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企画
どこまでも幸せな味がする
※ちょこっとデッコボッコ教の時の話が出てきます




「ごめんね九ちゃん、銀さん達お仕事に出ていて」
「いや、僕は今日、あの人達に用があってきたわけではなくて……」

言いよどむ九兵衛の前にお茶を出し、名前がふわりと嬉しそうに笑った。

「もしかして、私に会いに来てくれたの?」
「あ……ああ」

九兵衛は志村妙のことが好きなのであって、女性を恋愛対象としてみることはない。
しかし名前の優しい微笑みは、どこか九兵衛の心をほんのりとときめかせるものがあった。

「珍しいよね。あ、お妙ちゃんのこと? 何かあった?」

違う、というように九兵衛が小さく首を振る。
名前は九兵衛の向かいのソファに座ると、ぽんぽんと大きくなったお腹をさすった。
その光景を見て、九兵衛は憧れや眩しさ、羨望、そういったまぜこぜの感情がわきあがるのを自覚し、唇を噛みきゅっと膝の上で手を握る。

「男の子と聞いて」
「うん、お妙ちゃんから聞いた?」
「ああ。それでこんなものを持ってきたんだが、受け取ってもらえるだろうか」

そう言って九兵衛は、風呂敷に包んで持ってきたものをデンとテーブルの上に置く。

「え、なあに?」

中身を見た名前が息をのんだ。
それはいったいいくらするのか想像もできないような、大きさはそれほどではないがひと目で高級品とわかるような牛肉の塊だった。

「出産を控えているその身体にいい栄養を取って欲しいと思ったんだ」
「こ、こ、こ、こんな高級なお肉、い、いただけないよ……!?」
「お腹の中の子の為にもぜひ受け取って欲しい。安心してくれ、将軍家にも数々の品を献上しているセレブな農場で育った牛だ」

それを聞き、ますますわーいありがとう! なんて受け取れるはずがない。
好意はとっても嬉しいんだけど、こんな高価なものどうしたらいいんだろう、そう名前があわあわしていると、
名前の様子を察したかのようなタイミングで銀時たちが帰ってきた。

「来客ですかー……っと、九兵衛じゃねーか、珍しいな」
「銀さん、新八君神楽ちゃんおかえりなさい」

「はーい、ただいま名前ちゃん」と銀時は名前が立ち上がって出迎えようとするのをやんわり阻止するかのように名前の横に腰を下ろし、
名前の肩に腕をまわすと妻の頬に愛しげに唇を押し当てた。
何度か見たことがあるとはいえ、相変わらず二人は熱々だ。直視することができず九兵衛は俯いて頬を染める。

「銀ちゃん!!! テレビでしか見たこと無いような肉の塊がテーブルにのってるアルよ!」
「え、もしかして九兵衛さんが持ってきてくれたんですか?」

反対に、日常的光景としてすっかり二人のイチャつきぶりを見慣れている神楽と新八は、
銀時と名前よりテーブルで光を放つ霜が綺麗に走る美しい塊肉に釘付けだ。

「ああ、名前さんに栄養をつけてもらおうと思って持ってきたんだが、遠慮しているみたいなんだ」

神楽が目を輝かせ、生肉に食いつかんばかりの勢いで顔を肉に近づける。

「名前、もらえるもんはありがたくもらっとこうぜ。こんな肉、この先一生食えねーぞ」
「九ちゃん、本当にいただいちゃってもいいの?」
「ああ、遠慮はいらない」

嬉しい、ありがとう。と名前が笑ったので、ようやく九兵衛も安心する。
そして、表情を引き締めた。

「ところで、だ。赤ちゃんのことなんだが」
「ん?」
「もし……この子が大きくなり、自分の性別を疎ましく思い性転換手術を受ける可能性が出てきたら、僕にいち早く知らせて欲しい」
「そんなこったろーと思ったぜ」

あまりにも突拍子も無い九兵衛の発言に名前は目をぱちくりとさせたが、銀時は名前より九兵衛との付き合いは長い。
彼女の真意などお見通しのようだった。

「まだうまれても居ないガキのチ○コ予約してどうするよオイ」
「いやだから、もしもだと言っている。捨てるというのなら僕に譲って欲しいだけだ」
「こわい! 九兵衛さん目が本気だ!」
「九ちゃん、銀ちゃんのDNAが入った子アルよ。ポークビッツぶら下げた方がマシな大きさかもしれないネ」
「見たことねーくせにバカなこと言うんじゃねーよ神楽! 銀さんのはなァ本場フランクフルト並みで極太なんだよ! なー、名前!」
「ふふ、ソーセージって美味しいよね」
「名前さんんん!?」

ギャーギャーとうるさい三人とにこにこ微笑む名前を見ていて、九兵衛は以前のことを思い出した。
デコボッコ教の騒ぎの時のことだ。
あの時、名前は妙と行動を共にしていた為、男性化は免れた。
そして女性になってしまった銀時に最初は驚いた顔を見せたものの、すぐにすんなり状況を受け入れていたから驚く。
誰よりも柔軟な思考を持っていたという訳ではなく、愛する人が自分の意思でなく姿が変わっただけのことと、さほど動じなかったのだろう。
それは銀時も同じことで、女になっても名前に愛しげに口付けていたし、揃いの指輪も二人の絆を象徴するかのようにそのまま指にはめていた。
銀時が江戸から姿を消したとき、名前も当たり前のようについていったらしい。そっと銀時を支えていたのだろう。
男であろうとなかろうと、名前の銀時への愛は変わらないのだ。

自分の股間に棒があるかないかで自分の価値は変わらない。けれど、想い人が女性である以上、女であることがひどくもどかしく、心が揺らいでしまうのだ。
渇きにも似た感情が、どうしても求めてしまう。男性の象徴を。

神楽と舌戦を繰り広げている銀時を見つめる名前の表情は、深い海の底の美しい貝殻のようにどんなことにも動じない強い愛情を感じる。
それを見ると、九兵衛の心に勇気が湧いてくる。
ふっと表情を緩めると、言いたいことは言ったと九兵衛はソファから腰を上げた。

「それだけだ。よろしく頼む」

身体に気をつけて、名前にそう言って九兵衛は万事屋を去っていった。



「あーあー、あいつほんっとチ○コ好きだよな」
「それだけお妙ちゃんへの想いが深いってことだよね。うーん、難しいけど、みんなが幸せになれたらいいのにな」

銀時の胸にそっともたれかかると、名前の頬に何かあたった。
あれ、と顔を上げ、分厚いものが着物に挟まれていることに気付く。

「お、気付いちゃった?」

銀時が得意げに笑うと、懐から分厚く膨らんだ封筒を出し名前の手に乗せる。

「すげえだろ、今回の依頼料。今夜のメシ、九兵衛の肉もあるし、パーッといこうぜパーッとよ」
「わあ、すごいねこんなにたくさん! みんな、本当にお疲れ様でした」

銀時の首に腕をまわすと、名前は銀時の頬に口付けた。
それをくすぐったそうに受け入れながら、銀時はさりげなく名前のお腹に手を当てる。
少し動いた感触がして、かーちゃんの興奮がわかってんのかねェなどと思い、口元を緩ませた。

「なに作ろうか。ステーキ? ビーフシチュー?」
「名前ちゃんの作る料理なら何でも」
「それが一番迷っちゃうんだよ銀さん」

新八くんと神楽ちゃんは何がいい? と、名前は肉を冷蔵庫へ持っていこうとしていた新八と肉に目がハートになっている神楽に声をかける。

「名前の料理がいいアル! ただし今日はもやし無しナ!」
「このお肉は九兵衛さんから名前さんにっていただいたものだから、名前さんが食べたい料理作って下さい」
「うーん、私が食べたい……料理、かあ」

本気で悩んでいる様子の名前に銀時は楽しげに「あんま悩んでっと夕飯まで時間なくなっちまうぞ」と笑った。
名前が眉を下げ「銀さんも一緒に考えようよー」とすがるように銀時を見上げると、いいぜ、という言葉と同時に唇が奪われた。



和室に置いたちゃぶ台に次々と並べられていく料理に、新八と神楽は笑顔でいっぱいになる。
特に牛肉の赤ワイン煮がごろりごろりと乗った食欲をそそる香りを放つ大皿がでんとちゃぶ台の中央に配された時には二人の口から大きな歓声が上がり、
それを持ってきた銀時が「うっせーよ」と笑った。
続いて海の幸たっぷりのホワイトソースがとろりとした熱々のグラタン、
温野菜とゆで卵のサラダ、そして何故かビーフカレーというメニューがちゃぶ台いっぱいに並ぶ。

「銀さんの作ったカレーが食べたいな」

食材を買いに出掛けた際に、少し照れくさそうに銀時におねだりしてきた名前の言葉。
新八に名前さんの食べたい料理、と言われたとき、真っ先に浮かんだのが銀時が以前作ってくれたカレーだったのだ。
銀時がそれを聞いて作らないはずがない。

全員で元気良く「いただきまーす!」と手を合わせた。
銀時が牛肉の赤ワイン煮を切り分け、それぞれの皿へよそっていく。
神楽が一瞬にして肉を口に頬張り、新八がにこにこ顔でグラタンを口にし、あっつ! と眼鏡を曇らせる。
そんな光景に微笑みながら、名前はスプーンを手に、ビーフカレーをすくいゆっくり口へ運んだ。一口食べて顔をとろけさせる。

「銀さん、すごく美味しい」
「そりゃよかった。ほれ、肉も食え」
「うん、ありがとう」
「銀ちゃんの肉、妙にデカいアル! ズルいネ!」
「ちょっと手元が狂っちまったんだよ。こんだけあんだ、んな小さなことでグチグチ言うな!」
「もー喧嘩しないで下さいよ二人共。僕が平等に切ってあげますから」
「とか言って自分のだけデカく切るつもりなんじゃねーのかぱっつぁん」
「そんな銀さんみたいな真似しませんよ」

名前は楽しい会話に耳を傾けながら、自分の皿にのった銀時と同じくらい、いやそれ以上に大きい牛肉の赤ワイン煮にナイフを入れる。
二時間ほどずっと火を入れていたおかげか、柔らかく煮えてくれたようだ。すっと肉が切れる。

「幸せ」

フォークで肉を口へ運ぼうと唇を開いたら、ふいにそんな言葉がこぼれた。





■万事屋の仕事で結構な臨時収入が入り、夢主が張り切って奮発してご馳走を作り坂田家団欒のほのぼの
■坂田家のみんな(特に妊婦のヒロイン)にお腹いっぱいヅラと九ちゃん差し入れのお肉を食べさせてあげる!

このリクエストで書かせていただきましたー!!
またやたら長くなってしまった上に、大変お待たせしてしまってすみませんでした!
素敵なリクエスト、どうもありがとうございました♪

そういえば牛肉の赤ワイン煮、最初はローストビーフにする予定でした。
そして完成間近までそのままでした。
ふと、そういえば妊婦って生の肉駄目じゃん!と気付き、
あぶなかったー!!とあわてて書き直しましたハハハ。
おばかですみません。

2014 6/13 いがぐり


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