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長編はみだし話(番外編)
・マッサージ



名前がここへきて少しばかりが経った頃、銀時は台所でこっそりと名前が一人自分の肩に手を当ててコリを解そうとする背中を見たことがある。
銀時達の前で少しも弱音を吐いたことの無い、いつもにこにこと柔らかく笑っていた名前が初めてさらす無防備な姿だった。

名前の元居た場所は、普段の生活に着物を着ることはなかったと聞いていた。
一人暮らしから突然この万事屋で居候することになり、慣れない生活、慣れない着物に、身体にも知らず知らず疲れがたまってきたのだろうと、華奢な背中を見ながら銀時が静かに笑う。

「名前」
「わ、銀さん」

突然自分の名を呼ばれ、名前は驚いた顔をして振り返った。
そして銀時の表情を見て笑う。恥ずかしいところをみられちゃったね、と。
そんな名前の肩に銀時がおもむろに手を置くと、名前は目を大きく見開いた。
見つめていると吸い込まれそうになる名前の魅力的な瞳に、心臓が痛いほど高鳴っているのがわかった。

「はーい、まわれー右!」

その言葉に「え!?」と驚いた名前が、くるりんと銀時に身体を回転させられた。
突然のことによほど驚いたのだろう。両手を胸で組み、肩があがっている。
銀時はその後姿にくっと笑いながら、名前の肩が張っているところをゆっくり押した。
最初緊張の為かどこかこわばっていた名前の身体だったが、
銀時の指圧によりみるみる力を抜いてふにゃっと溶けるように首を傾け気持ちよさげに息を吐くのを見て、銀時は笑みを深める。

「銀さん、すごく気持ちいい」
「名前の肩、石みてーにガッチガチじゃねーか。こりゃ相当こってたろ」
「そうなのー。でも銀さん大丈夫? 指、痛くない?」
「んなこと気にしなさんな。今は銀さんのマッサージに身も心も委ねてなさい」
「ふふ、はーい。ありがとう、銀さん」

しばらく無言で名前の細くかたく重そうな肩を念入りに解していく。
さらさらとした髪の毛の、そのシャンプーの香りが銀時の鼻を柔らかくくすぐった。
名前の後頭部に唇を押し付けたいと何度も思う。
その欲望を抑える為に顔を引き締めてみるものの、心の深いところを刺激してくるような名前の吐息にたちまち頬に血がのぼり表情が崩れる。
首筋のマッサージもしてやろうかと思ったが、その壊れそうな白いうなじに触れると意識しただけで暴走しそうな自分がおそろしく、想像だけでやめておいた。

「ごめんね、こんなことしてもらっちゃって」

思春期の少年のような葛藤と欲望と戦っていた銀時に、申し訳なさそうな声がかけられた。
銀時の心がすっと大人の余裕を取り戻す。

「謝まんなって。名前も色々気ィ張って疲れてんだろ。俺は全然構わねーから、ちったァ寄っかかってこいって」

銀時の本心からの言葉に、前を向いていた名前の頭が動いた。
首を曲げ、銀時を見てくしゃっとした顔で笑ったが、すぐさま前を向き俯いてしまう。

「うん……ありがとう。本当にありがとう、銀さん」

少し、泣きそうな声だった。
俯いてしまい顔は見えなかったが、小さく鼻を鳴らして涙を堪えているらしき名前に、銀時はそれ以上声を掛けなかった。
黙って細い肩を押す。ぎゅうと強く押し、ゆっくり指から力を抜く。
それをしばらく繰り返していくと、名前がそっと銀時の胸に背中を預けてきた。

胸が熱くなる。銀時を信頼し、心も寄せてくれているとはっきり感じたからだ。
強く強く抱しめたくなる衝動をなんとか堪え、名前の頭をぽんぽんと撫ぜた。顔は見えないが名前が微笑んだのだろう。ふわりと空気が緩んだ気配がする。

「私、銀さんにはついつい甘えちゃうなあ」
「好きなだけ甘えりゃいいさ。ずっと甘やかして支えててやっからよ」
「ありがとう」

ずっと、できれば一生支えてやりたいと思った。
そんな望みは持つだけ後に胸を抉られる様な喪失感に変わるかもしれないが、
恋心というものは、そんな哀しい可能性があっても抑えなど効かなくなるものだと、抑えようとすら思わないことを初めて知った。



▽▽▽▽▽



そして、時は流れ、二人は夫婦になった。
名前は着物を着ることにすっかり慣れ、揺ぎ無く支えてくれる銀時という夫と同じくらい、この世界を愛しく思っていた。
しかし時々、肩が酷くこってしまうこともある。そんな時は「お願い、銀さん」と頼むのだ。

「んっ、銀さん……、それ、……〜〜〜っ、おねがい、もっと……」

甘えた声で、艶めいた口調で、名前が背後から名前の気持ち良いところを的確に突いてくる銀時を振り返り目を潤ませながら懇願する。

「待てって名前……ほら、ココも好きだろ?」
「そこ! やっ、すごい……!」

銀時が名前の耳元に吐息を吹きかけながらぐっと力を入れると、名前が桃色にでも染まったかのような小さな喘ぎをもらし身体を仰け反らせた。
その後頭部に唇を押し当てると「声、抑えろって。台所に居るぱっつぁん達に聞こえちまうだろーが」と銀時が笑う。

「むり、抑えられないよ気持ちよくて……」
「やっべーな、銀さんも別の意味で気持ちよくなりたくなっちまいそうになるじゃねーか」

そう言って銀時は親指に力をこめた。名前の肩の骨に沿うようにぐりぐりと移動させ、強弱をつけながら的確に肩と背中のこりをほぐしていく。
いい位置に当たると名前が可愛らしい声を上げる。
素直な反応、素直な身体。愛しさがあふれて止まらない。

「んっ、いい……!」

聞いているだけで腰に響くような声だ。
じわじわと、マッサージではなく前戯をしている気分になってきた銀時は、
下半身が名前の声に反応して興奮していることを示す為、足の間に座らせていた名前のうなじを舐め上げながら身体を密着させる。

「ひゃあ!」

名前はうなじに触れられるのが弱い。
びくんと小さく跳ねた身体を両腕で抱しめ、後頭部に一度唇を落とすと「今度はこっちのマッサージ」と着物の襟に手を差し込み、
胸の柔らかさを確かめるようにゆるく感触を楽しむように指を動かした。

「銀さん、そっちのマッサージは今じゃなくて、っ」
「いーからいーから」
「だって、台所に……!」

どうしようとあわあわする可愛らしい名前の顎を片手で捕まえ、強引に唇を重ねる。
すぐさま舌を差し込み、どうしようもなく愛しい気持ちを口付けで伝えた。





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