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*いつも同じ瞳(藤)
4年後計画
結婚させられる18歳まではまだ4年もあるし、焦らず今後の対策を考えようと言って苗字は笑った。
だけど俺は上手く笑顔を返せなかった。
4年もある、じゃなくてたった4年しかないんだ。
紋付き羽織袴を俺に送った時点で、家は水面下で見知らぬ女との婚約に向けて動いていると見ていいと思う。
山蔵に袴が届けられたのは山蔵が高校生の頃だった。
まだ中学も出てない俺にこれを送ってきたのは、何かにつけて反抗的で逃げてばかりの俺に釘を刺してるつもりなのだろう。

逃げられないぞ、大人しく従え、と。

俺の家のことを表面的にしか知らない苗字は、問題を楽観的に見てる。
手を繋いで、押し当てるだけのキスをして、幸せそうに微笑む苗字とは反対に、俺の心はどんどん沈んでいく。
来年のことだってどうなるかわかんないじゃんと苗字は言った。
でも俺にはわかる。今以上に苗字のことが好きになってる。断言していい。

「どーすりゃいいかわかんねー」

見えない不安に体中拘束されてるみたいな気がしてたまらない。
それも桐の箱に無造作に仕舞い押入れに突っ込んである紋付き羽織袴のせいだクソ。

「何の話?食欲無いみたいだけど、深刻な悩みでもあるの?」
「のんきでいいよな、お前は」

箸で持ったままの真鯛の西京焼きに熱い視線を注ぐ苗字の口にそれを入れてやりながら小さく溜息を吐く。
もぐもぐと幸せそうに咀嚼する苗字に、ふ、と口元が自然に緩むのがわかった。
こいつはこれでいいんだ。
俺と一緒になって大きな壁の前で二人してどう乗り越えようか顔をしかめてるより、こうしてのほほんと笑って心を軽くしてくれるほうがいい。
心が軽くなれば忌々しい壁すら簡単に飛び越えられる気がしてくる。
笑ってるこいつを引っ張りつつ、親父に舌を出して飛び越えてーな。さぞかし爽快だろう。
あともーちょい勢いをつけることが出来たら…。

「麓介くん、その付け合せも下さいな」
「欲しけりゃやるよ、勝手に持ってけ」
「藤!伊勢海老くれ!」

苗字に弁当箱を差し出すと、目の前に座った美作が伊勢海老を狙って身体を乗り出してきた。
普段はアホな発言ばかりだが、どっしりとした見かけと同じぐらい中身もしっかりしてるよな。

「ヤダ」
「苗字にだけズルいぞ!!」
「まあまあ美作くん…」

アシタバが美作を宥める。
こいつは穏やかさが特徴のように見えて、その実相当頭が切れるヤツだ。
相談してみるか、こいつらに。

「………じゃあこれやる代わりにお前の力を貸りてーんだけど」

俺の言葉に今まで見せたことも無い真剣さを感じ取ったのか、美作が微かに顔を引き締める。
すでに空になっていた弁当箱に伊勢海老を置いてやり、その横のアシタバに「アシタバにも力になってもらいたい」と告げた。






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