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どれを読んでも笹塚さん
甘々夫婦(笹塚さん夫婦と弥子ちゃん)


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失礼夫婦の続きの話でございます。
なんだか似たような話ですみません。
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「弥子ちゃん、遠慮しないでどんどん食べてね。あ、ほらほらこのフレンチトーストなんてどう?」
「わー、どれも美味しそう!」
「ここのフレンチトースト、キャラメルがかかってて、アイスクリームもたっぷりだよ?」
「凄い!チョコレートパフェにでっかいケーキがのってる!これからいこうかな」
「バターの絶妙な塩加減ときたら素晴らしいの一言なんだよ!ちょっと弥子ちゃん聞いてる?かかってる粉砂糖が雪のように綺麗でね……」
「すいませーん!このチョコレートパフェとモンブラン、あとハムサンド!」
「…………私は…フレンチ…いえ、アイスココアを…」

かしこまりました、とウエイトレスが注文を聞き去っていく。
名前はじっとりとした恨みがましい視線を弥子へと送るが、弥子にさっとメニューでその視線を遮られてしまう。

「弥子ちゃんの意地悪。私、今日は物凄くフレンチトーストって気分だったのに」
「だって名前さんにあげたのバレたら笹塚さんに怒られちゃいますもん」
「バレないって、弥子ちゃんのを一口もらうだけなんだから」
「名前さん自分の旦那さんが刑事ってこと忘れてませんか。すぐバレますって。しかも名前さんって嘘つけないじゃない。すぐ顔に出るし」
「そんなことない!フレンチトーストの一口や二口や三口や四口くらい気付くわけないって」
「どんだけ食う気だよ…名前」

名前の後ろから掛けられた声に、名前はビクリと身体を固まらせた。
弥子はやれやれといった表情で「こんにちは笹塚さん」とやっとメニューを閉じる。

「なんで衛士がここに」
「刑事の勘」

嘘ばっかり、と眉を寄せる名前に微かに笑うと、笹塚は名前の隣の椅子へ腰をおろす。

「弥子ちゃんにメールもらってね。“名前さんを止める人が居ないと落ち着いて食べられないのでお願いします”だってさ」
「弥子ちゃん……」
「だって体重がヤバいって言ってたじゃないですか」
「臨月までもう増えちゃダメだって言われてるんだよな、名前」
「そうだっけ?」
「トボけんな」

はあと溜息を漏らしつつも、笹塚の視線は呆れ混じりというよりも愛しむような視線を名前へと送っていた。

「お待たせいたしました、アイスココアのお客様」

キビキビとしたウエイトレスの声に「あ、それ俺」と笹塚が小さく手を上げる。
それを見て名前がええっ!?と目を見開いた。
ウエイトレスは一瞬不思議そうな顔になったが、すっと流れる動作で笹塚の前にコースターを置く。
そして置かれたクリームたっぷり、その上にチョコレートソースがたっぷりかかったアイスココアはそれはそれは甘くて美味しそうだった。
名前はそのアイスココアと笹塚の顔とを情けない顔で交互に見つめる。
笹塚の表情はそんな名前のじっとりとした視線を横顔で受けるが、どこまでも平然としていた。
しかしどこか楽しげに目元を緩めている。
続いて弥子の前に頼んだ品々が置かれ、そして後から現れた笹塚の為の水が置かれた。

「ご注文は以上でよろしいでしょうか」
「あの、フレ……
「はい」

名前の言葉を遮るようにして笹塚が頷くと、ウエイトレスは小さく頭を下げて行ってしまった。
「これ名前にやるよ」といま置かれたただの水を名前の前に差し出す。
名前の顔にピキリと青筋が走った。

「そのアイスココア頼んだの私なんですけど」
「へえ」

笹塚はしれっとアイスココアについてきた長いスプーンで山盛りにのったクリームを控え目にすくう。
名前もわかっているのだ。好きなだけ食べていたら出産の時に苦しむのは自分だけでなく赤ちゃんもだということを。
しかし、日頃低カロリーの食事で我慢に我慢を重ね、今日くらいは甘いものを楽しもうと思っていただけに怒りも大きくなる。

「ちょっと弥子ちゃん、この意地悪男に何か言ってやって!!」
「笹塚さん、そのアイスココア私がもらってもいいですか?」
「違う!」

すでに大きな容器にたっぷりとのせられていたチョコレートパフェの半分を食べてしまった弥子は、名前のあわあわとする様子を見て可愛いなと思った。
少しだけ、笹塚が名前をからかう理由がわかった気もする。
笹塚は、妊婦である名前の体調を心配している反面、からかって楽しんでいるようなところもある。
甘いものに飢えているらしき名前が、今の笹塚の行動に本気で切れたらどうしよう…と、弥子は笹塚を呼んだことを少しだけ悪いなと思った。が。

「くち、開けて」

笹塚はそう言って、先程スプーンですくった生クリームを名前の口元へ持っていった。
名前はパッと表情を明るくし、ぱくりと素早く生クリームを食べる。

「うわーん、最近ずっと甘いもの我慢してたから格別!美味しい!」

名前が頬に手を当てて嬉しそうに甘さを噛み締めている横で、笹塚はスプーンに生クリームを山盛りすくいぱくりと自分でそれを頬張った。
それで大半の生クリームがなくなり、後はアイスココアを残すのみという迫力の無い姿になったグラスを笹塚は名前の前に置いてやる。

「ん。後は名前は全部飲んでいーよ」
「ありがとう衛士!夏の冷たいココアって本当に美味しいー!」

名前さん、それでいいの……?
弥子の視線に、笹塚が穏やかな声で「単純だろ名前って」と言って幸せそうにココアを飲む名前と同じような表情で笑った。





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