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企画
前菜(土方)

「いらっしゃいませ土方さん!」
「……ここは何の店だコラ」

玄関先でいきなり土方さんに困惑した顔をさせてしまい、私は身体がかたまった。

「すみません、き、緊張してまして」
「見りゃわかる」

そう言って微笑んでくれた土方さんに、どうぞお上がり下さいとスリッパを出した。
一週間ぶりの土方さんだ。ここにくる直前に吸っていたのかな、近くに寄ると煙草の香りがする。

「こちらへどうぞ」
「おう」

信じられない、土方さんが私の家にきてるだなんて。
二週間前、ただの顔見知り程度の仲だった土方さんにお付き合いを申し込まれた時も相当驚いたのだけど。
隊服ではなく胸が大きくあいた着流し姿の土方さんが、用意しておいたカバー洗濯済みの天日干しだってバッチリしたふかふか座布団に腰を降ろしてる姿をじっと見つめる。
今までの幸せすぎる展開は私が片思いこじらせすぎて見てる夢の妄想などじゃない。
目の前に、土方さんはちゃんといる。だからこれは現実なんだと頭の中ではしっかり把握できてるはずなのに、
この光景がやっぱり信じられなさすぎて脚ががくがくしそうになる。
今私、相当おかしいです。

『名前の家に行ってみたい』と土方さんに言われたのは先週だ。

掃除はその直後から毎日床から天井まで完璧に磨き上げたから大丈夫なはず。
煙草も買いました!(どれだけ吸うかわからないのでワンカートンほど)
お酒も用意しました!(何を飲むかわからないのでビール日本酒ウイスキーワインにブランデーにシャンパンやラム酒や一応ノンアルコールも)
おつまみも!(チーズに焼き鳥にたこわさにイカの塩辛に好みがわからないからエスカルゴのオーブン焼きまで作りました。見るのも触るのもはじめてでした)
マヨネーズは手当たりしだいに売ってるもの全種類かってあります!

こ、ここまですれば大丈夫だよね。
土方さんはあの真選組の副長さん。毎日大変なお仕事をされてお疲れなので、
恋人(なりたてほやほやですが)の家に来たときには心からくつろいでいただきたい、というか、
土方さんが家に来るというだけでソワソワしてしまって居心地の良い空間を作らなければと必死だった。

「しっかしまァ……」
「は、はい!?」
「綺麗好きなんだな、名前は」
「いえいえ、とんでもない!」
「料理もうめえ。マヨに合うモンばっかじゃねえか」
「どうもありがとうございます!」

ありがとうエスカルゴ!!!ブルゴーニュ万歳!!!

「お前も飲めよ」
「あ、はい、では少しだけ」

お酒を身体に入れると、少しだけ緊張感が和らいだ。
土方さんと目が合って、えへへ、と笑う。ふっと切れ長の鋭い眼が柔らかく細められ、心臓がドキドキした。

「煙草いいか?」
「はい!」

今日の為に買っておいた陶器の灰皿と煙草を差し出せば、土方さんは驚いたような顔になる。
うあああどうしよう、この灰皿お気に召さなかったのかもしれない!
もっとこう、キラッキラした激しく重い殴られたら即死しそうなクリスタル製の灰皿とかの方がよかったかな!?

「名前は煙草吸わねぇよな、わざわざ買って用意してくれたのか?」
「はい」
「………ありがとな」

あれ、と思ったときはもう、土方さんに抱しめられていた。
泣きそう。土方さんの腕の中ってこんなに優しいんだ。
告白してくれたのは土方さんからだけど、多分、好きになったのは私の方が先だと思う。

会える度に嬉しくて、道路を挟んだ向こう側にいてもすぐにあなたを見つけていた。
土方さーん!と嬉しくなって思わず大声で呼んでぶんぶん手を振った直後、自分のその馬鹿さに穴を掘って埋まりたくなったっけ。
でも土方さんは、他人のふりをしたくなってもおかしくない私の行動に、小走りで道路を横切って私の前に立つと白い歯を見せて笑ってくれたんだ。

そんなことを思い出していると、土方さんの顔が目の前にあった。唇がゆっくりと重なってくる。
キスってこんなに腰の力が抜けるものだったっけ……土方さんの唇の動きにあわせて小さく口を開く。日本酒の果実のような香りを感じながら舌を絡めた。
そこで顔が離れ、「やっと力が抜けてきたか」と大きな手のひらが頭に置かれる。

「力、入ってましたか私」
「入りまくってただろ。今日はなんでそんなに緊張してんだ」
「そりゃ緊張もしますって、だって土方さんが家にいるんだもん普通にエスカルゴとか食べてるんだもん」
「エスカルゴはオメーが出したんだろーが」

困ったように笑って、土方さんはまた私の唇を奪う。
腰を抱き寄せられるように、私はゆっくりと土方さんに押し倒された。

「土方さん……」
「もう待てねぇ」
「いやいや、待ってくださいよ。お風呂、お風呂先に入りたいです、お湯も溜まってる頃ですから!」

耳に首筋に土方さんの舌が這うくすぐったさに変に声が裏返りそうになる。
お風呂は土方さんがくるからいれていたというわけではない。
いつもこのくらいの時間にお風呂に入るので、自動でお湯が溜まるようセットしてあるのだ。

「じゃあ入るか。一緒に」
「………マジですか」
「俺は今夜名前を抱く。風呂はその前菜みてーなもんだ」
「お風呂の方が恥ずかしさの度合いが高いと思うのは私だけですか」
「そう言われりゃそうだな。だったら順番逆にしてもいいんだぞ」
「土方さんがおかしい!」

そりゃ名前に惚れてるくらいだからな、
と、喜んでいいのか怒ったらいいのかわからないことを私の着物の帯を解きながら土方さんは言う。

「名前に選ばせてやるよ。風呂、先か後か、どっちがいいんだ?」

太ももをするりと撫ぜられ身体が跳ねた。
少し考えて「ぜ、前菜で、」と上擦った声で何とか希望を伝えた直後、土方さんに横抱きされる。

「先に謝っとくが、前菜でがっついちまったらすまねえ」

お風呂場で何する気ですか土方さん!
涙目になった私は、土方さんにお風呂場に連れ込まれ、
思い返しただけで真っ赤になって瞬間沸騰しそうなことをあれこれされてしまったのでしためでたしめでたし。




■土方さんがヒロインに、一緒にお風呂はいろっていう話

のリクエストで書かせていただきました!
アホに見せかけてエスカルゴ調理するなんてさり気なく女子力高いヒロインにばんざい!
リクエスト下さった方、読んでくださった方、本当にありがとうございました!

2015/04/14 いがぐり


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