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企画
ちいさな恋(琉夏)
※「やさしい歌」の続編です



一人、名前に部屋の掃除を頼まれていた琉夏は、お昼に食べてねと名前が作っておいてくれたタラコのおにぎりを頬張りながら、
あと30分したらやる、そう思いつつ雑誌のページをめくりソファの上でだらけていた。

そんな中、携帯電話の音が鳴る。
表示を見ると、琉夏の愛しい妻である名前からで、琉夏はあわてて通話ボタンを押した。

「もしもし、名前? ちゃんと掃除してたよ、俺」
『聞いてないのにそんなこと言うってことは、サボってたんでしょ』
「……バレたか」
『そんなことより大変なの!』
「どうした?」

名前との通話を終えるなり、琉夏は立ち上がった。
あと一口残っていたおにぎりを急いで胃の中へ納めると、雑誌を放り出し家を飛び出す。

電話口で弱りきった名前の声に交じる愛娘の悲痛な泣き声が、琉夏の鼓膜にいつまでも残り、
パパが今行くから、と琉夏は駅前広場を目指し全速力で駆けていった。



「琉夏くん、ここ!」

ハアハアと息を切らし名前達の元へたどり着くと、ベンチで途方に暮れた表情をしてる名前と、その名前にぎゅっと抱きつき大泣きしている娘がいた。

「大丈夫?」
「うん、って言いたいところだけど、この子すごくショック受けたみたい」
「コウは」
「デートの邪魔したら悪いから、すぐにこの子抱っこしてここまできたの」

名前と娘はクリスマスパーティーの買出しにきていた。
娘は、クリスマスには大好きなコウちゃんがきてくれる! と始終はしゃいでいた。そんな時だ、
通りの向こうで、偶然琥一を見つけた。
コウちゃん! と娘は目を輝かせ、手を振ろうとする、そこで声を失った。
琥一の隣に、自分ではない綺麗な女性がいた。しかもとても親しげに歩いていたからだ。

先日、琥一からそれとなく彼女の存在を聞いてはいたのだが、娘にはまだ伝えていなかった。
う、と娘の目にみるみる涙が溢れ出す。産まれた時から、いや、産まれる前から琉夏と琥一に溺愛され、大事に大事にされてきた娘。
琉夏は名前のことも深く深く愛していることを知っているから、
それなら自分はパパと同じくらい大好きな琥一と結婚すると、夢を見ていたのだ。
自分の他に琥一が大事な存在を持つだなんて、想像もしてなかったことだろう。

すぐにヒーローを呼んであげるからね

母親の優しい声と腕に包まれた瞬間、娘は泣き出した。
琥一に気付かれないよう、名前はすぐに娘を抱いたままその場を去り、このベンチまできたのだ。



「パパんとこ、おいで」
「……、パパ、コウ、コウちゃんがね、っく、きれいなひとと、歩いてたの、もう、わたしのこと、すきじゃなくなっちゃったのかな、」

娘はしゃくりあげながら名前の胸から琉夏の胸へ飛び込んでいった。
ふっくらとした柔らかな頬はもう涙でぐしょぐしょで、琉夏は微笑みながら我が子をぎゅっと抱しめる。

「それは絶対にない。オマエのこと、コウは一生大好きに決まってる」
「じゃあ、じゃあなんであの人と、手をつないでたの、っ」
「パパだってママと繋ぐし、オマエとも繋ぐだろ」
「パパとママはあいしあってるからでしょ!」

大声で言われ、名前は思わず赤面する。
周囲は騒がしく、誰も名前達に気を止めている者はいないが、それでも穴を掘って埋まりたい気分だ。

「そう、パパにとってのママみたいに、コウにも愛する人ができたのかもしれない」
「わたしよりもっ!?」
「オマエへの愛は一生変わらない。永遠にだ。パパが保障する」
「けっこんは」
「しなくてもコウはオマエが大好きだし、オマエもコウが好きだろ?」
「………うん」
「それに、オマエにもう一人、仲良しが増えるんだ」
「あのおねーさん?」
「そう。きっと楽しくなる」

琉夏はそう言って娘の両脇に手を差し入れひょいと小さな身体を持ち上げると、そのまま肩に跨らせ娘を肩車する。
そしてベンチに座る名前に、片手を差し出した。
名前はその手に自分の手を重ねると、立ち上がって琉夏の手を軽く握る。
琉夏に肩車されている娘を見上げると、空を見て、色々考えているような顔をしていた。
まだ産まれて数年しか経っていないが、父親への愛情とはまた違う、純粋な感情で琥一に淡く恋をしていたのだろう。
琉夏の言葉を頑張って理解しようとしていた。感情が追いつくのは、もう少し先になるだろうが、
きっともう、本人もわかっているに違いない。

「凄い。さすが琉夏くん。私一人じゃこんな風に納得させられなかった。ありがとう」
「どういたしまして。俺、頑張ったから掃除ができてなくても怒らない?」
「できてない?」

鋭い眼差しから逃げるように、琉夏は目をそらして唇をすぼませる。
こら、という名前の声に、琉夏は視線を名前へ戻し肩をすくめた。

「だってさ、電話がかかってきて超特急で駆けつけたから」
「私達が出掛けて一時間はたっぷり経ってるから、ちょこっとサボってたとしても掃除なんて余裕で終わってるくらいの時間だよね」
「え?」
「聞こえないフリで誤魔化さない」
「じゃあチューで誤魔化すしかないか」
「もう! そんなもので誤魔化されません」
「さすが」

猫のような瞳を細め、琉夏は名前に優しい笑みを向けた。



■ルカの話
■ルカ、バンビ、娘、コウ(彼女登場?!)

のリクエストでかかせていただきました!
琉夏くんの話を書くのは久々だったので、前と雰囲気が変わっていたらすみません……!
でも楽しかったです!リクエストどうもありがとうございました!

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