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企画
暑さも忘れて(琉夏)
「どーして琉夏くんはいつもいつも遅刻してくるの!」

その言葉に琉夏は柔らかく微笑んだ。
腕を組みぷんぷんと全く迫力の無い説教モードに入っている幼馴染を優しく見つめたまま、琉夏は落ち着いた様子で紙パックのジュースを一口飲んでから口を開く。

「ここ最近、毎晩暑いから。俺ん家クーラー無いからさ、なかなか眠れなくて。涼しくなる朝方に寝られるだけ寝ておかないと」
「学校で寝ればいいじゃない。教室にクーラー付いてるんだから」

朝食代わりだという琉夏の甘ったるいジュースを「飲む?」と勧められ、首を振って遠慮する名前の可愛い仕草に琉夏は目を細める。

「ベッドから起き上がるのが難しいんだ。けどお前が添い寝して、朝になったらチューして起こしてくれるならちゃんと起き上がれる気がする」
「いや、クーラー無しで添い寝って余計暑いでしょ」
「お前となら汗だくになってもいい。むしろ暑いの大歓迎」
「いやー、急に暑くなったよね」
「会話の方向変えようったってダメ。俺のベッドで二人して汗だくになるって話の続き、したいんだけど」
「来週あたりプール行こうよ」
「俺の話、聞く気無い?」
「ううん、聞こえないだけ」

琉夏の軽口を可愛い笑顔でさらりと流し、名前は教室の窓から夏の青空を見上げた。
聞きたくないのだ。これ以上。
本気かどうかわからない、人の心をかき乱す琉夏の意味深な言葉なんて。

「海でもいいな。ばしゃばしゃ水かぶれるところなら」
「学校でもかぶれるじゃん」
「琉夏くん、今日プールの授業なんて無いよ?」
「こっち!」

いつの間に飲み終わったのか、ジュースのパックを潰してゴミ箱に投げ入れ、細い腕を掴んで立ち上がり走り出す。
きょとんとしたまま、琉夏につられて廊下を走った。
琉夏の足が止まったのは、グラウンド脇にある運動部がよく使う水のみ場だった。

「…まさかとは思うけど、琉夏くん」
「コウも呼ぶ?」
「学校で、制服のまま、ここの水を被ろうとか言わないよね?」
「言うよ。ほら、気持ちいい」

蛇口を捻り水をどぼどぼと出し両手でそれを掬うと、琉夏は勢い良く二人の真上に水を放り投げた。
大きな水の固まりはそのまま地面へと落ちたが、放り投げられたことにより散らばった小さな水の粒がキラキラと輝きを放ち二人の頭や顔や肩を濡らした。

「冷たいよ!」

二人してケタケタ笑いながら水で遊ぶ。
なんだかんだ言っても一緒になってはしゃいでくれる名前の笑顔は、小さな頃から変わっていない。
愛しさに突き動かされ、琉夏は名前を腕の中に閉じ込めた。
しっとり濡れた互いの制服。そのすぐ下には滑らかな肌がある。
琉夏くん、と、恥ずかしげに身をよじりその腕から抜け出そうとする名前を逃すまいと更に強く抱きしめた。

「水浴びて寒くなっちゃったから、このままあっためてて」
「うそばっかりー、今は夏だよ」

笑ってはいるが、瞳は琉夏の真意を探るように鋭さを帯びている。
幼い頃にはそんな視線なんて向けられたことはなかった。
ただ楽しくて、大好きで、抱きしめる。
子供のころは当たり前だったそんな行為が大人になると気安くできなくなるのだ。
そんなこと重々承知で、でも名前なら受け入れてくれると、琉夏は名前の唇に、触れるか触れないかのキスをした。

「っ、琉夏くん」
「夏だから、ちょっと開放的になっちゃった」
「もう、なによそれ」

名前は背筋をしゃんと伸ばし、琉夏の両頬を手でパチンと挟みこむ。

「じゃあ私はもっと解放的になってみようかな」

そう言って噛み付いていくかのような勢いで琉夏の唇を強引に奪った。
技巧的でも官能的でもない、それは本当に押し付けるだけの口付け。
だけど琉夏が今まで重ねてきたどの唇より、名前の唇は甘く柔らかに感じた。
唇が離れ至近距離でふっと微笑む名前の笑顔に思わず顔に血が上り口を押さえていた。

「…スゲー」
「夏だからね」

熱に浮かされての行為だと思ってもいい。
言葉にするのが難しいなら態度で表せばいい。
もっとしたい?と首を傾ければ「したい」とストレートに放たれた琉夏の言葉。
再び重ねられた唇に、名前はそっと目を閉じた。



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無記名様リクエスト、バンビと琉夏の切甘甘話でし…た!?
おおう…切ない話って難しいんですね…すいませんすいません切なくなくて本当にごめんなさい!
リクエストありがとうございました!!

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