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企画
クリスマスの夜は(沖田)

苗字名前。亡くなった両親から引き継いだ小さな小さなケーキ屋を営んでいます。
私は今、真選組一番隊隊長の沖田総悟くんとお付き合いさせていただいてます。多分。

たまにケーキを買いに来てくれる総悟くんに恋をして、アタックして一度は「冗談ですよねィ」と笑い飛ばされました。
しかし私はめげませんでした。本気だと更に猛アピールする日々を送り、ようやく彼女にしてもらえたのが一ヶ月ほど前のこと。
そういえば「アンタしつこそうだし」だとか「まずは奴隷からってことで」とか、
彼は冗談なのか本気なのかわからない表情で、そんなことを言っていた気がしますが、
今では私達、それなりに仲良くやってます。と言いたい所ですが、男女の関係と言うものは難しいもので、
彼氏になってくれた総悟くんの気持ちが私にはさっぱりわからないのです。



「クリスマスのことなんですが」
「ぁあ? もうそんな時期ですかィ。土方さんに俺からのクリスマスプレゼントで天に送ってやる準備しとかねーと。爆薬、足りっかな」

総悟くんが土方さんという方の話をする時はいつも、私と向かい合ってるときは見せてくれない楽しげな笑みを浮かべる。
けれど私の視線に気付くと、すっと表情を消してふいっと横を向いてしまった。

「私達、付き合いだして初めてのクリスマスですよね」
「そう言われりゃそうですねィ」
「総悟くんさえよければたまにはどこかご飯食べに行ったり、夜景見に行ったり、なんてことをしてみたいなあと……」

私の提案に、総悟くんは目をほんの少しだけ見開いた。
いきなり誘って驚かせてしまったのだろうか。

「けどケーキ屋のクリスマスって忙しいんだろィ」

そう言って、総悟くんはきょろっと店内を見回した。
クリスマス時期、うちの店も他の店のようにツリーを飾り、壁や棚やあちこちに装飾を施している。

「普段よりかは忙しいって感じですかねえ、うち小さいのでそれほど予約は入ってないんです」
「ふーん」

その総悟くんの『ふーん』に、面倒だなとか、アテが外れたとか、なんとなくそんな雰囲気に感じてしまい、
お情けで付き合ってもらっている私なんかが、総悟くんとクリスマスを一緒に過ごしたいだなんて、
そんな図々しいことを考えてはいけなかったんだと深く反省した。

「総悟くんが忙しいなら無理にとは……」

そう言いながら、箱に詰めたケーキを手渡す。いつも隊士さん達と食べてるのかな。
イチゴのソースの上からタバスコをかけたケーキは一体誰が食べるんだろう。いつも聞けない。聞いたことがない。
だって、私はこの店以外で総悟くんと会った事がない。
誘われたことも、無い。
時々、ふらりと閉店間際に総悟くんが店にきてくれて、そのまま二階の小さな自室に(両親と住んでいた家は一人では広すぎて売ってしまったので)
なだれ込むようにして身体を繋げ、一言二言会話を交わしてすぐ帰ってしまうから。
だから勇気を出して今回、一緒に出掛けてみたくて誘ってみたのだ。
空振りに終わってしまったみたいだけれど。

「無理、ねェ」
「もしかして土方さんという方と先にお約束がおありでしたか? だとしたらすいません」
「ねーよ気持ち悪ィ」
「……ごめんなさい」

なんだか、怒らせてしまったようだ。
お釣りを総悟くんの手のひらに乗せると、総悟さんはぷいと背中を向け、何も言わず去っていってしまった。

クリスマスの夜は一人きりで過ごすことがたった今、決定したようです。




「そりゃアレだ、オメーさんの身体目当てじゃねーの」
「目当てにされるほどの身体じゃありませんが、やっぱりそうなんでしょうかね」
「冗談だっての、本気で考えんな。つーか名前ちゃんさあ、もしかして床上手ってやつじゃね?」
「私、総悟くんが初めてで、上手か下手かなんてわかりません」
「マジでか」

万事屋さんはにやーっと笑って私を見た。

「まァ、沖田くんも多感なお年頃ってやつだしィ? 付き合いたくもない女とは付き合ったりしねーんじゃねーの、と銀さんは思うね」
「……でもきっと、私が別れようって言ったらあっさり別れることになるんでしょうね」
「おいおい、暗くなんなよ。ったく、あのガンガン沖田くんに向かっていってた情熱一体どこいったー」
「そりゃ情熱も封じ込めますよ。いつも機嫌悪いし、本気で迷惑がられてるのかもしれませんし。身体以外求められたことがないので、もうどうしていいやら」

万事屋さんは、落ち込む私を慰めるように大きな手のひらで頭をぽんぽんしてくれた。
優しいなあ。ちょっとお酒臭いけど。
そのぶっきらぼうな励ましに嬉しくなって、包装が終わったクリスマスケーキの上に焼き菓子の包みを置く。
それに気付いた万事屋さん、私の頭を高速でポンポンポンポンたたいてきたので、現金だなあと思わず笑ってしまう。

「そんなに叩いても、オマケはひとつですよ」
「ちぇ。……やっと笑ったな、おめーさん」
「ありがとう、元気出ました」
「なあ、沖田くんの前でそうやって素直に笑ってな。思うに、オマエさんいっつも緊張してぎこちねー顔になってんじゃねーの?」
「そういわれると、そうかもしれません。だってあんなにカッコいい人、緊張するなって方が難しいですよ」
「まァ、オメーさんらしく頑張れよ」
「はい。ありがとうございました!」

これから神楽ちゃんと新八くんとクリスマスをするのかな。
ケーキをさげて帰るのが照れくさいのか、一杯引っ掛けてから帰るところが万事屋さんらしい。
さあ、今日予約してくれていた最後のお客様に無事クリスマスケーキも渡せたことだし、閉店しよう。
万事屋さんと話せて、少し元気になった私は、シャッターを降ろそうと入り口へ向かうと、そこに居た人物に心臓が音を立てた。

「旦那と随分と楽しそうに話してやしたねィ」

数日前に背中を向けられて以来に会う、総悟くんだった。
薄く笑みを浮かべ、この寒さの中、身体を縮こませることもなく背筋を伸ばして立っている。

「万事屋さんはお得意様なんです」
「へー。ま、そんなことたどーでもいい。とっとと着替えてきなせェ」
「え、どうして……」

頭の中が疑問符でいっぱいの私から、総悟くんが気まずげに目を逸らす。
そして、地面を見下ろしたままその唇をひらいた。

「食事に夜景だろィ。アンタ…………名前の、してーことは」

初めて、私の名前を呼んでくれたことに驚いた。

「で、でも、総悟くんの気が進まないなら」
「進まねーなら最初からこんなクソ寒ィ中くるわけねーだろィ。わかりきったこと聞くんじゃねェや」
「ごめんなさい……」

謝る私に、総悟くんが強い眼差しを向けてきて、うっと息をのむ。
そんな私を見て、ハッとしたような表情になった後すぐに、謝るな、と表情を和らげた。

「……誤解のねーように言っとくが、俺ァ最初からクリスマスにゃアンタと過ごしたいと思ってやした。誘おうと思った矢先に名前に先越されてされてムカつきましたがね」
「それは、えっと」
「夜中しか無理かと思ってた。さすが潰れかけのケーキ屋だ、普通にこんな時間から会えるたァ」
「潰れかけってヒドイ!」
「すいやせん、正しくは人気の無いケーキ屋か」
「それは! ……まあ、事実だから反論できない」

私の言葉に、総悟くんが小さく微笑んだ。
なんだかとても嬉しそうに目を細めている。

「そうやって俺にもっと感情見せなせェ」
「……感情、って」
「付き合う前なんて、ウザくてしつこくて辟易するぐれーだったってのに、それでも俺を惚れさせたアンタが、彼女になった途端になんでィ、気の抜けたコーラみてーになりやがって」

そんな遠慮がちな女じゃねーだろィ、と、白い息を吐きながら沖田さんが呟く。

「私が、うるさかったからしょうがなく付き合ってくれてるんだと思って、だから大人しくしなきゃって……」
「馬鹿か」

むぎゅっと、鼻を思いっきり抓られた。
おそるおそる視線をあわせてみると、総悟くんは私を見てすごく優しい顔をしている。

「女作るのは奴隷作るのと違って面倒くせーし、しょうがなくで付き合うほど俺は暇人じゃねェ。だからもっと堂々としてろィ」

いつまでもあんな態度じゃムカついてたまんねーや、と傷ついたような顔をして言う。
それでわかった。私が変に卑屈になっていたから、総悟くんを傷つけていらつかせていたのだ。
最初から、私らしくしていればよかったんだ。銀さんもそんなことを言ってた。

「……総悟くん、抱きついていいですか」
「嫌」

その瞬間、私の身体は総悟くんに強く抱しめられていた。
その力強さに、色々な感情があふれてくる。
言いたかったこと、したかったこと、今なら言えると思った。

「私、ピザ食べに行きたいです」
「あーそーですかィ。俺ァすきやき食いてーな」
「じゃんけん、しましょう」
「俺が勝ったらすきやきな、負けたらすきやき奢ってやらァ」
「どっちに転んでもすきやきなんてズルい!」

そう抗議する私に、抱しめる力を緩めぬまま私の首元に顔を埋めている総悟くんが、くすりと笑う気配がした。




■沖田でちょっとしたことでクリスマス前に喧嘩しちゃって、サミシマスだなあって思って切ない思いしてたのに最終仲直りしてハッピークリスマス

のリクエストで書かせていただきました!
ちょっとツンツンとした沖田さんを書くのはとても新鮮で楽しかったです。
リクエスト、どうもありがとうございました!

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あきゅろす。
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