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*いつも同じ瞳(藤)
五里霧中
「申し訳ないけど、思い出せそうにない」

麓介にもらったポテトをいつもより時間をかけて咀嚼した後、素直に白状した。

「これっぽっちもおぼえてねーんか」
「もうサッパリ」
「そんなことだろーと思ったぜ」

そう言いながらも麓介はがっくりと肩を落とし大袈裟に項垂れる。
そんな麓介の頭に手を置き、よしよしと撫ぜてあげた。
こんなこと慰めにはならないだろうけど、やらずにはいられなかった。

「名前、覚えて無くても10年前の自分が言った言葉の責任は今日きっちり取ってもらうかんな」

キッパリと告げられた麓介の言葉に、頭を撫ぜていた手が硬直する。
それって何のこと?なんて気軽に聞いたらデコピンされそう…。
あくまで麓介は私からのリアクションを待っている。
いや10年前に言った自分の言葉を忘れてる状態でリアクションなんて取れないんだけど。
固まる私の手を取り麓介がニッと笑った。

「おっせーなアシタバ達」
「急に呼び出したにも関わらず来てくれるんだから文句言わないの」
「急じゃないぜ、今日集まることになってたじゃねーか」
「え、そうだっけ?約束してたの先週?」
「10年前。あいつらも忘れてんだもんな、薄情な奴らだぜお前も含めて」

出たよ。もういいよ10年って言葉。
意地でも思い出せとじわじわ圧力をかけてきてるな麓介のやつ。
本人は飄々とした顔で二人きりなのをいいことに崩して座る私の足に胡坐を組んで座る自分の足を密着させてくる。
取られた手を優しくきゅっと握られた時、ふすまの外から「こちらになりますー」という店員の声が聞こえた。
誰か着いたのかも、と麓介の方へ寄せていた身体を離し手も外そうとしたけど、握ったまま離してくれなかった。

「こんな状態でいたら恥ずかしくない?」
「いまさらだろ」
「いや私達がじゃなくて」

小さくやり取りをしてる間も私達の視線は出入り口のふすまに固定されていたが、そこが開くことはなかった。
どうやら隣の個室へのお客さんだったらしい。
なあんだと気が抜ける。それにしても美作くん戻ってこないなあ。

「そういや親父と山蔵がお前の顔見たいって連絡してきたぞ」
「最近顔を見せてなかったね。来週にでも一緒に行こうか」
「…親父は名前のこと最初から気に入ってたよな。あんなに拍子抜けしたことはなかったぜ」

麓介は私の瞳を覗き込みながらゆっくり喋る。
顔が近いってば!と口を開きかけたが麓介の唇で塞がれる方が早く声を出す間も無かった。
瞼を閉じ、すぐに離してくれなさそうな麓介の唇をやれやれと受け入れようとしたその刹那、脳裏に浮かんだ甘酸っぱい記憶。

懐かしい2-Aの教室
あどけなさの残るクラスメイト達
顔を真っ赤にした麓介

「思い出した!」

記憶が一気に甦った。




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