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企画
いつものような休日(笹塚)


家族という存在を一気に失った日から、食べものの味が美味しいか不味いかなんてどうもでよくなった。
自分を動かせるものならなんでもいい、そんな行為に成り果てていた。
名前に出会う前までは。


「はい衛士、サラダできたよー、運んでくれる?」
「りょーかい」

大盛りのサラダを両手にひとつづつ持つと、笹塚はキッチン中に漂っているニンニクとオリーブオイル、鮮やかなバジル、そしてトマトの香りに、
自分が食欲を刺激されていることに気付いた。

「あと一分で茹で上がるからね」

大鍋の中に菜箸を入れてくるくるとパスタを回しながら、名前が笹塚を振り返る。
今日の昼食は、名前特製のトマトソースのパスタとサラダという簡単なものだ。

「衛士?」

サラダを持ったまま黙って自分を見つめてくる笹塚に、名前は菜箸を持ったまま笑う。
笹塚が何かを言う前にキッチンタイマーの音が鳴り、「あっ」とあわてて視線を鍋に戻した。
シンクにザルを置き、すぐにパスタのお湯を切る。
あらかじめ用意しておいた皿に、茹で上がったばかりのもうもうと湯気を上げるパスタを手早く盛り付け、
温めていたトマトソースをたっぷりかけた。
その一連の作業を、笹塚はサラダを持ったまま微動だにせず見つめる。

「粉チーズかける?」
「いや」

そこ立ってると邪魔! とパスタの皿を持つ名前に言われ、笹塚は名前と共に二人がけのダイニングテーブルへ食事を運んだ。
テーブルの上は片付いているが、周囲はダンボールがたくさん積まれている。
しまいかけの食器、無造作につっこまれたフライパン。
もうすぐ名前はこの部屋を出るのだ。


名前と食事を共にすると、忘れかけていた食事の楽しさを思い出す。
目の前で、幸せそうに口を動かす名前は、弥子のように量を食べるわけではないが、
同じくらい食事を楽しんでいて、見ていて飽きない。

「ドレッシング、ごま油ベースの和風味にしちゃったんだけど、よかった? マヨネーズもあるけど」
「いや、名前のドレッシングでいただくよ」
「とか言って。本当はどっちでもよかったんでしょ。食に無頓着だもんね、衛士は」
「そーでもないけど」

食事中はだいたい名前から話しかけ、笹塚がこたえる。
名前が食事に集中していると、会話が交わされないこともある。
けれど、名前といればそれすら居心地がよかった。
名前がサラダから顔を上げた時、唇が動く前に「塩はいい。ドレッシングの味がいいから」と笹塚がキュウリを口に運びながら言えば、
「よかった」と名前は嬉しそうに微笑む。
キュウリの瑞々しさ、それにかかったごま油と醤油のドレッシングが口の中で風味を増し、美味い、と素直に思う。

「そーいえば、俺がここに来るのも今日で最後か」

すこし寂しげに、名前は頷く。

「ごめんね、せっかくのお休みに荷物の片付け手伝わせちゃって」
「いいよ別に」
「衛士の方はもう済んだの?」
「俺の荷物は少ないから……もう運び終わってるよ」
「はやっ!」
「そういやベッド、もうあっちに置いてあんだな」
「そうだよ、私引越し準備に三日間お休みもらってたから、その間に受け取れるようにしておいたの。ダブルベッドっておっきいよねー、組み立ててもらって驚いた」
「寝相悪い名前でもあれなら落ちねーな」
「多分ね」

もうすぐ二人は夫婦になる。
新居で、家族になっていくのだ。

「変なの。もうすぐ引越しで慌しいのに、こうして衛士と向かい合ってるといつもの休日みたいに思えてきちゃう」

静かに食事を楽しんでいる様子の笹塚を見て、名前が笑った。




■笹塚さんとまったり休日を過ごすお話

のリクエストでかかせていただきましたー!
忙しい中でのまったり、ってなお話になってしまいましたが、
少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。
リクエスト、どうもありがとうございました!!

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