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企画
手の届く場所に(長編銀さん)

名前が一生懸命背伸びして腕を伸ばしても届かなかった棚の上に残っていた最後の小麦粉を、
お菓子コーナーから戻ってきた銀時が、後ろから名前の肩に左手を置き右手を伸ばして背伸びなどすることもなく意図も簡単にひょいと取ってくれた。
わ、すごい、と改めて銀時の背の高さに心をときめかせる名前に、「これか?」と手に取った小麦粉を見せる。

「うん、ありがとう銀さん」
「最後のひとつだったんだな。つーかなんで小麦粉がこんなに売れてんだ?」
「これね、本日の特売品なの。お一人様ひとつまで、お値段はなんと普段の半額なんだよ」
「なるほどなァ」

名前は銀時に手渡された小麦粉を、大事そうにカートに乗せたカゴへ入れる。
その中には何時の間に入れたのだろうか、銀時が持ってきたらしきチョコレート菓子が端の方にさり気なくあった。

「後はお野菜だね」
「使うのは茄子ですかキュウリですか奥さん」
「ん? 今夜はオムライスとカボチャのポタージュにする予定だから、たまねぎとかぼちゃかな」

そんなことを話しながら、二人は野菜コーナーへ向かう。
カートを押しながら、名前は横を歩く銀時にさりげなく視線を向けた。
男らしい喉仏が目に映る。もう少し視線を上げると、口角の上がった銀時の横顔が見えた。
名前は神楽と身長がそれほど変わらないため、銀時との身長差が二十センチ以上あることになる。

「銀さんから見た景色って、どんな感じ?」
「別に、名前とそう変わりゃしねーだろ」

そう言って、銀時は名前を目線を合わせるように悪戯っぽい笑顔で顔を寄せてきた。

「だいぶ違うよ、きっと」

名前は微笑みながら、カートを押していた両手で銀時の頬を挟みこむ。
そんなことをされるとは思っていなかった銀時は、一瞬驚いた顔をしたものの、
名前の両手に頬を挟まれたまま、ゆるやかな眼差しでじいっと名前を見つめる。

「私から見る銀さんはいつもね、遠い位置に視線があってみんなを広く護ってるように見えるよ」
「ふうん、けど俺ァいっつも名前しか見てねぇよ」
「うん、私に視線を合わせてくれる時は、私だけ瞳に映してくれてるってわかってね、すごく嬉しいの。大好きだなって、いつも思ってるよ」

ふふ、と可憐な笑みを浮かべ、名前は銀時の頬から手を離した。

「銀さんから見た名前がどんなだか教えてやろっか」

離れた名前の手を握り、銀時はその手のひらに自分の唇を落とす。
それがくすぐったかったのか別の感覚を呼び起こされたのか、名前が小さく息を吸い、潤んだ瞳で濡れたまなざしを送ってくる。

「そうやって見上げてくる顔、たまんねーよ。笑う顔は最高に可愛いしさ、オメーさんマジでいい加減にしろっつーくらい銀さんの心ん中占めてっからね、名前でいっぱいだから」
「………嬉しい、でも、こんなところで言わないで……だって、抱しめてもらいたくなっちゃう、……あ、」

銀さん、と言いかけた名前の言葉は、銀時の胸の中に消えた。
逞しい二本の銀時の腕で、名前はしっかりと抱しめられる。
数量限定の安売り商品目当てにつめかけていた客はとうにはけていたが、スーパー内の客はゼロではない。
一度ぎゅっと抱しめた後、銀時はすぐに名前から身体を離した。

「やべーやべー、勢いでチューしちまうトコだったわ」
「帰ったらたくさんしようね」

名前はそう言って、銀時の唇に左手の人差し指で触れてくる。
その細い指、薬指に光る指輪、そして名前の顔を切なげに見つめた後、銀時はわざとおどけた声を出した。

「なあ、帰る前によ、たまにゃホテルにでも洒落込んでみねえ?」
「うーん、ごめんね、お買い物たくさんあるし、生ものは早く帰って冷蔵庫に入れないと」
「……俺ァ名前のそーいうとこも好きだぜ……」

恋人達の為のホテルにも小さな冷蔵庫があることを知っているのだが、生鮮食品の入った生活感溢れるエコバックを持ってそんな場所へ行くのは気が引ける。
名前は、少しがっかりした様子の銀時の袖を笑いながら引っ張った。
口の横に手をあて、銀時を可愛らしく見上げながら唇を小さく動かす。
耳を貸して欲しいのだとすぐにわかった。
銀時が腰をかがめると、

「お家に誰も居なかったら、ホテルで銀さんがしたかったこと、しちゃおっか」

と、甘い吐息とともに銀時の耳元にそう囁いてきた。
名前は時々、銀時の腰が粉々に砕けるような事をさらりと言うからたまらない。




「あ、お帰りなさーい」
「お帰りアル!」

名前の手を引き勢い良くズンズンと我が家へと戻ってきた銀時だったが、
玄関を開けたとたんに響いてきた新八と神楽の声に、この世の終わりかとでもいうような表情で、がっくりと膝から崩れ落ちた。





■長編の銀さんとヒロインで買い物中に高いところにある商品を取ろうとするヒロインを銀さんがたすけて…みたいなお話。
■銀さん夢で脳に虫でも湧いてるのかと心配になるくらい甘い話

のリクエストで書かせていただきました!
身長差、ときめきますね!ドキドキしますね!お話を考えるのにとてもワクワクいたしました。
そして遠慮なしに甘くしました。もうこれ以上ないというくらいの糖度です。
胸焼けされていませんように。
リクエストどうもありがとうございました!!


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