企画 銀さんと幼馴染の土砂降りな十月十日の話 ※「土砂降りの日」「吉原で」「月詠に嫉妬しちゃう銀さん大好きヒロイン」「銀さんに「お前俺のこと好きだろ。」て言われて、ちゅーされた」 「ちょっと銀時、この土砂降りの中どこ行くの」 「吉原。月詠達がこの吉原の救世主様の誕生日だっつーことで、酒飲ませてくれるっつーからよ」 「待ってよ、今日は大事な日って前から言ってたでしょ!?」 あー? とうるさそうに私を振り向く銀時の袖をしっかり掴み、きっと見上げる。 「大事な日……なんかあったっけ?」 「町内会の集まりがあるって言ったじゃない。今日は来週のドブ掃除についての話し合いがあるんだから」 銀時の表情を見てピンときた。ダテに長年銀時と一緒にいるわけではない。 こいつ、絶対忘れてなかった。知っててサボろうと思ってやがったな。 「んなモン、ジジババに任せときゃいーんだよ。安心しろって、当日はちゃんと掃除に出っから」 「あんた本当に変わってないよね銀時。昔からそういう話し合いとか面倒だからってすっぽかしてさ。私とヅラがどれだけ言っても聞かないんだから」 「へーへー」 私と銀時は、幼馴染という関係だ。 共に松陽先生の元で学び、攘夷戦争にもみんなの反対を押し切って無理矢理ついていった。 今じゃ、銀時がやってる万事屋の近くで小さな甘味屋を営んでいる。 私はずっと銀時のことが好きなのだ。 大切な仲間で、大好きな一人の男。でも、一緒に過ごした時間が長すぎて、気持ちを伝えそびれてしまっている状態。 言葉にしてこの関係が壊れてしまったらとどうにも勇気が出ず先へ進めなくて、 近所の口うるさい幼馴染というポジションからずっと動けずにいた。 銀時の気持ちはわからない。もしかしたら私のことを鬱陶しいと思っているかもしれない。 けど、優しいから私を突き放そうとはしない。それに甘えてしまっている。 「月詠さんとどうなってんの?」 「どうなってんのって、別にどうもなってねーよ」 私がぎゅっと掴んでいた袖から手を離すのを、銀時は無言で見つめていた。 「私も一緒に行っていい?」 「好きにすればァ」 「じゃあそうする」 今日は銀時の誕生日なのに、一緒に過ごせないなんて嫌だった。 銀時が、月夜さんといい感じになられたらと思うと、こわくてたまらない。 月詠さんのことは好きだ。凛々しくて、綺麗で、銀時みたいに真っ直ぐで。 戦場で足手まといにだけはなるまいと、がむしゃらに刀を振るっていた私なんかと比べ物にならないくらい強い。 その強さに嫉妬しているのか、美しさをうらやんでいるのか、銀時が信頼を寄せるその位置がうらやましいのか、わからない。 私は月詠さんに何一つ敵わない。ただ、銀時と付き合いが長いだけ。 万事屋を出て傘を差すと、言葉も聞き取りづらいくらい雨が強く、外に出たことを一瞬にして後悔した。 傘の中からそっと銀時を見上げる。 ぼうっとした銀時の横顔。私の視線に気付いて少しだけ目元を緩めてくれた。 「なあ名前」 「なにー?」 雨のバタバタした音から必死に銀時の言葉を聞き逃すまいとして、つい返事が大声になってしまう。 「さっき言ってた町内会の集まりはいいワケ?」 「………あっ」 「大事なんだろ」 う、と声が詰まる。 町内会の集まりなんてのは、出れる人が出ればいいのだ。後日きちんと決まったことは回覧板で知らせてくれる。 本当は、ちっとも大事なものではない。それを銀時と一緒に居たいがために、大袈裟に大事だと言ってしまっただけ。 「まあ、大事だね、軍手の予備を確認したり、終わりに配るビールとお菓子の数確認したり」 「行かなくていいのか?」 「………」 銀時は、私が一緒に吉原に行くことを遠まわしに拒んでいるのだろうか。 私と一緒に居ることより、月詠さん達と一緒にいることを選ぶのだろうか。 「サボる気ならさあ、俺 「……それならハッキリ言えばいいのに」 銀時が何か言いかけるのを遮るように、私は低い声で言葉を被せた。 「あ?」 「私についてこられて迷惑だって言えばいいのにって言ったの! バカ!」 「おい、いきなりどーしたちょっと待てって」 「待ちません! 銀時なんてもう知らん! 私は大事でもなんでもない町内会の集まりに行く。銀時は月詠さんとぱふぱふでも何でもすればいいよ!」 「ぱふぱふって久々に聞いたわソレ。つーか、ナニいきなり切れてんだよ」 「ごめん」 「いや急に冷静に謝られても銀さんどう返していいかわかんないからね」 「いままで、ごめん」 「意味わかんねーよお前」 「ずっとつきまとっててごめん」 「はあ?」 「もうあんたに近寄らないようにするから」 「待て待て待て待て!」 銀時が私の腕を強く掴む。その部分が、どんどん雨に濡れていく。 こわごわ見上げると、銀時はすごく真っ直ぐに私を見つめていた。真剣な瞳に、喉がごくりと鳴る。 「俺は、ずっと名前が一緒にいてくれて安心しきってたよ」 「………」 「居心地いいだろ、なんつったってガキん頃から一緒だしな」 「………ヅラだって」 「ヅラは真面目ボケすぎて突っ込みすんのも疲れんだよ」 「わかる」 「その点、お前はいいじゃん。ほら、にこって笑った顔とかよォ、高杉がそれにだいぶ参ってたって知ってたか?」 「知らない。ヤクルトを恍惚とした表情で飲んでたことしか覚えてない」 「こわかったんだよ。俺ァ臆病者でさ、もし離れていっちまったらって思うと、惚れた女になっかなか気持ちが伝えらんなかったんだわ」 「それって」 私と同じだ。 銀時も、居心地のよさと、恋心の絡んだ焦燥感を抱えて私を見ていてくれていたんだろうか。 どうしよう。嬉しい。 「お前、俺のこと好きだろ」 「ずるい、銀時」 「好きだろ」 「あんたが先に言ってよ」 こんの頑固者、と困ったように笑った銀時が、不意に私の手を引いた。 私の手から傘が落ちる。銀時の傘の中、胸の中に抱しめられていきなり唇を塞がれる。 こんなに熱い瞳で見つめられたら、腰が砕けてしまう。 柔らかな感触に、心がとろけてしまう。 「町内会の集まりさ、サボるつもりなら俺とこのままどっか行かね?」 「どっかって……どこよ。吉原は?」 「オメーが集まりに出んなら暇だしタダ酒飲めるしちょいと顔出そうかなーなんて思ってたんだけどよ、そうでないなら一緒にいてーじゃん」 「あんた誰。腐った豆パンでも食べた?」 「るせー。誕生日なんだから俺にとりあえずパフェ奢れ」 「………しょうがないなあ」 銀時は私の返事にふっと微笑むと、腰をかがめてさっき私が手を離して落ちた傘を拾ってバサリとそれを閉じた。 一本の傘の下、肩を寄せ合った私と銀時。 二人してずっと黙ったまま歩いていたが、今まででいちばん、しっくりとした空気が私達の間に流れている気がする。 銀時の唇の感触の残る私の唇がやけに熱い。 唇の感触を何度も思い返していたら、なんだか勝手に口が動いた。 「好きだよ、銀時」 それに対する銀時の返事は「俺もだよバヤカロー」だった。 [*前へ][次へ#] [戻る] |