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企画
カチューシャの似合う男(藤)
「もうすぐハロウィンだから、ハデス先生はきっと私達にそれ用のお菓子をいそいそと用意しているハズ!」
「ねーよ。あのハデスだぜ?そんなイベント知らねーんじゃねーの。いつものだっせー茶菓子だけだって」

二人して煎餅をボリボリとかじりながら、テーブルの上に広げられた宿題には全く手を付けずだらだらと過ごしていた。
出された宿題の多さを理由に藤が名前を家に誘ったのだが、その宿題が一向に片付けられる気配は無い。
藤は漫画に目を落としつつ平静を装い注意深く名前を観察するものの、名前の方は学校での時と全く同じ態度で、意識しているのは自分だけなのかと内心ガッカリしていた。
一応付き合っているというのに、この緊張感の無さはなんだと藤は思う。
いつまで経っても友達の域から恋人同士の甘ったるいぬかるみへと一歩でも踏み出せる気がしない。
この、アホのせいで。

「皆で仮装して保健室行ってハデス先生に“お菓子くれなきゃいたずらしちゃうぞ!”ってやろーよー」
「ぜってーヤダ」
「藤くんは狼男がいい?それとも魔女?」
「なんで魔女なんだ」
「なんか美しそう」
「もうお前口閉じてろ」
「ネコミミもきっと似合うよ!」

名前はカバンの中をガサゴソと探り、笑顔と共に藤の目の前へ差し出したのは、黒いネコの耳とリボンやなんやらがついたカチューシャだった。
眉間にシワを寄せる藤にお構いなく、そのカチューシャを付けようと名前が笑顔でにじり寄ってくる。

「アホかお前!」
「確かに私はあほですよ?」
「開き直るなバカ」
「安心して、絶対に似合うから」

尻餅をついた姿勢でじりじりと後ずさる藤の開いた足の間に、名前がするりと猫のようなしなやかさで入り込んできた。
見上げ気味の瞳に藤の心臓が跳ねる。
ごくりと喉を鳴らす藤が抵抗しないのをいいことに名前は膝立ちすると素早く藤の頭にカチューシャを付けた。
そのまま黙って指で耳元の髪を整えだす。

「………」

白い指が耳朶に触れるとくすぐったさとは別のものが湧き上がってくる。
名前の細い手首をやんわり掴む。
何か言いたげな視線。
どちらからともなく瞼を閉じ、唇を重ねた。
柔らかで瑞々しいその唇の感触に、藤は頭にネコ耳カチューシャを付けてることも忘れキスに没頭した。





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