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企画
お約束(長編銀さん)

「大江戸プール、今カップルで行くと料金が半額になるみたいだね」

名前はそう言って読んでいた新聞の広告を手に取ると、向かい側に座って落ち着いた仕草でお茶を飲む新八達に満面の笑みでそれを見せた。

「あ、そうらしいですね、テレビでもやってましたよ。名前さんも銀さんと一緒に行って来たらどうです?」
「みんなで行こうよ。ほら、新八くんと神楽ちゃんだってそうして並んでたら可愛いカップルに見えるじゃない?」

名前の言葉に、新八の横に座る神楽がパッと反応する。

「ヤメてヨ名前、私は童貞眼鏡なんかとカップルなんて死んでも思われたくないアル!」
「失礼だな!!」
「でもプールは行きたいネ」
「それじゃあ入る時だけ僕と名前さん、銀さんと神楽ちゃんの組み合わせで……

名案だとでも言うように、新八は人差し指をピンと上へ伸ばし喋りだす。
しかしそんな新八の発言は、ジャンプから顔を上げた銀時によって途中で唐突に遮られた。

「駄目だ。バッカじゃねぇのぱっつぁん、名前と新八? それ彼氏じゃなくて水着きた眼鏡ですよって言われんのがオチだろうが」
「水着きた眼鏡ってなんだよ!!!!」
「なにって、そのまんまの意味だけど」

なー名前、と銀時は同意を求めて隣に座る名前の肩を抱き寄せる。
新八の怒涛の突っ込みをハイハイとスルーしつつ唇を名前のこめかみに押し当てながら、名前の持つ新聞のチラシに目を落とした。
「屋台もたくさんあるみてーだな」と何気なくこぼした言葉に、屋台!と神楽がぴょこんと飛び跳ねる。

「しょうがないアルな、今回だけは私が眼鏡の持ち主になってやってもいいアルよ」
「持ち主ってなんだよ持ち主って」
「わあ、嬉しい。ねえねえいつ行こうか」
「明日がいいアル! どうせ明日も暇ネ! ちょうどよかったアルな、明日も依頼入ってなくて」
「神楽ちゃんそれ喜んでいいのかな」
「あっでも大変!!」
「どうした名前」
「私、そういえば水着持ってない……!」

その事実に気付いた直後、今までにこにこしていた名前の顔が、途端に落ち込んでしょんぼりとしたものになった。
銀時は名前の顎をゆびですくい上げながら、安心させるように笑う。

「買ってやるぜ水着くらい」
「そんな、せっかく安く行けると思ったのに、買うにしてもレンタルにしても結局お金使うことになっちゃうよ……ごめんね、今回は私お留守番するから三人で行ってきて」
「コラコラ、またなに遠慮してんだか。名前の為に水着一枚買うくらいどってことねえっての」

銀時の言葉に「でも……」と言いつつ、名前は眉を下げすっかり申し訳無さそうに肩を落としたままだ。
そんな名前を、神楽と新八が交互に励ましだす。

「銀ちゃんの言う通りネ、一枚や二枚や三枚くらいどってことないアル! 夏になったら皆でプール行ったり海や川に行くアルよ、今のうちに買っておいたほうがいいネ!」
「そうですよ、どのみち必要なものを今買うだけじゃないですか」

二人に励まされ、名前は伏せていた瞳をゆっくり上にあげる。
こういう時、それぞれの目には見えなくても空気の中に確かな優しさが存在してるのがわかる。
名前は嬉しそうに「ありがとう」と微笑みをたたえた瞳を柔らかく二人に向けた。
そして「銀さんも、ありがとう」と唇で銀時の頬に軽く触れふわりと笑う。

「うっし名前、そんならこれから買いに行こうぜ」

立ち上がり、銀時は名前に微笑みかけながらすっとその手を差し出した。
名前は「うん!」と元気良く返事すると、銀時の手に自分の手を重ねる。
銀時の大きな手が名前の華奢な手を握り、しっかり立ち上がらせた。
もうそのバカップルっぷりに突っ込むのも飽きたという表情の新八と神楽の目の前で、
銀時は目の前ににこにこと立つ名前の唇にゆるく唇を重ねてから、その背中を抱き寄せ大事そうに胸の中へと閉じ込める。
早く行け、と新八と神楽の心の声がハッキリ聞こえた銀時が、二人にニタリとした笑顔を向けると、
いま一度、今度は見せ付けるように名前に深く口付けた。

直後、テーブルに置いた銀時のジャンプと新八が飲んでいた湯飲みが神楽と新八によって投げつけられ、
銀時の頭に見事にカコンとクリーンヒットした。



まだ冬が過ぎ春になったばかりとはいえ、ここ最近大江戸プールなどの室内プールが人気を集めているからか、
デパートの水着コーナーにはピーク程ではないにせよ、割とたくさんの水着が売られていた。
銀時と名前は、背中合わせで別々のハンガーラックにかかる水着からよさそうなものを選ぶ。

「何か気に入ったのあったかー?」
「たくさんありすぎて、よくわからなくなっちゃって」
「銀さん的にはこれとこれなんか名前に似合うと思ったんだけど」

どれ? と名前は嬉しそうに銀時の方に振り返った。
銀時の両手にそれぞれ持たれた水着を見て、すぐに花がほころんだように笑う。
銀時が選んだ水着はどちらも名前が好みそうなワンピースのようなデザインのもので、名前のイメージをそのまま水着にしたかのような清楚で可愛らしく、しかも上品なものだった。
片方はピンクを基調にした女性らしい花柄。
もう片方は水色を基調としたもので、ふわりと広がるスカートに紺色のリボンが大人っぽくデザインを引き締めている。

同じハンガーラックにかかっている、派手な柄の肌がかなり露出するようデザインされた大胆な水着や、
その場にあるものを適当に手に取った、などではなく、
銀時は本当に名前に似合いそうなものを、名前の視点で選んでくれたんだと、名前はそれだけで胸が一杯になった。

「どっちもかわいいなあ。こういうの大好き」
「だと思った。でも俺に遠慮せず、色々見て選べよ。もっといいのがあるかもしんねーぜ」
「ううん、銀さんが選んでくれたのがいい。どっちにしようか迷っちゃうけど」

そーさなァ、と呟きながら、銀時は名前の身体に水着を交互にあて、目を細めた。
「こっちか? いやいや、こっちもいいよなー」などとしばらくぶつぶつ独り言を呟く。
名前がはにかみながらそんな銀時をただただ見つめ続けていると、銀時がそれに気付き水着から顔を上げて名前の顔を愛しげに見つめ返す。
その眼差しだけで名前の心はどこまでも満たされていくのを感じた。

「なんだったら二着買うか」

二人の間にたゆたっていた幸せな空気を分かち合う沈黙が、銀時のゆったりとした言葉でそっと破られた。
名前はその言葉に、首をすごい勢いで振る。

「そんな、いいよいいよ、ちょこっと待ってね、私も考えるから」

そう言って、名前は右と左、視線をゆっくりと行ったり来たりさせながら唇を軽く噛んで考える。
時折、時間かかっちゃってごめんね、と心配そうに銀時を見上げるが、銀時はただ口元を緩めたまま
「じっくり選べよ」と名前に言うのだ。
そして名前が真剣に選んでいる姿を、楽しげに、見飽きることなくじっとその瞳に映す。

「ん、決めた。この綺麗な水色の方にする」
「いんじゃね? 試着してこいよ。つーか両方試着すりゃいいじゃねーか」
「あ、そうだね、でももうこっちがいいなって思ったらこっちしかないってわかったの。だから水色だけでいいんだ」

名前は銀時から水着を受け取ると、試着室を探すように首をきょろっとまわす。
そんな名前の背後から、甘えるように銀時がくっついてくる。

「なあ名前ちゃん、銀さんも一緒に試着室に入ってやろうか」
「そういえば、神楽ちゃん水中眼鏡が無くなっちゃったって言ってたよ。試着中に選んであげてくれるかな?」

そう名前に可愛らしくやんわりと言われ、銀時は「ったく、なんで無くすかね神楽のヤツ」と唇を尖らせた。



名前が試着しサイズを確かめてから売り場へ戻ると、袋を小脇に抱えた銀時が壁にもたれかかって待っていてくれていた。

「銀さん、お待たせ。サイズぴったりだったよ。あれ、その袋」
「ああ、俺も買ったんだよ水着」
「そうなんだ、神楽ちゃんの水中眼鏡は?」
「名前のそれと一緒に払おうと思ってよ」

銀時が差し出した手に「ありがとう」と試着し終えた水着を乗せる。

「私にばかり時間取らせちゃってごめんね」

脇に挟んだ銀時が買ったという水着の入った袋を見て、ちゃんと吟味して選べたのだろうかと名前は瞳を曇らせる。
銀時も新しい水着が欲しかったことを知らなかったとはいえ、
自分にばかり時間を使わせてしまったことを、名前は申し訳なく思った。

「その水着、ゆっくり選べなかったでしょう。もしよかったらまだ時間たくさんあるし、もう少し見ていかない?」
「あーいいのいいの、ちゃんと選んだから。かなり銀さんの好きな感じのやつだから」

銀時の表情を見るに、それは名前を気遣ってるだけではく、本当に気に入っているようで、名前はそれならよかった、と小さく笑う。
じゃあ買ってくらァ、と銀時は名前の頭を大きな手のひらでひとなですると、レジへ向かって歩いていった。



夜、わいわいと翌日のプールへ行く準備をした後、じゃんけんに買った神楽が一番風呂へ鼻歌交じりに向かった。
それを待っていたかのように、銀時がにやにやといやらしくだらしない笑みを浮かべ「これこれ」と和室で布団の準備をする名前の目の前で袋を揺らす。

「あれ、それって銀さんが新しく買った水着だよね、まだ入れてなかったの?」
「誰が俺の水着だっつったよ。これは名前ちゃんの水着ですゥー。ただし銀さんの前だけで着て貰うモンだけどな」

畳の上に正座して顔中をはてなマークでいっぱいにする名前に、銀時は「じゃじゃーん」と言いながら袋の中からそれを取り出した。
それは名前が選ばなかった方の花柄の水着、ではなく、普通のものよりかなり面積の狭いセクシーな、マイクロビキニというものだった。
名前はきょとんとそれを持ち上げしげしげと見つめると、何の曇りのない純粋な笑顔で銀時に口を開く。

「銀さん、サイズ間違えてないかな? なんだか小さいし、これきっと子供用だよ」
「いやいや、これちゃんと大人用」
「え、本当? すごい、でもこれ、ほとんど胸もお尻も出ちゃうんじゃ……」
「名前ちゃん、風呂で着てみせて」

心なしか、銀時の鼻の下がのびているように見える。
この水着は、プールで着る為の水着などではない。銀時は睦事の為にこれを名前に着せようとしているのだ。
名前はようやく銀時の意図に気付き、泣きそうな顔で頬を赤らめ、後ろに手をつきさりげなく銀時と距離を取ろうとする。
しかし銀時は、そんな名前の行動などお見通しとでもいうように、四つんばいになって名前に迫ってきた。

「こんな恥ずかしい水着、着れないよ、動いたらみ、み、見えちゃいそうだもん!」
「バカヤロー、それがいいんじゃねーか!!」

銀時は水着売り場でしたように、マイクロビキニを瞳をうるませる名前の着物の上に乗せ、にやりといやらしく笑う。

「ぎ、ぎんさん」
「こっちも似合ってるぜ名前」

銀時は獲物を狙う獣のようにちらりと舌で自分の上唇を舐めた。
その仕草に、その瞳に、名前はぞくりと欲情する。
そんな名前に畳み掛けるように、銀時は囁くように甘く、情欲をそそるような声で、名前、と呼んだ。
互いに色付いた視線が絡み合う。名前の吐息がふるえた。

「着てくれるよな?」


耳をそろりと舐め上げられ、名前はとうとう小さく頷いた。



■ちょっと落ち込んでる長編ヒロインをみんなで元気にしてあげる
■みんなでプールに行くことになって、水着を持っていない主人公の為に銀さんが選んであげる甘いお話

のリクエストで書かせていただきました!
ずるずると長くなってしまってごめんなさい。書くのがとても楽しくて止められませんでした。
あと新八くんはほんと、いつか脳の血管が切れてしまわないか心配になりますゴメンネ新八くん。
リクエスト、そして読んで下さってどうもありがとうございました!

2015/04/21 いがぐり

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