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企画
笑いあうただそれだけで


手術台の上に横たわり、上を向く。
緊張していた。とても。だけど、それを上回るくらいワクワクしていた。
こわくないのかって? いいえとんでもない。
だってもうすぐ私の大事な大事な子に会うのだ。楽しみで楽しみでたまらなかった。

「ゆっくり数をかぞえてくださいね」

大きなマスクの看護師さんが落ち着いた声をかけてくれる。
こういうのドラマで見たなー、本当に言うんだ。
全身麻酔って初めて。意識なくなる前に、頭に強くひとつのことを思い浮かべ、どうか無事に会えます様にと願う。
口に麻酔のマスクが被せられる。いよいよだ。深く深く息を吸う。数を数える前にもう、頭の芯にもやがかかる。

名前。

元気でやってる? 私のこと忘れてない? すごく会いたかったよ。
光が見えた。手術で使う照明器具じゃない、もっと強い、私をあの子のところへ運んでくれる鮮烈な光。

今からそっちに行くから。

まってて





「ただいまー。あれ、新八くんの草履も神楽ちゃんの靴も無いねえ」
「定春の散歩じゃね?」

麻酔によって深く深く沈んでいたはずの私の意識は、名前の声に素早く反応し自分でも驚くほどの素早さで目をカッと見開いた。
見覚えのあるこの天井。そして変な額縁。ここは手術室じゃない、名前の居る世界だ!よし大成功!
ソファから起き上がる。うわっ私手術着じゃん。まあいっか、今は名前に一刻も早く会いたい!

「名前!!!」

部屋に入ってきた名前がぽかんと私を見て目を見開いた。え、え、と口をぱくぱくとさせて。
どしたー、と続けて入ってきた坂田さんも、同じ表情になる。

「オ、オメー……」
「お久しぶりです坂田銀時さん。ちょっとこれから名前と感動の再会するんでどいててもらえます?」

名前の肩をしっかり抱くような格好をしていた坂田さんは、唖然としつつその手を離してくれた。
即座に名前を抱しめようと両手を広げて飛びつかんばかりに名前に向かっていくと、
「待て待て、ちったァ落ち着けって」と坂田さんが名前を庇うように前に立ちはだかるものだから、私は名前を抱しめる為に両手を広げたまま足を止めた。
邪魔すんなと睨むと「腹見ろ、名前の腹。オメー勢い良すぎだっつーの」とため息を吐かれる。
腹がなんだっての、と名前のお腹に視線を落とす。
んんん? ふっくらと大きくなっていて、まるで、まるで

「妊娠してるみたいじゃないの!」
「みたい、じゃねーよ妊娠してんだよ!」
「誰の子よ!?」
「俺の子に決まってんだろーが!」
「聞いてない!」
「どうやってオメーに伝えるってんですか!」

嬉しいやらビックリするやらで何故か坂田さんとの会話がヒートアップしていくのを止められずにいたが、
名前の「ふふ」という可愛らしい笑い声に、私と坂田さん、同時に口を閉じて名前を見る。

「久しぶりだね、相変わらず変わってなくて嬉しいよ」
「人間そうそう変わらないって、あんたは体型が変わったみたいだけど」

名前が私の言葉にふっとふきだして、「会いたかった」とふわりと抱きついてくる。
ああ、名前だなあ。

「あのね、私、銀さんと夫婦になったの。でね、赤ちゃんもできたの」
「うんうん、ほんとにおめでとう名前。幸せ一杯って感じで安心した」
「ありがとう。私毎日すっごく幸せだよ。ところで、」

名前が私の名前をその柔らかな唇に乗せて、ちょこんと首を傾げる。

「ねえその格好、どうしたの?」
「ああ、私今手術の真っ最中なんだ」
「えっ……!?」

ふわふわと笑っていた名前の顔が、心配でいっぱいの顔になる。

「泥酔して転んで足を骨折しちゃって」
「…………」

あ、心配顔から呆れ顔になった。いやあ、沈黙がこわい!
そういえばこっちの世界では向こうの世界で怪我してても影響ないんだっけ。
向こうでは手術しなければならないほどの怪我をしていた私の足も、こっちでは自分の足で当たり前のように立てる。

「ちょっと複雑にバッキリいっちゃったらしくて全身麻酔で手術っていうからさ、この機会に名前に絶対に会ってやるって強く思ったの。
 ほら、手術って何時間もやるから前回みたいにすぐ帰らなくてすみそうじゃん」
「…………」
「あっはっは、よかったうまくいって」

あれ、呆れた顔がふたつ。
夫婦って似てくるっていうけど、今の坂田さんと名前、表情ソックリ。やだー、私の可愛い親友が死んだ魚みたいな瞳になっちゃってるー!

「色々と言いたい事はあるんだけど、とりあえずその格好じゃなんだから、私の着物きない?」
「えー、私着物なんて自分で着付けできない」
「銀さん上手だよ」

「えっこの男に着せてもらえって!?」
「えっこの女に着せてやれっての!?」

「わあ、綺麗にハモったね」
「わあ、って手を叩いて喜ばなくていいよ名前。いいよ私はこれで。面倒だし、こっから出ないから」
「そう?」

じゃあお茶でもいれてくるね、と言う名前の肩に坂田さんが手を置いた。

「俺がやるよ。二人で積もり積もった話でもしてろって。どーせどんだけあっても時間足りねーだろ、女ってのは寄ってたかってピーチクパーチクお喋りだからな」
「銀さん、ありがとう」

名前にどこまでも優しい顔でにこっと微笑みかける坂田さんは、なかなかイイ男に見える。
幸せに暮らしてるんだろうな。毎日、深く愛されて、満ち足りた毎日を送ってるって顔してる。

「赤ちゃん男?女? どっち?」
「男の子なの」
「坂田さんに似ないよう祈ってるね」
「もう、変なこと祈らない」

私の近況、名前のご両親の近況、観ていたドラマの続き、好きだった芸能人のこと、
名前と坂田さんのこと、こっちの家族のこと、新しい友達、楽しい日常。

坂田さんの出してくれたお茶と甘いものをつまみながら私達は口を動かし続ける。
お腹をかかえて笑う。
名前のお腹の赤ちゃんの動きに手を当てたら、ぐるんと動いてビックリする。また笑う。

お喋りは尽きない。
けれど、楽しければ楽しいほど時間は瞬く間に過ぎていく。

「あ、」
「どうしたの?」

以前襲われたことのあるあの眩暈。それを感じて思わず口を結んだ。

「ちょっと、くらっときて」
「………めまい?」
「うん」

名前が泣きそうな顔になる。
時々茶々を入れつつ、穏やかな顔で窓辺の椅子にもたれ漫画雑誌を読んでいた坂田さんも、私達の様子に気付き雑誌から静かに顔を上げた。

「もう時間か、仕事速すぎ」

タイムリミットが迫ってきている。
魂が引っ張られる感覚。向こうの世界へ戻ろうとしているのだ。

「手術が無事に終わったってことだよ。これからリハビリとか大変だろうけど、頑張って」
「あんたも、出産頑張ってよ。産んですぐ赤ちゃん見れないのは残念だけど、また来るから!」
「ふふ、飲みすぎは身体によくないから、他の方法探してきてね」
「大丈夫大丈夫、ちゃっちゃと足治して今年の冬にはスキーに行く予定だからさ」
「また折る気かよ、次は両足いっとくってか」

消えかかる私の手を名前がそのあたたかな手で包む。
名前の横に立った坂田さんが、名前の肩をそっと抱いた。
この二人を見ると安心する。支えあって、愛しあって、どちらかが重過ぎるということは無く、すごくバランスがいい。

「またこいや」
「うん、ありがとう坂田さん、名前、私絶対にまたくるから」
「身体に気をつけてね」
「名前もね」

眩しい眩しい光の彼方、名前と坂田さんが笑って手を振っていた。

うん、また会える。
絶対に会いにいってやる。

きっとその時は、名前は赤ちゃんを抱き、同じように幸せ一杯に笑ってるだろう。



その時が、楽しみで仕方がない。






■ヒロインの親友が気合いで銀魂の世界にトリップしてきてしまい、銀さんがヒロインを1日とられてしまうお話

のリクエストで書かせていただきました!
親友と銀さんの会話が書いててたのしかったです!
素敵なリクエスト本当にありがとうございました!親友がまた書けて嬉しかったです。

2014 5/27 いがぐり

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