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企画
鮮やかな色をした(沖田と年上女中)

つい先日まで、江戸では奇妙な病がはびこっていた。
それは天人がこの地球へと持ち込んできた、犬歯が鋭くなり、しかも吸血衝動に駆られてしまうという病気で、
その病に侵されている数日間は、他人の血が、特に愛しい者の血が欲しくなってたまらなくなるというものだった。
特効薬はないが病気は数日で治ってしまい、一度罹れば免疫ができ二度とかからないもので、
一度爆発的に広がったもののその後すぐに落ち着き、今ではすっかりニュースでも新聞でもその病のことに触れられることはなくなっていた。

十二月も半ばに差し掛かり、世間の感心は今、奇病のことなどすっかり忘れたかのようにインフルエンザへと完全に移っている。
真選組の女中であり、一番隊隊長である沖田総悟の恋人でもある名前も、
そろそろ手洗い場のインフルエンザ予防の消毒液を補充しておかなきゃ、
なんて考えながら屯所の玄関をほうきで掃いていた。そんな時だ

「名前〜〜、血ィくだせェ」

唐突に後方からそんな声がかけられ、え? と振り向こうとすると、見回りに行っているはずの沖田に後ろからがばりと抱きつかれた。
かぷりと首筋を甘噛みされ、名前は何事かと沖田から逃れようと身をよじる。

「なに、どうしたの総悟」
「急にアンタの血が欲しくなっちまったんでィ」
「血? やだもう変なこと言わないで」
「ちょいと前に流行ってた、ほら、惚れた相手の血が欲しくなるっつーおかしな病気、ありやしたよね」
「ああ、そういえばあったね。土方さんの奥さんも罹ってたっていう。なに、総悟がその病気になったって言うの? そんな冗談面白くないから」
「それが冗談じゃ無ェんです。笑えるだろィ」

ニッと笑った沖田の歯並びのいい歯列の、その犬歯を見て名前はギョッと目を見開いた。

「なんか歯が尖ってますけど!?」
「そう。さっきにょきにょきっと」
「あの病気、もう終息してたんじゃなかったっけ」
「知らねェ」

どうでもいい、というように沖田は髪をかき上げる。男の色気を感じる仕草だ。
名前を見つめる沖田の瞳はどことなく鋭い。
血を狙われている、というより、自分を丸ごと求めているというような目つきだった。

「大変じゃない。でも病院行っても無駄なんだよね。薬もないから」
「らしいですねィ。ってことで、名前にしか俺の渇きは癒せねェ」
「渇く?」
「カラッカラにな。水分摂っても治まりゃしねェ」
「私の血が欲しいの?」
「物凄く。あんたの血は鮮やかな色してそうだ。どんな味がするのか、そう考えるだけで欲しくて欲しくてたまらなくなるんでィ」

少し前、散々ニュースで取り上げられていたのでこの病気のことはだいたい知っていた。
愛してる相手の血液が欲しくなる、厄介でわかりやすい病気。
病気になってしまった沖田のことは心配だが、名前は沖田が自分を求めてくれることに、じわりと嬉しさが湧きあがって来る。

「わかった、いいよ。でも貧血になるくらい吸うのはやめてね」
「少し噛んで舐めるだけでィ」
「い、痛いよね」
「手ェ繋いでてやらァ」

言うなりぐいと手を引かれ、名前は持っていたほうきから手を離した。
乾いた地面にほうきが転がる。
そのまま連れてこられたのは滅多に人のこない、薄暗く湿って雑草がはえた場所だった。
そこにぽつりと置いてある、何が入っているか名前も知らない物置の側面に身体を押し付けられ、昂ぶりをそのまま伝えてくるように沖田に荒々しく口付けられる。
唇を離した沖田は、身震いするほど艶のある瞳で名前を真っ直ぐ見つめてきた。

「総悟……大丈夫?」
「いや、もう限界」

興奮を帯びた沖田の吐息が名前の首筋にかかった。

「……っ」

痛みを覚悟して身体を固まらせる名前の首筋を、沖田は一度ぺろりと舐め上げる。
その感覚にふっと力を抜いたその瞬間、沖田の犬歯が名前の首の皮膚に優しく甘く触れた。

「名前、愛してる」

片手は名前の腰に、もう片方の手は名前の震える手を握りながら、沖田は首筋にゆっくりと歯を突き立てた。




■沖田くんで拍手であった吸血衝動のお話。病になるのが沖田

のリクエストで書かせていただきました!
銀さんと高杉さんと土方夫婦はこの病気の話を書いたのに、沖田さんだけ書いてなかったので、気になっておりました。
なのでリクエストいただけてすっごくすっごく嬉しかったです!!
どうもありがとうございました!!とっても楽しく書かせていただきました。


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