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企画
恋は異次元この愛は無限
※ラブチョリス篇です


擬似恋愛、たとえばテレビの向こうのアイドルや俳優や、本の中の素敵な人に恋に似た感情を抱いてしまうことは、
きっと誰にでも経験はあるんじゃないかなと思う。

けれど新八くんはちょっと重症の部類に入るみたいだ。

恋愛ゲームにはまりこんでしまった新八くんは、あまりにものめり込むあまり、
ゲームの中の女の子を本物の恋人のように扱い、日常生活も彼女と常に一緒らしい。
お妙ちゃんにも僕の彼女と堂々と紹介してきたらしく、このままではいけないとすごく心配して、お妙ちゃんが銀さんに相談してきたのが数日前のこと。
それで銀さんも、新八君が現実に戻ってこれるよう説得を試みる為に同じ目線に立たなければとゲームをはじめたみたいだけど……。

『朝だよ、起きな。もォ〜〜〜……起きないならこのまま、エナリみたいに永遠に眠っちまえばいいのにね』
「いい加減にしれくれませんか!!!!!」

毎朝、銀さんを起こすのは私の大好きな役目だったんだけど、最近はピン子さんにその役目を取られてしまいっぱなしだ。
ピン子さんはゲームの中の銀さんの彼女。
だけど少しずつ、現実にピン子さんが忍び寄ってきてる気配がする。

「おっ、今日も結野アナの天気予報見なくちゃなー」
『そんな女より私を見なさいよ。アンタ私と恋愛するために邪魔なエナリを、私の大事な息子に冷たくして……挙句の果てには……ううっ……!』
「ピーンーコーちゃーん、もういいから。それ聞き飽きたから」
『じゃああなたも死んで』
「死ねるか!」

銀さんとお喋りもできない。
ゲームに夢中で話しかけて、私よりゲーム画面を見つめてて、さみしい。
でもこれは全て新八くんの為なんだよね。最近目の下のクマが酷いけど、そんな真剣になって救おうとする銀さんはやっぱり素敵だ。
私はソファに座る銀さんの背後にまわると、その背中をぎゅっと抱しめてみる。

「名前、画面見んなよ。禍々しい女が呪いかけてくっから」
「ん……」

ピン子さんを私に見られたくないのかな。どんな人なんだろう。美人、なのかな。
新八くんみたいに、銀さんもゲームの中の恋人を本当の恋人だと思ってしまったらどうしよう。

「あ、銀さん、テレビ見て、新しいチョコのCMしてる。美味しそうだね」
「んー、ちょっと待って。おいピン子、線香まとめて火ィつけんのやめろ、こっちまで香りが漂ってくるような気になんだろーが。で、何だって? 名前ちゃん」
「……ううん、なんでもない」

銀さんとピン子さんが話してるうちにCMは別のものに変わってしまった。
馬鹿げてる。ゲームに嫉妬するなんて。でも、

「銀さん銀さん、今日お天気いいし、たまにはデートとかいきたいな」
「ワリ、明日大会なんだよ。新八の目ェ叩き起こすにゃ今日もピン子とデートして絆深めなきゃなんねーんだ」
「そっか。ごめんね、忙しいのにいきなり誘っちゃって」
「クソ、デートは墓地がいいってなんじゃそりゃ! たくぞうの墓参りってか! んなとこでデートするかバカヤロー!」

ピン子さんとの会話に夢中な銀さんの背中から、私はそっと身体を離す。

「……わあ、あの俳優さんすごく素敵。かっこいい」
「るせー!! 般若心経なんざ知るか!」

以前なら、私がこんなこと言おうものなら物凄くヤキモチ妬いた銀さんだったのに。
もう、私の言葉も届かなくなってしまった。


そして待ち焦がれた大会の当日。
銀さんはピン子さんと大会に出られるのがよほど嬉しいのか、朝食の最中だというのに走って万事屋を出て行ってしまった。

「名前、食べないアルか?」

神楽ちゃんが用意してくれたたまごかけごはん。
いつもならつるりと入っていくのに、今日は胸が痛くてなかなか入っていかなかった。

「ねえ神楽ちゃん、新八くんも銀さんも大会に行ったみたいだし、私も今日はお出かけしてきたもいいかな?」
「珍しいアルな。じゃあ私は友達と遊んでくるアル」

手早く後片付けを済ませ、私はゴミ箱に丸めて捨てられていた“ラブチョリス 俺の嫁天下一武闘会”のチラシを手に、大会会場へ向かった。
銀さんの心が、これ以上ピン子さんで占められるのを見たくない。
私だって銀さんのことが好きなのだ。ピン子さんから再び私を見てくれる時を待っているだけなんてできない。
だから私から行こうと思った。邪魔する気はないのだけど、銀さんに私をもうちょっとだけ見て欲しかった。


はあ、はあ、と息を切らしようやくたどり着いた会場で、私は身体が、いや、それ以上に心が凍りつくことになった。

「質問に答えて下さい。あなたはピン子ちゃんを愛していますか」

審査員と書かれた席に座る人にそう問いかけられていたのは、私に何度も、毎日のように愛してると言ってくれる銀さんで、
銀さんを信じてるのに、私の足は震えて仕方なかった。
そして銀さんの口から衝撃的な言葉が出る。

「あ……愛してるに決まってんだろコノヤロー」

震えは止まる。私の動きも。立ち去りたいのに、足は動いてくれなかった。
ただただモニターで銀さんとピン子さんを、見ていた。
俺の女と、ピン子さんの肩を抱き銀さんが言う。
もう私は、銀さんの女ではないのかな。
挑発的に笑って、銀さんは頬をピン子さんの髪にすり寄せる。
ピン子さんはすごく美人だった。会場の誰もがどよめく程の。
私は、さっきまで銀さんは新八くんのゲームに沈みきった心を現実に引き上げたら、それで何もかも元に戻れると思っていた。
けれど銀さんは、現実にピン子さんを引き上げてしまったらしい。モニター越しじゃなくても二人の姿が瞳にうつる。
生身じゃないピン子さんを、心で強く愛しているから……?

呆然としたままの私をよそに、会場は熱く盛り上がっていく。
決勝戦。新八くんと銀さんが一対一で戦うようだ。
空から降り注ぐ店長、そしてピン子さんを銀さんが次々と昇天させていく。その光景は銀さんの大きく強い愛の力を見せ付けられているようで、私は唇を噛んだ。

優勝は当然銀さんだった。
新八君、そして会場の皆のもやのかかっていた瞳に現実の色が戻る。
ぞろぞろと帰っていく人たち。私はごった返す人々に肩をぶつけられたが、決して転んだりするまいとその場で両足に力を込めて立っていた。

そして会場は銀さんと私の二人きりになった。

「な、居たのかオメー……!」

銀さんが一人残った私の姿を見つけ、驚き、ゲーム画面から顔を上げる。
久々に私の姿を見てくれたね。

「大会、見てたよ。……私、銀さんとピン子さんがあそこまで愛しあっていたなんて今の今まで気付かなくて」
「待て待て、あれはだな……」

銀さん、いいんだよ。あなたは私に居場所をくれたね。あたたかな場所、ぬくもり、愛情。本当に幸せだった。
けれど、銀さんが他の人を愛してしまったというなら、私はどうしようもできない。
優しい優しい人だから、本当に愛して無くても行き場所の無い私を受け入れたままでいてくれるだろう。
けれど、そんなのだめ。ピン子さんはどうするの? 銀さんだって辛いでしょう。
私は銀さんを愛してるから、自分からお別れを言わなくちゃ。
本当はお別れなんてしたくない。きっと、別れても私はずっと銀さんを愛し続けると思う。
でもこのままじゃ誰も幸せにはならないから、だから私は、精一杯笑った。

「あのね、すぐ働けるとことか、見つけて……で、出て行くから、ほら私がいたらピン子さんも気になるだろうし、銀さん、い、いままで、ありがと……、っく」

ポタポタと私の目から勝手に流れ出した涙が銀さんの素の胸に吸い込まれる。
だめ、と首を振って逃げようとする私を、銀さんはますます強く抱しめてきた。

「やめて銀さんピン子さんの前で。彼女を、愛してるんでしょう……」
「バカヤロー、んなわけあるか。やめて、マジやめて! ありゃ全て新八救うためにその場のノリで言ったことに決まってんだろーが」
「でも、ピン子さんは……」
「ゲームやってねェオメーまで愛無限空間いっちまってどうするよ。ゲームはゲーム、目ェ覚ませ」

床に落ちたゲーム機を見る。画面は真っ黒だった。
ピン子さんは何処へ……?

「ピン子にゃ悪ィがデータは消した。俺にゃ現実に超カワイイ彼女居るしィ。これで邪魔されず名前ちゃんと心置きなくイチャイチャできるぜ」
「……私、銀さんのそばにいてもいいの?」
「俺の女は名前だけだよ。ちなみに愛する女も名前一人だ」

悪かったな、と銀さんが私の耳に唇を当てながら小さく謝る。
涙が止まらなくて、うまく喋れない。そんな私の髪に、額に、そして唇に銀さんの唇が優しく降ってくる。
その感触がくすぐったくて、嬉しかった。


「この俳優さん見て神楽ちゃん、朝の番組見たときからすっごくかっこいいって思ってたの!」
「まあ、角野卓蔵には負けるけど、なかなかいい男アルな」
「名前ー、いますよここに名前ちゃんのすっごくかっこいい銀さんという彼氏がー」

朝、同じことを言ってもピン子さんに夢中で耳を素通りさせてた銀さんが、
今は私の言葉をちゃんと聞いててくれて、妬いてくれて心がきゅんとする。
思わず銀さんに笑いかけてしまいそうになったけど、まだまだ許してあげない。私は怒ってるんだからね。

「でね、神楽ちゃん。彼、今度のドラマに出演するみたいなの。チェックしておかなきゃ、楽しみ」
「なんか、珍しいですね。名前さんが銀さんの前でこんなこと言うなんて」
「これはお仕置きなんだよ新八くん。名前よりピン子を優先させた俺に対して名前ちゃんは拗ねていらっしゃるんだ。
 つーかもとはといえばオメーのせいでラブチョリスなんてする羽目になったんだよな。クソ、ムカつくぜあの俳優スカした面しやがって」
「なんか、すいません銀さん。迷惑かけちゃって」
「名前ちゃんって深く静かに怒るタイプだからさー、当分銀さん謝り続ける日々送んなきゃなんねーんだよ。まあ名前を愛してるからこそ耐えられるんだけどな。拗ねる名前もかわいいしィ」

小声で喋ってるつもりだろうけど、全部聞こえてますよ二人共。

「デートにでも誘ってみたらどうです? 気分が変われば怒りも落ち着くかも」
「あのー、名前ちゃーん」
「なあに、銀さん」
「オメー朝デート行きたいとか言ってたよな、いくか! 明日にでも!」
「明日? ごめんね銀さん、私明日は他の人とデートに行く予定があるんだ」
「はいいいいいい!? ちょ、ちょっと待て、他の人って誰だ!」
「お妙ちゃん。“新ちゃんがご迷惑おかけしました”って、ケーキおごってくれるって」
「俺のが迷惑かけられただろーが! 何で名前にだけケーキ!? 俺には!? めっちゃキツくて苦しい数日間だったんですけどー!」

本気で悔しがる銀さんに、つい笑ってしまった。もう駄目、やっぱり銀さんには怒れない。
会場ではすごく悲しい気持ちになった。もう、銀さんに愛されていないかと思った。けれど、違った。
銀さんに相手してもらえなかった数日で、さみしくてたまらなかった私の心は知らず知らずのうちにゲームと現実との境目に落ちていたのだ。
そんな風になってしまったからか、いつもなら絶対に揺るがないと、そう信じている銀さんの愛を疑ってしまったのだ。
自分が本当に恥ずかしい。だから、そろそろいつもの私達に戻ろう。
そう思ったとき、銀さんが私をまじまじと私を見つめていて、私は「ん?」と首を傾げる。

「いや、一番苦しい思いしたのはオメーだよな」

申し訳なさそうに笑い、銀さんは私の頭を撫でる。
そんなことない、と私はぶんぶんと首を振る。銀さんだって、とっても大変だったよね。
私は銀さんの腰に手を回すと、上を向いて目を閉じる。
すぐさま柔らかく押し当てられる銀さんの甘い唇にうっとりした。

「これから、できたら愛してるって言うのは私だけにして欲しいな。たとえお芝居でも」
「ったりめーだろ。名前ちゃん以外にゃもう二度と言わねーから」

テレビでは、さっきの俳優さんが今度のドラマの宣伝をしていた。
けれど私は目の前の、大好きでたまらない銀さんをもっと感じていたくて、
全ての感覚を銀さんに向けて、また唇をねだった。



■ラブチョリス篇で銀さんがゲームに夢中になってるのを見て、ヒロインが構ってちゃんになり最終的に全裸になった銀さんに対して拗ねる
■ヒロインが芸能人をかっこいいと言って銀さんがヤキモチをやく話

のリクエストで書かせていただきましたー!!
長くなってしまってすいません。ピン子ちゃんが書けて嬉しかったです(ピン子かい)
リクエストどうもありがとうございました!!楽しかったです。

2014 6/5 いがぐり

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