもって思ったんだけど……ここ最近、誰かにつけられてるみたいで……」

ずっと悩んでいたのだろう。不安げにこぼす名前の言葉に、銀時と苗字は表情を瞬時に険しくする。
目を合わせて頷くと、二人は玄関へと向かってそっくりなフォームで走っていった。
ガララ、と勢い良く玄関ドアを開け、二人はそれぞれ二階から周囲を丹念に見回す。
スナックの前を掃除するたま、通行人、電柱の影には誰もしない。
こちらを見ている不振人物は、さっと見る限り居なかった。

「どっからつけられてたかとか、わかる?」

銀時と瓜二つの顔、表情まで同じの苗字にそう聞かれ、
こういう所も銀さんにそっくりだな、と息子の成長を愛しく思いつつ、名前は力無く首を振る。

「わからないの。でも一人でお買い物に行く時とかに視線を感じたり、同じ歩調ですぐ後ろを歩いてたりして……」
「話しかけられたり、乱暴なことされたりしてねーか?」
「うん、銀さん。それは大丈夫」
「心配しなくていいよ、悪いやつは僕がやっつけてやるから!」

名前の額に安心させるよう唇を落とす銀時を押し退けながら、苗字が「任せてよ!」と言い母親の前に立つ。
それを銀時が横から「ガキの出る幕じゃねーんだよ」と名前の腰を引き寄せ腕の中に閉じ込めた。
わざと背を向け名前を苗字から隠すよう抱きしめ唇を奪おうと顔を寄せていく。
それにムカッと唇を尖らせると、苗字はおもむろにジャンプして両手両足で銀時の背中にしがみついてやった。

「うおっ、危ねーだろ、名前ごと転んだらどーすんだ!」

銀時に振り向きざまにポカリとゲンコツを食らった。しかし苗字は銀時がこれくらいではビクともしないことを知っている。
もっと幼かった頃、父親の背中に揺られることが好きだった。
その背中に表れる信念の通った逞しさを幼いながらに眩しく思っていたことを思い出す。
寺子屋に通う歳になった今では、もう恥ずかしくておんぶなどしてと言う事もできなくなってしまったが、
時折、こうしてどさくさに紛れるようにしがみついてみては父親の大きさを確かめるのだ。
父がいるから大丈夫。心配など何もいらないのだと。

「つーか、重くなったなァ苗字]

背中を丸め、銀時は苗字の腿を手で支えると、そのまま部屋を歩き出す。
しみじみと息子の成長をかみ締めるような銀時の表情と、父親の背中ではにかんだ顔で黙って揺られている苗字を見て、名前は不安になっていたことも忘れ、ころころと楽しそうに笑った。



一人の時におかしな気配を感じるということで、名前が買い物へ行く時は必ず誰かが付き添うようになった。

「変な視線感じたらすぐ教えんだぞ」
「うん」

今日は依頼が午後に入っていたこともあり、午前中に手早く買い物を済ませてしまおうと、二人は手をしっかりと繋ぎ、新八達に留守番を頼み買い物へ行くことにした。
ここ数日、買い物には苗字もついてきたのだが、午前中は寺子屋に行っているため、今回は銀時と二人きりだ。

「お二人さん、今日は二人で手ぇ繋いで買い物かい? 仲良しだねェ」

この町で店を営む者達の寄り合いでもあったのか、立ち話をしていた銀時と飲み仲間でもあり顔見知りの面々が、親しげに銀時たちに話しかけてきた。

「おう。俺の嫁さん可愛いからよォ、どこで誰かに惚れられちまうかわかんねーから心配なんだよ」
「だから一人で歩かせられねえって?」
「そーそー。ところで、最近ここらで怪しい男とか見てねーか? 俺の名前ちゃんがそこらの害虫に付けまわされちゃたまんねーしィ」
「ぎ、ぎんさん、」

銀時に自分のことをここまで言われると、うれしさと恥ずかしさで赤面してしまう。

「うーん怪しい男ねぇ、ここらじゃ怪しい男なんざ山ほど流れ着いてくるからなあ。俺達も商店街の安全対策についてしょっちゅう話し合ってっけど」
「そうそう、真選組だけじゃなく今度万事屋さんにも定期的に見回りしてもらおうつってなあ」
「おっ、まいど。助かるわ、定期収入って大事だもんなァ」
「いやそれは銀さんのツケの回収にまわさせてもらうよ」
「おい、名前ちゃんの前でツケとか言わないでくんない! 怒られちゃうから! まあでも怒った顔も可愛いからたまに見たくなるんだけどね」

ハイハイご馳走様、と居酒屋を営む主人が肩をすくめた。いつも酔っ払っては銀時に妻の惚気を聞かされているのだが、素面でもこうだとは、と呆れたように笑う。
「銀さん、ツケで飲んでるの?」と名前が困り顔で銀時を見上げてきた。
名前のこの顔は、怒っている訳ではなく銀時の身体を心配しての表情だ。銀時は嬉しくてみるみる顔のしまりをなくしていく。

「悪かった、もうしねえよ。……しばらくは」

ええっ、と眉毛を下げる名前を抱きしめ、はーかわいい、たまんね、と、堂々と名前に頬ずりする銀時を見て、
こいつに話しかけるんじゃなかったと、その場にいた面々は激しく後悔したという。



そして銀時と二人、しばらく和やかな笑み浮かべながら買い物をしていた。
そんな名前の顔が帰り道を歩いている途中にふっと強張る。
ほんの少し、離れた場所にあるごみ箱へ銀時が食べていたアイスの棒を捨てに行ったその時のことだ。

ぞわり。

背中を嫌にゆっくりとした気持ち悪さが這い上っていく。いつもは背後から感じる気配が前方から。すぐ目の前からしたのだ。
狭い道には誰も居ない。視線の先にはただ電柱が並んでいるだけだ。っ、と声にならない乾いた音を喉の奥に響かせ、名前は一歩後ろへ下がる。
するとその気配も一歩名前に詰め寄り、名前の前にとうとう姿を現した。

「早く逃げましょう」

本当に、ごく普通の青年だった。困ってる年寄りが居たら助け、コンビニでミネラルウォーターなんかを買い、たまに気が向いたらスポーツでもするような、
そんな取り立てて個性的でもなければ極端に地味でもない、そんな男だ。
けれど名前にはまったく見覚えが無い。言葉を交わしたこともない。
それなのにまるで名前がその男に助けを求めたかのように手を差し出し「逃げましょう」なんて言ってきたのだ。

「夫を……待ってますので」
「あの粗野で貧乏ったらしい暴力的なあの男の元に戻ると言うんですか? 馬鹿なことを言ってないで早く」
「私は夫の良さを知ってます。私が居たい場所は夫の隣です。あなたとは行きません」
「かわいそうに、そう言わされてるんでしょう? 僕の可愛い名前」

自分の妄想を現実だと思い込んだ男の手が名前の腕を掴んだ。
反射的に振りほどこうと手を振っても、男の指は名前の白く細い肌に食い込むように強い力で手首を握ってくる。
「離して!」と持っていた買い物籠で思い切り男の身体を叩くが、次の瞬間男が名前の頬を平手で打ちつけた。
乾いた音が短く響いたその次の瞬間、男がハッとした顔になり「名前になんてことを…許して欲しい」と名前の身体を強引に抱きしめてくる。

「っ、……銀さん、銀さんっっ!!」

叫んだ途端、男の腕が名前の身体から外れた。
鋭い風が名前の髪を揺らす。男の腕の関節がまるでひとつ増えたかのように名前には見えた。
男の上腕骨に向かって真っ直ぐに洞爺湖と彫ってある木刀が突き出され、それによってバキリと骨が折れたらしい。

「俺の名前に何してやがる」

木刀を肩で支えるようにして持った銀時の声は、とても落ち着いていた。しかし、その表情は笑みを浮かべているというのにゾッとするほど冷淡だった。
問いかけられた男は酷い痛みとおそろしさに、口からは子供がでたらめに弾くバイオリンのような耳障りな音しか出せずにいる。

「なァ聞いてんだろ、こたえろよ。大事な嫁さんに何してくれてんだっつってんだコラ」
「ひ、ひィ、」
「ああ悪ィな、その腕」

銀時は笑みをたたえたまま言葉を途中で切ると、木刀により折られてぶらりと垂れ下がる男の利き手とは反対の腕をぺちぺちとぬるく叩く。

「こっちは本気でやってやるから勘弁してくれや。骨が砕けるまでやんねえと、名前に手ぇ出したおしおきがどんなモンか身体と記憶に叩き込めねぇもんな」
「ひ、ひ、ひああ、」
「俺も鬼じゃねぇ、ただ俺がどれだけ名前に惚れてっか教えてやるだけだよ。できるだけ丁寧にな」
「……う、うあ、うああああ!」
「銀さん」

片頬を赤くした名前が、銀時に駆け寄り腰に抱きついた。
男にちらりとも目を向けず、名前は甘えるように銀時を見上げながら言う。

「頬がじんじんしちゃって、治して欲しいんだ。銀さんの手、貸して?」
「名前、悪かった。痛かったろ、俺がちぃとばかり目ぇ離しちまったせいで」

銀時は手のひらで赤くなった名前の頬にそっと触れる。
ふるふると名前は小さく首を振り「私が銀さんにちゃんとついていかなかったからだよ」と銀時の手の上に自分の手を重ねる。

「ね、……消毒もして欲しいな」
「喜んで、奥さん」

指でうやうやしく名前の顎を持ち少し横に向かせると、銀時はその唇を優しく名前の頬に押し当てた。
続いて唇に移動し、ご丁寧に男に見せ付けるように舌も入れる。
男はその光景を、絶望に染まった瞳で見つめ続けた。



「それでそいつ真選組にポイしてきたんだって」

面白くなさそうな顔をして苗字は言う。
苗字の机の周りを取り囲むたくさんの友達は、そんな苗字の話に身を乗り出さんばかりの勢いで次々言葉を投げかけてきた。

「苗字くんのお母さんて綺麗だもんね」
「お父さんも凄い強いって聞いてたけど、やっぱそうだったんだね!」

昨日起こった話を寺子屋で友達に話していた苗字は、
さっきまでは自分も大好きな母に危害を加えた男を許せず、渾身の一撃食らわせたかったと悔しさでいっぱいだったが、
話していくうちに、父のことばかり話していることに気がついた。
いつもは自分と喧嘩ばかりの父のことを、内心尊敬し、みんなに誇りたくて仕方が無かったのだ。

愛する母を傷つける者には容赦しない父。
坂田銀時という男は、坂田苗字にとって母をめぐるライバルであり、こうなりたいと願い尊敬する存在だ。

「木刀を握る手が、かっこいいんだ」

苗字は父の姿を思い浮かべ、素直な笑顔を見せた。



「もう腫れはひいたみたい。銀さんのおかげだね、ありがとう」
「いやいや、念の為もーちょいこうしてようぜ」
「んっ」

ソファに座った銀時は、自分の首に腕を回させた名前をしっかりと横抱きにし、幾度となく頬に唇を落としていた。
名前は銀時と視線を絡めたかと思うと、頬に唇を寄せられては幸せそうに目を閉じる。
瞼をあけるなりすぐ銀時を瞳に映し、ふわりと幸せそうに微笑むのだ。

「銀ちゃん、いい加減にしなさいよ鬱陶しいアルよ」

神楽がすらりと長い足を組み替えて、はあと大げさなため息を吐く。横に座る新八が眼鏡をくいと指で上げていった。

「無駄だよ神楽ちゃん。何より名前さんが嬉しそうにしてるんだから銀さんがやめるはずないじゃないか」
「やめさせるより私たちが席をはずした方が早い、か」
「定春連れて苗字くん迎えに行こう」

新八の言葉にこくんと頷いて同意すると、さらりと伸びた髪を後ろへ流し神楽が立ち上がる。名前を見ていると胸が苦しくて、悔しくなるのだ。
昨日、自分もついていっていれば、名前をあんな目にあわせずにすんだのに、と。

大事な家族である名前が男に頬を打られたと聞き、真選組に乗り込んでそいつを潰しに行こうとした神楽と苗字と新八を止めたのは、この銀時だ。
名前が手首と頬の具合を病院で診てもらっている間に駆けつけて来た三人に、名前の味わった恐怖は必ず俺が消してやるから、と、銀時はしっかり約束してくれた。
だから怒りの矛先をなんとか収めたというのに。

「銀ちゃんのやってること、いつもとあんまり変わらないじゃない」
「まあ、でもそういうのが一番かもね」
「あん」

晴れ上がった空を眺め、二人と一匹は同時に溜息なのか安堵のものだか自分たちでもよくわからない息を吐いた。



 ●奥さんストーカー事件⇒うまい具合に奥さんが一人の時に限ってどこかの男にストーカーされ、
  最初は気のせいかと思ってたけど、やっぱり何か…と悩んでいるのに銀さんが気付き、
  話を聞いて気を付けていたにも関わらず、ちょっと目を離した隙に奥さんがストーカー男に強引に迫られセクハラされ、
  銀さんが本気でキレて男を(銀さんにとっては)軽くボコり真選組にポイ、
  奥さんは今までに見たことがない程怒っている銀さんに驚きつつもちょっとトキメキ、
  最終的には心配だからと言っていつも以上にべったりな銀さんと、そんな彼の行動が嬉しくて仕方ない奥さんを見て
  呆れ気味な新八くんと神楽ちゃん
 ●坂田夫婦(ある意味)近所迷惑事件⇒近所に散歩もしくは買い物に行った坂田夫婦に、
  近所の人達が話しかけ、それをきっかけに銀さんの嫁自慢(ノロケ)が始まり、
  奥さんは恥ずかしげもなく自分の事を人に自慢(ノロケ)する銀さんに照れて恥ずかしいなと言いつつ嬉しそうで
  最終的には近所の人達の前で「はいはいご馳走様」「もうコイツらに話しかけんのは止めよう」
  ってなるくらいイチャイチャするお話し
 ●そっくり親子⇒数年後、大きくなった息子と銀さんが毎日子供のように奥さんを取り合って喧嘩しつつも、
  何だかんだでお互いにそのやり取りを楽しんでいて、そんな二人を奥さんは微笑ましそうに嬉しそうに見つめ、
  奥さんのピンチ(ナンパされるとか)の時は息ピッタリに相手を叩きのめすそっくり坂田親子のお話し
 ●坂田家長男の自慢⇒数年後、寺小屋に通うくらいの年になった息子が周りの友達に
  「お母さん綺麗でいいな」「お父さん凄い強いんでしょ?」等と言われて嬉しくなり、
  大好きなお母さんと、ある意味ライバルでムカつく事もあるけど
  実は尊敬しているお父さんを友達に自慢するお話し

のリクエストで書かせていただきました!一部分書ききれなくてすみません!
神楽ちゃんと新八くんは、映画の五年後の姿を想像して描きまして、あんまアルアル言ってないですけど、
まあそんな感じに成長したんだなということでひとつよろしくお願いいたします。
楽しく書かせていただきました。嬉しいリクエストをどうもありがとうございました!!

2014/05/01 いがぐり

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