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企画
冬のとある一日(土方夫婦)


「十四郎さん! 沖田さんからお聞きしたんですけどサンタさんのお洋服の色が赤いのは返り血で染まっているからなのですか!?」
「んなわけねーだろ」

冷静かつ即座に返された夫の言葉に、名前は胸を押さえて心底安心したように小さく息を吐いた。

「よかったです」

いい加減、沖田に名前をからかって遊ぶのはやめろときつく言わなければならないと思うが、こう簡単に騙される名前もどうかと思う。
土方は吸っていた煙草を灰皿へ押し付けると、こほんと咳払いをした。
純真な妻にどう言おうか決めぬまま口を開きかけた土方に、名前がおもむろに身体を寄せひんやりとする手のひらを土方の額にあててくる。

「おい、なんだ」
「すみません、咳いていらっしゃったので、お風邪だったら大変と」

本気で心配している名前の、小鳥のように小さく首を傾げて土方の顔を覗き込んでくるその表情に、
心のくすぐったいところに柔らかく触れられているようで、土方は照れ隠しに眉を寄せた。

「風邪なんざひいてねーよ」
「でもお顔が熱いですよ」
「オメーの手が熱いんだ」

名前の手を強引に握って額から離す。
その手に指を絡めると、土方はふっと表情を和らげた。
何も言わず柔らかな名前の唇に自分の唇を押し当て、ゆっくり離す。
離れてしまった土方の唇を切なげに見つめながら、名前はまだし足りないというように、唇から甘い吐息をもらす。
そんな名前にくっと笑った土方が、もう一度唇を重ねた。
途端に名前の唇がほんの少しだけゆるむ。ぬるりと舌を入れながら、土方は名前の背中を引き寄せた。
覆いかぶさるようにして濃厚に口付ける。
は、と自分の口からも名前と同じような吐息がもれた。
土方は妻の肌を求めたくなるくらい欲望が大きくなる前に、名前から唇を離す。

「名前こそ、クリスマス前に体調崩すんじゃねーぞ」
「……は、はい、」

切り替えの早い土方に対し、名前はまだ口付けの余韻でとろんとしている。
戻って来い、と土方が笑って名前の頬を指で摘む。

「ところで、何の用だ」

土方に問われ、名前は思い出したかのようにハッと背筋を伸ばした。
ここは自宅ではなく、屯所の土方の部屋だ。
書類仕事をしているところにいきなり名前がやってきて、冒頭の質問をされたのである。

「近藤さんから、屯所に大きなクリスマスツリーを飾るから見においで、とお誘いいただきまして。そこで沖田さんからサンタさんのお話を」
「大きなクリスマスツリーだ?」

聞いてねーぞ、と名前と手を繋いだまま立ち上がる。
名前もぴょこんと立ち上がり「こちらです!」と廊下へ土方を引っ張った。
廊下から中庭を見て目を見開く。今朝までは影も形も何もなかった空間に、いきなり大きなモミの木がデデンと佇んでいたからだ。
近藤や沖田やその恋人や隊士達が、その木に楽しげに飾りつけをしている。
余りにも書類仕事に集中していたせいか、外のこの騒ぎに気付きもしなかった。

「十四郎さん十四郎さん、私達も一緒に飾りつけさせていただきましょう!」
「あ……あー、名前先にやっとけ。俺ァ近藤さんに話がある」

はーい、と嬉しそうに返事すると、名前は今にも走り出しそうな勢いで玄関へ向かっていった。
履物を取ってくる為だろう。
土方は、はあとため息を吐きながら廊下から近藤を呼ぶ。
近藤は何故か七夕で使うような短冊を手に、土方の元へきた。

「トシ、どうだこれ、凄いだろう」
「ああスゲーな近藤さん。そんなことより、どうしてこんなモンがここにあんだか聞かせてくれ」
「お妙さんに、屯所に本物のクリスマスツリーがあるから見に来ませんかって誘う為にな」
「で、誘いに乗ってくれそうなのか?」
「いや……でもこれを見ろ! 見には行けませんけどこれを飾っておいて下さいってわざわざ書いてくれたんだ!」

近藤が見せてくれたそれは、短冊に『ゴリラが星になりますように』と書かれていた。

「最初どういう意味かと思ったんだがな。これはきっと、俺に星のような穏やかな光でこれからもずっとお妙さんという女神を俺の愛で包み込むように見守ってて欲しいって意味だとわかったんだ」
「近藤さん、あんたのその前向きさってスゲーよな」

近藤は豪快に笑うと、その短冊を飾りに木の方へ歩いていった。
少し離れたこの位置から見てもかなり大きなモミの木は、飾りつけるにも相当時間がかかるだろう。
キラキラとしたオーナメントなどが入ったダンボール箱が何箱も地面に転がっているが、
それらを購入した金額はすべて近藤のポケットマネーからであると信じたい。

「十四郎さん、靴、持ってきました!」

玄関から中庭へ直接きたのだろう。名前の手には、土方の革靴があった。
どうしても一緒に飾りつけしたいらしい。
面倒くさいことになった、と思わなくもないが、名前が嬉しくてたまらないというように頬を高潮させてにこにこして土方が靴を履くのを待っているものだから、
口元を緩ませつつゆっくりと靴に足を入れ、名前の頭をくしゃくしゃに撫ぜた。

「クリスマス……か」
「はい、もうすぐクリスマスです」

名前に向かって静かに微笑むと、土方は名前の背中にそっと手をあて「いっちょやるか」とモミの木の方へ促した。




■沖田さんと女中さんとか、土方さんと奥さんのクリスマスとか、冬のある1日みたいな…、そんなお話

で書かせていただきました!
沖田さんと女中さんのクリスマス話はまた後日どっしり書かせていただきますね!
リクエストどうもありがとうございました♪

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あきゅろす。
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