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企画
砕けて積み上げて(新名)
「あっ、新名くんだ、おはよー」

耳をくすぐる可愛らしい声に速攻で後ろを振り向くと、元気よく手を振る名前ちゃんが早足でオレの方へと近づいてきた。
軽やかに弾むように名前ちゃんが一歩一歩オレに近寄ってくるにつれ、オレの心臓がトクトクと高鳴り始める。
だけど決して顔には出すまいと深呼吸して一番カッコ良く見える角度で最高の笑顔を出すんださあ行け新名旬平!

「おはよっす。アンタの笑顔、今日もサイコー」

またそんなこと言って…と、はにかみつつふわりと微笑むその顔にくらっときた。
あー反則。朝から可愛すぎっしょ。
サラサラした名前ちゃんの髪の毛に無意識に伸びたオレの手が、横からぐっと掴まれる。

「あー、ニーナくんおはようさん。ね、俺の笑顔も見て。眩しいだろ?目ぇ潰れそうなくらい。いっそ潰しちゃう?」
「新名テメエ朝からニヤけた面してんじゃねえよ」

琉夏さん琥一さんもお揃いでご登校だったんすね…。
うわ、こいつに触んなオーラ半端ねえ。
こんな屈強な男二人連れてても気付かなかったくらいオレの瞳は名前ちゃんに釘付けだということがバレている。

「ね、新名くんも一緒に行こう?いいよね琉夏くん琥一くん」
「そりゃあもう。素敵な登校時間に乾杯だ」
「おめーがそう言うならしょうがねーべ」
「あ…ありがとうございまーす…」

苗字名前ちゃん。
容姿端麗成績優秀頑張り屋さんでかなりの天然。
一部女子からのやっかみも笑顔でスルー。本人はわかってない。
超怖い幼馴染のボディーガードが二人もついてるおかげで、そこらの男子生徒は名前ちゃんを目で追うことしか出来ないがオレは違う!

「そういえば先週話してた備品ってどうしたっけ?足りない備品あったっしょ」
「ああ、まだ買ってないんだ。大迫先生と相談しないとと思って」
「なら買いに行くときオレも一緒にいかせて。もうバンバン荷物持ちに使っちゃっていいからさ」

横の二人を視界に入れることすら怖い…。
けどオレは負けない。オレの名前ちゃんへの想いは殺意のこもりまくった睨みなんかには決してひるまないぜ!

「ほんとう?助かっちゃうな、ありがとね新名くん」

このふわっと花開く朝露に濡れた薔薇のような笑顔!
オレ頼りにさえてる?されてるよな!?

「こんなこと男なら当然だって」
「不二山くんに新名くんも一緒に行くこと言っておくね」
「え…嵐……さんも………?」
「うん、備品買う時は俺も行くからって、柔道部作った頃から一緒に買いに行ってたんだよ」
「へぇー…」
「荷物重いけど、3人だとそのぶん軽くなるから頑張ろうね!」
「…押忍」

ぶふぁっとか盛大に吹き出すのやめてくださいそこの御兄弟。
オレの肩を琉夏さんがぽんと叩く。
振り返るとオレのへこみっぷりを見て桜井兄弟が心底嬉しそうにニコニコ笑っていた。
マジパネェ何この悪魔達。

--------------

我が柔道部の優秀なマネージャーは、オレらが練習中も何かと走り回って雑用を片付けている。
さり気なく皆がそれを手伝うのをいつもは複雑な気持ちで見つめていたけど今日は余裕だ。
オレは静かな自信に満ち溢れている。
何故なら、さっきの組み手の間中、名前ちゃんの視線を一身に感じていたからだ。
なんつーの?ついにオレと気持ちが通じ合ったっつーか?
ちょっとはオレのこと意識するようになってきたってことかも。なーんて。
だけどさっきは組み手に集中できないくらい、名前ちゃんの視線はじっとオレに注がれていた。
オレが名前ちゃんをチラと見ると“もう、集中しなさい”と口をぱくぱくして注意されデレっとした瞬間嵐さんに投げられ組み手終了。
嵐さんまじ容赦ないっすね…。

「名前、新名どうだ?」

がしがしとタオルでワイルドに汗を拭きつつ嵐さんが名前ちゃんに話しかける。
ってか、オレの話…?

「足がやっぱりこうで、こうなってたよ」
「やっぱりか。あん時だろ?」
「そうそうその時!」

おふたりさーん…オレの話すんならもっとわかりやすく喋ってくださーい。

「あのね、新名くんの右足がね、ちょっとクセがあったでしょ?一時期は意識して直ってたみたいだけどまた最近出てきたみたい」
「もしかしてそう嵐さんに言われてオレを見てたとか…?」
「うん。あ、もしかして私のせいで気が散っちゃった?ごめんね…」
「いや、アンタは悪くねーよ。全てオレの雑念のせい」

あーあ、カッコわる。
勝手に浮かれて勝手に落ち込んで。
名前ちゃんはマネージャーとしてオレを見てただけだってのに。
やっぱオレの一方通行なんだなあ。

「新名くん、とりあえずタオルで汗拭いて」

テンションだだ下がりなオレを励ますように、名前ちゃんがタオルを差し出してくれる。
受け取らずに腰をかがめて上目遣いで「かけて?」とおねだりしてみれば、しょうがないなあと微笑みながら首にタオルをかけてくれた。
この距離感!近い!マジ肌スベスベ!目がデケー!顔ちっせー!
さっきまでの落ち込みはどこへやら。一気にテンションが上がる。
「ちゃんとふくんだよ?」と小首を傾げるその仕草、鼻血もんです。
なんかこのやりとり恋人同士みたいじゃね?ももももうちょい顔近付けてみる!?
そんなヨコシマなことを考えていると、名前ちゃんはぱちりと一度二度瞬きし、すっとオレの唇の横に人差し指をちょんとつけてきた。

「え!?」

心臓が、止まった。
時間が、空気が、一瞬二人だけ別の空間へ飛ばされたように、音が止み周囲の景色が飛ぶ。
長いまつげの下の透き通るように綺麗な茶色の瞳は今オレだけを映している。

「汗、口に入っちゃいそうだったから…」

ああ流れてた汗を指で拭ってくれたってワケね。
も少し左にズレてたらアンタの指にキスできたのに。
指先についたオレの汗を自分の首にかけたタオルで拭おうとする名前ちゃんの細い手首を掴み、衝動的にその指を舌で舐めていた。

「っ、…にいな、くん!?」

驚いたその声以上に、自分の行動に驚いた。
慌てて手首を離すと、しどろもどろになりつつ言い訳を並べる。

「ワリ、あ、いや、なんつーか、塩分補給?みたいな…」
「もう、びっくりしたよー」

ほわりと笑うその顔に、嫌悪感は浮かんでなくて心底安心した。

「苗字さーん、ポカリこれだけ?」
「あっ、まだあるよ!」

他の部員の言葉に弾かれる様に反応して「また後でね」とパタパタとオレの元を走り去ってしまった。

真っ赤になってたってことは、少しは脈アリってこと?
それとも誰にでもそんな反応すんの?

複雑に揺れ動く男心は浮いたり沈んだりと忙しい。
諦めることも叶わずじわじわ真綿で首を絞められるように、オレの心は名前ちゃんに握られてる。
あー痺れそう。
舌先に残る甘さはアンタの指のせい。
いつかきっと唇の甘さも味わってやる。





せいや様リクエスト
バンビの天然ぶりに殺虫剤をかけられた虫のごとくもんどりうつ未交際状態の新名
でした!
殺虫剤をかけてもかけても立ち上がる、ゴキブリのようなしぶとさを持つ新名くんになりました。
新名くんを書くのは初めてだったんですが、この悶々とするところなんか書いててワクワクしました!
バンビは桜井兄弟とか嵐さんとかとも仲が良いけど、恋愛感情はまた別だから頑張れ新名という気持ちで書きました(笑)
せいや様、素敵なリクエストどうもありがとうございました!!

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