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企画
容赦を知らないあの二人
※短編の沖田とその恋人の年上女中が出てきます




「この季節って、あったかいのと冷たいの、どっちにしようか悩むよね」
「そうですよね、外を歩くと暑いけど日陰だとひんやりしてるし」

同じ年頃の二人の女性が、にこやかに笑いながらそれぞれが手に持つメニューとにらめっこしていた。
二人の内の一人はふんわりとしたまあるい笑顔が可愛らしい銀時の妻、名前で、
その向かいに座るのは涼やかな目元が印象的な美しき真選組の女中であり、一番隊隊長沖田総悟の恋人だ。
ふとした瞬間に相手がどんな表情をしているのか気になり視線を上げると、その上げたタイミングがぴったり一緒で、二人は照れくさそうに微笑み合う。
まるで初々しい付き合いたての恋人同士のようだ。

「俺ァ冬でもパフェ食うけどな」
「旦那、声落とさねーと、俺達がこっちで盗み聞きしてんのバレちまいますぜ」
「盗み聞きって、沖田君人聞き悪いこと言わないでくれる? 俺達ゃたまたま名前達が入った店に た ま た ま 入っちまっただけだぜ」

道沿いに植えられた力強い緑の葉を揺らす大きな街路樹が見えるオープンカフェは、かぶき町の若い娘に大人気の店だった。
この店はいくつものパラソルの下に二人〜四人がけのテーブルと椅子が設置してあり、そこかしこに緑が配置されていていて客同士の姿が見えにくいよう配慮がしてある。
銀時と沖田は、名前達が座る席の近くに心持ち姿勢を低くし目立たないよう座っていた。
女同士でお茶するの、と名前と沖田の恋人が今日この店に行くと知り、二人はこっそり後をつけてきたのだ。

「このお店、素敵だね。沖田くんとよくデートにきたりするの?」
「うーん、総悟とは一緒に住んでるから、あまりデートらしいデートはしないかも」
「そうなんだよねえ、一緒に寝起きしてると、それだけで満たされちゃうっていうか。でもたまに一緒に買い物に行くだけですごくドキドキしちゃわない?」
「名前さんって、本当に銀さんのこと好きですよね」

その言葉に「うん」ととびきりの笑顔で驚くほど自然に頷いた名前を、
沖田の恋人が眩しいものでも見るかのように目を細めて笑う。
そして、知ってはいたけど改めて、名前のことを本当に可愛い人だと思った。

「旦那、旦那、居眠りですかィ」
「違うよ沖田くん、俺はな、嬉しくて叫びながら名前をこう、むぎゅっと抱しめたい衝動を今必死に堪えてんの。わかる?」
「ああ、ちっともわかりやせん」

両手で握りこぶしを作りテーブルに顔を突っ伏して震える銀時に、沖田は「やれやれ」と呆れた視線を送る。
その時、会話の流れで名前が、でも……さんだって沖田くんのこと大好きでしょう、と聞こえ、沖田は銀時の手前ポーカーフェイスを保ったまま姿勢を正して耳を澄ます。

「そ、う、ですね。うん、そりゃあまあ、困ったところもあるけど、頼りになるし、優しいし……」
「一途だし、強いし。あ、これは銀さんもだね、ふふ。沖田くんて、若いのにすごく落ち着いてるよね。二人とも美形だから並んでるととってもお似合い」
「やめてくださいなんか恥ずかしい。それに総悟は美形だけど私は違いますって」
「そんなことないよ。あっ、もしかして照れてる?」
「もう名前さん!」

本人は否定するが、あれだけ整った顔をしている沖田と並んでも全く見劣りすることの無いほどの美人の、
その何も飾らない素の表情を見せてもらえて名前は嬉しくなる。
こうして話しているうちに、最初やや緊張していた空気が次第にくだけてきた。
二人の距離は知り合い以上友達未満から友達へと確実に変化していて、その感覚は互いに手に取るようにわかり普通に話しているだけなのに笑顔が耐えなかった。

「ドSが抜けてるぞドSが。沖田君を語る上で一番欠かせないキーワードであるドSが」
「自分の女にゃ嗜虐心なんざわいてこねーですって。たまにチラつかせてマンネリ化しねーように刺激的に遊ぶことはありますがねィ。旦那だってそうでしょ」
「いやいやいや、俺が名前ちゃんにそんなことするはずないでしょうが!」
「またまたァ。視界奪って焦らしまくるレベルのことなら当然やってんでしょ」
「ああ、あれはイイよねウン。泣かせないギリギリのレベルでじっくり愉しみたいのと自分の理性との戦いだよね」
「お盛んなことで」
「最近はアレだけどな、ほれ腹ん中にガキがいっから、ハードなプレイはしようたァ思わなくなっちまってアレとかコレとかで満足することが多くなったんだけどよ」
「それにしても妊婦に対しても性欲湧くんですかい。筋金入りのドスケベ野朗ですねィ」
「違いますゥー、ドスケベじゃありませんー名前ちゃんだから湧くんですゥー」

銀時はパフェのグラスの中で溶けかけたチョコレートアイスを長いスプーンですくい、ぱくりと口へ入れる。
向こうのテーブルは、二人ともあたたかい飲み物を飲んでいるようだ。
と、そこで銀時達は違う席に座る男が二人、名前達をチラチラと見てニヤニヤといやらしく笑っていることに気付く。
沖田も気付いたようだ。相手は一般人だというのに、自分の恋人が狙われてると察知した瞬間、いい度胸だと言わんばかりの殺気に似た空気を発する。
おーこわいこわい、と銀時はそよそよと柔らかく吹く風に髪の毛を揺らしつつ、持っていた長いスプーンをカランとパフェのグラスへ落とした。

「俺、美人の方」
「じゃあ俺は可愛い方な」

名前は妊娠中で、もうお腹も目立ってきているが、座っている上に観葉植物でうまい具合に上半身しか見えておらず、男達の目には妊婦とは映っていないらしい。

「二人とも上玉だなー。ヨダレ出そうだ」
「なあなあ、早く声かけに行こうぜ」
「やめときなせェ。あの人達はオメーのようなヘボ男にゃ目もくれませんって」
「そうそう、それにあれほどの女達を身の程知らずにナンパ? ハッ、してみろよ、彼女達の専属ボディーガード達に地獄の底まで叩き落とされても知んないぜ」
「なんだお前ら!」
「おいやめとけ、こいつ、真選組の……」

私服だったが、沖田のことは知っていたようだ。
男達は二人の放つ禍々しいオーラから瞬時に名前達と銀時達の関係を悟り、あたふたと逃げ出そうとする。
駆け出そうとする二人の足を、銀時の足がひょいと引っ掛け「あっごめーん、足が長くてぇ〜」と、男達を同時に派手に転倒させた。
銀時はその男の一人に向かって膝をかがめ、とびきりの笑顔で「自分の身が可愛けりゃあいつらに二度と話しかけようと思うなよ」とゾッとするような低い声で警告する。
その迫力は静かだが深く、片方の男の背に足を置き草履裏の汚れを拭いていた沖田もおっと目を見開き思わずにやりと笑うようなものだった。
男達は泣きそうな顔になりながら去っていった。

「あれ、銀さん? 沖田くんも」

名前のふんわりとした声に銀時と沖田がギクッと背中を引きつらせる。

「あっれー、名前ちゃんぐーうーぜーん! 俺ァね、沖田くんにどうしてもって言われてこの店に連れてこられたんだけどー」
「そうなんだ、本当に偶然だね」
「へえ偶然ね。すごいよね総悟、同じお店に居た上にこんなに席が近いことに気付かなかっただなんて」
「全くでィ。偶然ってすげーですねィ」

何となく、この場所に二人が居る理由を察した様子の沖田の彼女だったが、名前は単純に銀時に会えて喜んでいるようだ。
結局、流れでダブルデートのようなものになり、たっぷり一時間ほどなんやかんやで楽しい時間を過ごした四人だった。




「名前さんって一緒に居ると和むなー。楽しかった」
「そりゃよかったですねィ」
「二人とも幸せそうだったね。見た? 銀さんのあのふにゃふにゃした顔」
「いや、俺は旦那の顔よりアンタの顔見てたんで」
「……あ、そう」
「はは、照れてらァ」

顔をまともに合わせていられずさりげなく視線を他所へ向けるが、沖田は顔をひょいとかがめ強引に視線を合わせてくる。

「出産予定日、九月ごろだって」
「ふーん。来年ですかい?」
「何言ってるの。今年に決まってるでしょ」
「いや、俺達のガキの出産予定日かと思ったんですがねィ」

さらりと笑って沖田は恋人の肩を抱き寄せる。

「どうしてそう思うかな!?」
「そうなったらいいと思ったんでィ。もっと早くなっても構いやせんが」
「総悟って冗談言ってるのかと思いきやこれで本気なんだからこわい」
「お、俺のことわかってくれてて嬉しいや。じゃあ俺たちも子供つくっちゃいますかィ?」
「いつかね」

意外な反応に、沖田は目をぱちくりさせた。
てっきり「簡単に言わないで!」と頬を染めるのかと思っていたのに。

「ねえ総悟、いつ私にプロポーズしてくれる?」

恋人の言葉に顔を真っ赤にした沖田だった。




■ヒロインと年上女中さんが仲良くなり互いの彼氏(旦那)の惚気を話しているのを銀さんと沖田さんが盗み聞きをしている話
■銀さん夫婦の話から俺たちも子供つくっちゃいますかィ?なんて沖田にからかわれる年上女中の話
■沖田の彼女と一緒に遊び歩いてるとナンパされ心配でこっそりついてきていたドSコンビにナンパがぼこられる

以上のワクワクウキウキリクエストで書かせていただきましたー!
ドSコンビの会話を書くのとっても楽しかったです!
どうもありがとうございました!

2014 5/19 いがぐり

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