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企画
もどかしくて甘酸っぱくて
※友達以上恋人未満時代でございます



銀時と名前、二人で買い物をしていると、たまに新婚さん? と間違われることがある。
一緒に歩いていると、仲がいいねえ、とたびたびご近所さんにからかわれることもあった。

銀時はそんな時「新婚さん割引サービスとかやってねーの?」や「仲悪かったら一緒に歩いてねーよ」など、
少しも動じることはなくさらりと笑って流しているのだが、
名前は必死で何も動揺してませんよという顔を作りながら、銀時の横でにこにこ笑うのが精一杯だった。

二人の関係を勘違いされてもあえて否定しない銀時と、それを内心嬉しく思う名前のもどかしい距離は、
日に日にゆっくりと、近づきつつあった。



夕暮れ時の散歩道。
冬は陽が落ちるのが早く、万事屋を出たときはまだかろうじて明るかったが、瞬く間に空は薄暗く夜の闇をまといだす。
「甘いもんが食いてーな」と呟きながら遠くをぼうっと見つめている銀時の横顔を名前はそっと盗み見る。
しかしすぐに名前の視線に気付き、銀時が優しく笑った。
頬に熱がのぼるのを感じながら名前も微笑む。

この寒い時期、わざわざこの時間に散歩へ出たのは銀時が名前を誘ったからだ。
こうして散歩に出る前は、万事屋でコタツで丸くなってくっついて寝ている定春と神楽、テレビに出ているお通ちゃんに目を輝かせている新八と共に、
イビキと鼻歌で賑やかなあったかい空間で、銀時と名前も斜めの位置でコタツに入って何気なく会話を交わしていた。
が、その日常の空気がふいにがらりと変わったのだ。

「あ」

と言って名前は息を止めた。コタツの中で名前と銀時の足がふいに触れ合ったからだ。
視線を絡ませながら、お互い黙り込む。
以前まで、誰の足が当たろうと、ごめんね、と空いた空間を探し足を移動させていた名前だったが、
その時は、銀時の素足が名前の履く足袋越しにそっと当たっていて、銀時から離れる様子はなく、名前も動かせないでいた。
動かしたくない。けれど、どうしていいかわからなかった。銀時は何か言いたげに口を開くがすぐに閉じ、頬を指でかく仕草を見せた。
そして何気なく手を降ろす。名前の指に微かに触れる位置へ。
心臓が、痛いくらい大きく脈打った。
銀時がそれに気付いたかのように目だけでゆるく笑う。
好き、という気持ちがこの拍子に唇からもれてしまいそうになる。けれどみんなの前でそれは恥ずかしい。

「の、のどかわいちゃった、お水飲んでくるね」

台所へ向かおうとする名前を、銀時はすぐさまコタツを出て追いかける。
名前の瞳が銀時もきてほしいとハッキリ言っていたからだ。

「名前」

名前の肩に手をかけると、潤んだ瞳で振り返り銀時を見上げた。

「銀さん」

その瞳に銀時は吸い込まれそうになる。
いつからか、二人きりになるとこんな空気になるようになった。
少し前まで銀時は、自分だけが名前に想いを寄せていると、そう思っていた。
しかしそれは勘違いだったらしい。自分だけの一方通行ではなさそうだ。
名前の態度を見てそう思うようになったのは、ここ最近のことではなかった。

恋心が芽生えたのがいつかなんてどうでもいい。
大事なのは、今、名前が銀時を意識しているということだ。
銀時もダテに歳を重ねてきたわけではない。
名前ほど心を持っていかれた女性に出会ったのは初めてだが、それなりに女と付き合い、生きてきた。
この何かが始まる前のソワソワ感と胸の甘苦しさに覚えはある。
名前の向けるひたむきな眼差し、見つめると、すいと恥ずかしそうに視線を逸らす仕草、銀時だけに見せる女らしい色香溢れる笑顔は、
銀時に名前の気持ちは自分にあると確信させるものばかりで、あとは一歩踏み出すだけだった。
そうすればもう、より深いところまで踏み込んでいける。

「名前、俺……」

そのまま銀時が名前を抱き寄せ想いを告げようとしたその時、
いつの間にか起きたらしい神楽の「銀ちゃーん、ついでに牛乳ヨロシク!」という暢気な言葉に、
銀時の昂ぶっていた気持ちは一気に萎み、ガクリと勢いが削がれてしまった。
そんな銀時を見て、名前が小さな花を咲かせるようにくすくすと可愛らしく笑った。
銀時が弱ったように笑みを浮かべ「笑いすぎ」と名前の鼻を痛く無いよう力加減をしつつ指でピンと弾く。
きゃ、と目をきゅっと閉じて楽しそうに笑う名前に、銀時が「散歩行かね?」と言った。
散歩へ行く理由など言う必要はなかった。
名前はすぐさま「行きたい」とこくこくと頷いたからだ。
こうして二人はゆっくり二人きりで話すという機会を得たのである。



寒い中、何分も歩かないうちに銀時は口を開いた。

「………あの、よ」

銀時がそう言いかけたとき、名前が僅かに眉間に皺を寄せた。
そしてごしごしと着物の袖で右目を擦る。

「ご、ごめんね銀さん、ちょっとまってね」
「どした名前、目にまつげでも入ったか?」
「ん、そうみたい。すぐに取れると思う」
「コラコラ駄目でしょ、目に傷が付いちまう」

銀時は名前の腕をやんわり捕まえ「ほら、見せてみろって」と普段聞けないような低く柔らかな艶のある声を出す。
名前はそんな銀時に顔を真っ赤にして目を潤ませ「大丈夫だから!」と首を振る。
自分のことを意識していると丸わかりのその態度に、銀時はじわじわとこみ上がる喜びをかみ締めつつも、
ちらりと湧いた悪戯心にどうしても顔が笑う。

「いいから、顔上げて」

蜜のような甘い声になってしまったのはわざとではない。
名前の顎を指でくいと上向かせる。吐息に心をくすぐられた。
このまま唇を塞いでしまいたくなる。動揺しているのがお互いに手の取るようにわかった。
名前の瞳がじわりと潤み、目尻に涙の粒が光る。

「あ!」

その涙と共に、目の中のまつげも取れた。

「銀さん、まつげ取れたみたい……だから……」
「よかったじゃん」

名前の顎にそえた指はそのままに、一呼吸ごとにじわりじわりと顔と顔との距離を詰めていく銀時に、名前は動くことができなかった。
優しい表情をしているのに、男らしい色っぽさがあふれていて、名前は背筋や心臓に甘い電気が走ったかのようにぴくっと身体を震わせた。
そしてあともう少しで唇が触れ合うというその時だ。

「銀さああああああああんん!!!!!」

自然に瞼を閉じ銀時を受け入れようとしていた名前の目の前から、銀時が勢い良く横に倒れていく。

「やだわあなた達、こんな時間にこんな道端で一体何してるわけ!? 暗くなって変な人でも出たらどうするのよ!」

どうやら横から銀時にタックルしてきたらしい猿飛あやめがテンション高く現れた。
こんばんはと言うべきか元気そうだねというべきか、口をぽかんと開けつつ迷っていると、
そんな名前の目の前で猿飛あやめは銀時の身体を両手を広げ抱しめようとする。しかし

「変な人ってーのはテメーのことか!」

タックルされた後すぐ体制を立て直した銀時の豪快な蹴りにより、勢い良く遠くへ飛ばされていった。
ほんの一分間の出来事である。

「………え、と、銀さん、怪我はない?」
「おう」

微妙な空気の中、銀時は差し出された名前の手をしっかり握って起き上がる。
立ち上がりパンパンと片手で汚れを払う。しかし右手はしっかり名前の手を掴んだままだった。

「銀さん、て、が……」

銀時の大きな手が名前の手を包み込んでいた。
真っ赤になる名前だったが、銀時も頬を微かに染め、視線を夜になりかけの空に向けて口元を緩ませる。

「このまま帰ろーぜ」
「……うん。こうしてると、あったかいね」

名前は銀時の身体にそっとその身を寄せるように距離を詰める。
そうすることが当たり前のように、二人は寄り添い帰り道を歩いた。

ゆっくりゆっくり歩いたが、あっという間に万事屋の玄関前に着いてしまった。
この手をそのまま繋いでいたいと名前は思ったが、銀時はあっさりとその手を離してしまう。
幸せな時間が終わっちゃったな、と少し俯いた名前の頬に、銀時が指でゆっくり触れてきた。
え、と銀時を見上げた。いつになく深く、熱い銀時の眼差しに、名前の頬は再び熱を持つ。

「名前」

頬に触れる銀時の指の上から、名前も自分の指を重ねた。
何も言わなくても通じ合える瞬間があるというなら、今がそうだろう。

触れたい、触れられたい、二人の顔と顔の距離が近づいていく。

しかし唇が重なる寸前。

「どこ行ってたアルか! 銀ちゃん私牛乳持ってこいって言ったよな! どこまで取りに行ってたネ!」

神楽が玄関を開け銀時に飛び蹴りをしてきて、先ほどの猿飛あやめにやられたように銀時は横にバタンと倒れる。


こうしてまた、二人の距離はうやむやになってしまった。
いつもいい雰囲気になっては邪魔される二人が、ようやく恋人になれたのは、次の日の朝のこと。



そして本編の「二人が恋に落ちるまでの話・後編」に続きます。

■付き合う前の、互いの真意を手探り状態の時期の2人で、ヒロインの目に入ったまつげを坂田氏にとってもらう
■銀さんと夢主が付き合う前の友達以上恋人未満みたいな関係のお話

このリクエストで書かせていただきましたー!
真意を手探りどころか互いにバレバレ状態になってしまってすみません……!
こういう甘酸っぱいお話は書いててすごくウキウキしてしまいます。
リクエストどうもありがとうございました!

2014 6/11 いがぐり

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