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長編はみだし話(番外編)
・二人きりの朝を迎える前日の話
※「二人が恋に落ちるまでの話・後編」の直後のお話です



出会った瞬間から惹かれ、想いを重ねた日々。
踏み出していいのか、それとも堪えるべきか、なんて迷いは、余りにも大きく膨らむ名前への想いと、そして名前から感じるひたむきな想いの前に消えた。



そして銀時と名前が恋人同士となった今日、

「今夜からやっと銀ちゃんのうるさいイビキ聞かずに済むアルな」

無邪気な顔でそう言い放った神楽に、銀時と名前と新八は、揃って目を丸くした。




元より名前とのことを隠す気は無かったが、唇を重ねている真っ最中のところを神楽と新八に見られたので、
もうこれ以上見られて困ることは無い、と、銀時は真っ赤になる名前に鼻の下を伸ばしながら、
ソファに座る名前の肩を抱き、堂々と自分の胸へと閉じ込めつつ幸せ気分に浸っていた。

「あの、銀さん、新八くん達も居るし、ちょっと恥かしいな……」
「そか? 俺は全然恥ずかしくないぜ」

銀時を潤んだ瞳で見上げてくる名前にとびきり甘い笑みを見せ、銀時は名前の頬へと指を滑らせる。
名前は再び銀時の胸元へ頬を寄せると、嬉しそうに瞼を伏せた。

「銀ちゃんは存在自体が恥ずかしいアルからな」
「るせーよ神楽、名前はそんな銀さんでも好きって言ってくれたんですぅー。いいだろーうらやましいだろー」
「銀さん……子供みたいですよ」
「あっごっめーん新八くん、サエないモテない万年眼鏡くんには目の毒かなァー、でもおっかしーな、手が離れねえなー、まいったなこりゃ」
「そんなバカみたいなこと言ってると、名前さんにフラれますよ。ねえ名前さん」
「え? あ、ごめんね新八くん、銀さんの胸の中があったかくて、すごく安らぐなあって思ってて全然聞いてなかったよ」

えへへ、と笑って銀時の胸に頬ずりする名前もまた、銀時同様舞い上がっているようだ。
新八と神楽はこの二人の余りにも酷過ぎるバカップルぶりに、眉間に皺を寄せ口をあんぐりとあける。
しかし、神楽と新八もわかってはいるのだ。
名前がこの世界から、いつ突然消えるかわからない。だからこそ、互いに触れ合うことを躊躇わず、喜んで受け入れたいと思っているのだろうということを。

二人がこうなったのは純粋に喜ばしいことだと思う。
けれども、少し複雑な気持ちだった。
名前が突然こちらへきてしまった時の様に、二人の世界もいつ引き裂かれるかわからない。
いくら皆が帰って欲しくないと望んでも、名前もそう望んでも、どうなるかわからない不安定な日々にこれからも怯え続ける。
恋人にしたらそれが更に大きな不安になるだろう。
しかし銀時と名前は神楽や新八以上にきっともっと複雑だろうに、切なさや不安を少しも出さないままバカップルぶりを見せ付けている。
それはまるで新八たちの不安を少しでもほぐし、安心させようとするかのようなイチャつきぶりで、
そんな二人に神楽と新八はわざと呆れたように首をすくめる。
二人がこれからもずっとこんな調子でいられますようにと心から祈りながら、ハーとわざとらしい大きなため息を吐いた。

「バカップルじゃないアル。ただのバカ二人ネ」
「やれやれ、僕達これから毎日こんな光景を見ることになるんだね」
「ケッ、最初からこんなんじゃきっとあっという間に倦怠期突入するに決まってるアル」

神楽の予想は何年経とうが銀時と名前の間に子供ができようが全く当たることはないのだが、
その時はまだ誰もそのことを知らない。
底抜けに明るい幸せな日々を送る未来が待っていることを、まだ知らない。

「神楽ちゃん、定春の散歩に行こうか。しばらく二人きりにしてあげよう」

二人きり、という新八の言葉に神楽が「あ」と何かを思いついたように手を叩く。
そしてここで冒頭の言葉が神楽の口から飛び出したのだ。

「今夜からやっと銀ちゃんのうるさいイビキ聞かずに済むアルな」

それは神楽が元々眠っていた押入れへ戻るから、銀時と名前は二人きりで同じ部屋で眠れと、そういうことだった。



名前がこの世界へきて銀時と出会い、万事屋へ居候することになった最初の夜、どこで寝るかで話し合いになった。
私がソファで、いいや俺がと銀時と名前が互いに布団を譲り合う中、あっけらかんと神楽がこう言った。

“一緒に寝るのはどうネ! 名前と私と、銀ちゃんはうんと端っこの方で”

無邪気な提案に、銀時と名前は頬を染めつつ見つめあい、
「いいかもしんねーな」と「二人さえよかったら」と同時に発言し、そして笑いあった。
客ではない、数日間だけの滞在というわけでもない。
名前の言ったことをそのまま信じるならば、たった一人この世界に投げ出されたという名前に、
ここに居ていいのだと安心させるにはこれが一番いいと銀時は思ったのだ。
以来ずっと、銀時と名前は神楽を真ん中に挟むようにみっつ布団を並べて敷いて眠っていた。

名前のことを最初から意識していた銀時は、神楽の大きな寝息に混じって聞こえる名前のすうすうといった小さな寝息に激しく感情をかき乱されもしたのだが、
神楽の寝相や歯軋りが気を削いでくれたため、案外すぐに眠れるようになった。
それよりも名前の起きたばかりのしょぼしょぼとした瞳や、銀さんおはようー、という柔らかな声は寝起きの銀時の下半身には刺激が強すぎた。
はだけた胸元につい目が行ってしまいそうになるのをぐっと堪え前かがみになりながら男の生理現象を気付かれないよう誤魔化す日々だったが、
恋人となったこれからはもう、名前への欲求を我慢する必要は無い。
そう思うと、銀時の喉がごくりと鳴る。

「何変な顔してるアルか」
「だ、だって神楽ちゃん、急にそんなこと言うから」
「そろそろ私のお城へ帰って優雅に寝たいアル」
「オメーの寝床はただの押入れじゃねーか、何が城だ何が優雅だ」
「るせーアルな、いいから二人で好きなだけヤってろヨ。そんでもって名前がずっとずっとここに居られるようにしっかり捕まえてろヨ」

神楽ちゃん……と、泣きそうな顔をして微笑む名前に銀時は瞳を優しく細めた。
そして名前にだけ聞こえるように、唇を名前の熱い耳へと移動させる。

「……まあ、こーなった以上、一緒の部屋で二人で寝てもおかしくねーよなぁ。いや、名前ちゃんがアレなら銀さん待つけど、あんま待てそうにねーけど限界まで待つかんね」

ひゃっ、と名前が更に顔を赤らめる。
目を潤ませ銀時を見上げた名前が、意を決したような表情で今度は銀時の耳元に手をあてて小さく
「……待たなくていいんだよ」と囁けば、今度は銀時の頬に血がのぼった。




「新八ィ、今夜新八の家に泊まりに行っていいアルか」
「そうだね、その方がよさそうだね」
「名前達、今でさえこんな状態なら夜になったら盛りの付いた獣みたく激しいイチャイチャ繰り広げそうアル。そうなったらうるさくて眠れそうにないネ」
「姉上に今夜神楽ちゃんが泊まっていくって言っておくよ」

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あきゅろす。
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