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企画
普通の日でも特別な日でも
※金魂篇です。
「不安定で不確かな」の続きのような感じです。





「名前」

買い物をするため大江戸スーパーへと向かっていた名前は、不意に背後から名前を呼ばれ、歩いていた足を止める。
聞き覚えのある声だった。けれど、毎日呼ばれていた時よりもっと穏やかに感じられた。
名前は驚く様子も警戒する気配も見せずゆっくりと振り返る。
夫である坂田銀時と同じ背格好、同じ顔、着物の色と髪の色と質だけ違うサラサラヘアーの金髪の坂田金時がいつの間にか名前の後ろに立っていて、
「よう」と爽やかに笑って手をあげた。

「久しぶりだね、金さん」

名前が最後に金時を見たのは学生服姿で首だけ地面から出ている姿の彼だったが、目の前の金時は以前と同じ銀時と色違いの服装をしている。

「元気そうだな、名前」
「うん、金さんも」

二人は一時、夫婦だった。
町の人々、新八や神楽、そして名前も特殊な催眠波によってこの男に洗脳され、
銀時ではなく金時を、この世界に繋ぎとめ、命を抱き上げ愛し合い夫婦になった愛しい者だと思い込まされていた。

「名前、今日、誕生日だろ」
「覚えててくれたの?」
「俺の頭脳はオリジナルのアイツと比べ物になんねーほど優秀だからな」

プラモデルの金時に性欲というものは無かった。
名前が求めれば応える機能はあったかもしれないが、名前も金時に抱いてもらおうとはしなかった。
どうしても引っかかったのだ。何かが違うと。
あんなにも愛して、愛されて、昼夜となく求めあっていた時があった筈なのにと、自分がおかしくなったかと思った。
夫婦だった間、金時と名前に身体の関係は無かったが、
銀時不在で心の拠り所を求めていただけに、新八や神楽はいとも簡単に金時に洗脳され、
二人が懐き、信頼を寄せるようになったこともあり、名前も心の葛藤を抱えつつ表面上は普段のように接していた。
普通に会話もしたし、笑いあった。愛することとは違うが、家族のような感情だってあった。一緒に生活していたからだ。

「私に会いにきてくれたの?」
「ああ、ちょっくら渡したいモンがあってな」

金時は左手の薬指にはめていた金の指輪をするりと指から抜く。

「銀時にやられた身体から源外のジジイが回収してきたんだよ」

静かに笑みを浮かべ、金時は指輪を名前に差し出した。
名前は複雑な表情で受け取れない、と首を振る。

「アンタはかなり早い段階から、しかも自力で俺の洗脳から抜け出したんだっけな」
「夫が帰ってきてくれたんだもの」
「俺も夫だったろ」
「あなたにそう思い込まされてただけ。私の夫は銀さんだけだよ」
「けど、俺の女房は名前だけだったぜ」

名前の手首をやんわりと掴み、強引に手のひらに指輪を乗せる。

「オメーにやるよ。質に入れるなり売り飛ばすなり好きにしてくれや」
「でも」
「じゃあな」

用は済んだ、とでも言うように金時はあっさりと名前に背を向ける。
しかし歩き出す前に振り返ると、指輪を握って立ち尽くしている名前に笑って言った。

「誕生日、おめでとう」



名前はそのまま万事屋へと帰った。台所からは楽しげな会話が聞こえてくる。

「ヤメロ神楽、余計な手出しすんなって!」
「銀ちゃん、もうちょっと力入れてまぜなきゃ駄目アルよ。私に貸すネ!」
「オメーに貸したら泡だて器が壊れちまうだろうが!」
「神楽ちゃん、こっちで果物切ってよう」
「つまみ食いOKアルか!?」
「ケーキに使う分は残しとけよ。皮食ってろ皮」

三人の会話にほっと胸があたたまるのを感じながら、ただいま、と小さく言って台所へ入る。

「名前!? もう買い物終わったアルか」
「ううん、まだだよ。戻ってきちゃったんだ、みんなの顔を見たくなっちゃって」
「僕達の?」

三人は不思議そうに名前を見つめてくる。
名前の為にケーキを作っている銀時は、名前の言葉を聞き、どうしたんだと横顔で笑った。

「金さんが会いにきてくれたの」

そう言うなり、泡だて器を動かし卵液をかき混ぜ続ける銀時の背中に両腕でぎゅっと抱きついていく。

「アイツが? 何しに」
「誕生日おめでとうって」

新八と神楽は名前の様子に、これは銀時と二人きりにした方がいいなとアイコンタクトを取ると、
空の買い物籠を手に取り「僕たち買い物してきますね」と気を利かせて買い物へ行った。

「そんだけかよ」
「指輪を渡されたの。金さんが薬指に付けてた」
「ああ、そういや付けてたなアイツ。で、それもらったんだーへえー、よかったねー名前ちゃん」
「断ったんだよ。でも、握らされちゃって。もらってもどうしたらいいのか」
「そりゃ自分で考えな」
「……銀さん、怒ってるの?」
「いいや」
「怒ってる」
「怒ってねーって」

砂糖を入れた卵がしっかりと泡立ったところへ、小麦粉を入れてヘラでさっくりと混ぜる。
さっさっさっと、銀時の手つきには迷いが無い。器用なのだ。

「怒っちゃいねーが妬いてるかもな」
「妬かれるようなことはしてないよ」
「指輪握らされたって言ったよな、アイツに手ェ握られたんだろ」
「あ……うん」
「クソ、今度会ったらアイツ捻りつぶす」

ブツブツと、名前に触っていいのは俺だけなんだよ、と文句を言いながら、銀時は生地に溶かしバターと牛乳を加えた。
それを混ぜ、型に生地を流すと予熱していたオーブンへ入れる。

「銀さん」

銀時の背中に張り付いたまま、名前は銀時の様子を伺うかのように弱弱しい声を出す。
金時と再会し、銀時が居なかった時の寂しさや金時との生活の違和感が蘇り、どうしようもないくらい不安な気持ちになってしまったのだろう。

「焼けるまで30分だ。それまでちょっくら身体検査でもさせてもらうぜ名前ちゃん」
「えっ、……きゃっ!?」

突然振り返った銀時に横抱きされ、名前は反射的に銀時の首へ腕を回した。

「身体検査って、私、金さんには何もされてないよ」
「いやいや、また怪しい催眠波とかかけられてるかもしんないじゃん。身体が疼いちゃってるとかない? もしかしてこれからそういった症状出るかもしんねーかんな、銀さんがじっくり治療してあげるから」
「待って待って銀さん、ケーキは? ご馳走は? 私に作ってくれるんでしょう」
「ぱっつぁん達が帰ってからな」
「昨日一晩中したじゃないーー!」
「あああれ、銀さんからの誕生日プレゼント」

しれっと言うと、和室へ名前を連れ込み畳みの上に押し倒す。

「ちなみに、そのプレゼントは勃たなくなる年齢まで有効だから」

この強引さ、名前を見つめる熱い瞳に、ああやっぱり銀さんが好きと名前は思う。
名前の不安を感じ取り、自分の全てを持って名前の心を包み込もうとしてくれる優しさが嬉しい。
すぐに下半身でもって絶頂と共に不安を押し流そうとしてくれるのはたまにいかがなものかと思うのだが、
それでも銀時に求められると、拒むという選択肢などちらりと浮かぶこともなく受け入れて、結局自分からも銀時を求めてしまう。
性欲以上に愛しさが溢れて自分でもコントロールできなくなるのだ。

「ねえ、もう一度言って」
「は? なにを」
「誕生日の」
「ああ、誕生日おめでとさん、名前」
「ありがとう銀さん」

驚くほど情熱的な銀時の口づけに応えながら、名前は産まれたこと、生きていることに感謝した。





■ヒロインちゃん誕生日おめでとうイチャイチャ話!
■金さん登場で夢主と仲良くしてるのを銀さんが焼きもちやく話

こちらのリクエストで書かせていただきました♪
金さんの話も誕生日の話も、ずっと書きたかったので書く機会を与えていただけて大感謝です!
すごくウキウキを書かせていただきました!
偶然にも、今日は銀魂の生みの親、空知先生のお誕生日!!
素晴らしい日です。空知先生おめでとうございます!
そしてリクエストくださった方、読んで下さった方、本当にありがとうございました!

2014 5/25 いがぐり



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