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長編はみだし話(番外編)
・バレンタイン前日

「すいません名前さん、せっかくきてもらったのに。姉上、買い物中に檻から脱走したゴリラに襲われかけたそうで、退治するなりすぐ帰るってさっき連絡きたんですけど」
「ゴリラってアレだろ、ストーカーの。バレンタインっつー人間のお祭りにひょっとしたら自分も混ぜてもらえんじゃないかって期待したんだろーなー気の毒に」

テーブルに出された煎餅を、銀時は大きな音を立ててかじった。

「アネゴ帰ってこなきゃチョコ作れないアル」
「大丈夫だよ神楽ちゃん、先に名前さんとはじめててくださいって」
「じゃあ名前、早く行こうアル!」
「うん」

名前の手をゆるく握っていた銀時の手が、名前が立ち上がると同時にゆっくり離される。

「俺ァ適当に茶ー飲んでから外ぶらぶらしてくらァ。終わった頃また迎えにきてやっから」
「ありがとう銀さん」

銀時は特にこの新八の家に用事があるわけではない。
お妙や神楽と一緒にバレンタインのチョコレートを作るという名前をおくってきただけなのだ。

「神楽ちゃんも女の子ですよね、チョコレート作るのにあんなに浮かれちゃって」
「だな。俺、時々あいつの性別忘れそうになってたわ。人前で平気で鼻ほじったりしてっから」
「それ絶対銀さんの影響ですよね」
「ああいう顔してるとマジで女の子みてーだよな」
「女の子みたい、じゃなくて女の子なんですよ」
「名前のおかげだな」
「ですね」

台所から響いてくる二人の楽しげな笑い声に、銀時と新八も頬を緩めた。



「神楽ちゃんは何を作るか決めたの?」
「簡単で美味しいのがいいアル! たくさん作って独り占めネ!」
「あれ、銀さん達にはあげないの?」
「やつらにこのグラさんのチョコレートなんてもったいないアル」

と言いながらも、来る途中で買ったチョコレートの材料の中に、小分けできるラッピングの袋もしっかり選んでいたのを名前は知っている。

「溶かして丸めるだけの、かんたんなトリュフにしない? これだったら私昨日も作ったし、簡単で美味しいよ」
「さっきツッキーにあげてきたやつアルか」
「うん、銀さん達の分も一緒の作ろうと思って」
「あーら、友チョコと本命チョコ、一緒のものにするなんて名前さん、アナタちょっと結婚したからって銀さんに対する愛情がちょっと欠けてきたんじゃなくって?」
「さっちゃん」

天井から滑らかな動作で床へと降り立ったのは、銀時のストーカーである猿飛あやめだった。
彼女の突拍子の無い登場に最初は心臓が飛び出そうになるくらい驚いていた名前だったが、
最近ではもうずいぶんと慣れていた。

「私なら銀さんの果てしない男の願望、そう、全身をチョコレートまみれにしてさあ私を食・べ・て!ってやつを大喜びで叶えてあげるのに、名前さん、あなたさっきなんつった!?
 トリュフ!? あんな抹茶でもまぶそうものならただのマリモそっくりな外見になるそんなチョコレートを銀さんにあげるですって!? 駄目よそれじゃあ全然駄目!」

目を血走らせながら力説する猿飛あやめに、名前は「んー、」と小さく首を傾げる。

「でも、全身チョコレートって難しいよ」
「かけてもらえばいいじゃない! 銀さんに! かけてる内に段々息が荒くなっていく銀さん想像したらあああああああ! 興奮するじゃないの!!!」
「落ち着いて、さっちゃん」
「落ち着いてるわよこれ以上ないくらいにね」
「異常ない? 異常だらけネ」



「……なんか、台所騒がしくねーか」
「盛り上がってるんでしょう」
「ブタの鳴き声が聞こえたような」
「ゴリラの鼻息ならたまに聞こえてきますけどね。その度に姉上が空へ投げ捨ててますけど」
「お前んち、こえーな」

ごろりと横になった銀時の耳に、廊下からパタパタと軽快な足音が聞こえてきた。
開いたふすまから、大きな買い物袋とともに志村妙が顔を出す。

「ただいま、遅くなってごめんなさいね」
「姉上、お帰りなさい」
「あら銀さん、いらしてたの。名前さんと神楽ちゃんはもう台所?」
「ああ、盛り上がってるみてーだぞ」
「じゃあ私も張り切って作りにいかなきゃね。銀さん、名前さんのチョコレート程嬉しいものはないでしょうけど、私からのほんの気持ちも受け取ってくださいね」
「おーおー、食えるモンならありがたく頂戴するぜ」

微かに漂ってきたチョコレートの香りに鼻をひくつかせながら、銀時は一眠りするかと目を閉じた。



「ねえちょっとお妙さん聞いてよ、名前さんったら銀さんの為に身体中チョコまみれにならないんですって、そんなの本命チョコって言える!?」
「あなたが誰にいやらしいチョコレートの渡し方しようが一向に構わないけれど、名前さんにまで強制するのはどうかと思うわ」
「身体にチョコレートかけるのはいいんだけど、銀さんまでチョコでべたべたになっちゃうし、後がとっても大変そうなんだよねえ」
「銀さんの男らしい筋肉をチョコレートでコーティング、グフゥゥゥ!!!!」
「さっちゃんが鼻血出して倒れたアル!」
「寝せときなさい神楽ちゃん。これでやっと静かになるわ」
「大丈夫かな、お部屋に運んだ方が……」
「名前さん、それよりこれ、このくらいでいいかしら」

猿飛あやめは鼻から血を流しながらも、幸せそうに目を閉じていた。



「できたアルな!!!」

神楽は自分達の作ったトリュフに目を輝かせ、嬉しそうにぴょんぴょん飛び跳ねている。

「本当、名前さんと神楽ちゃんのトリュフ、とっても美味しそうね」
「でもお妙ちゃんは本当にチョコとかじゃなくてよかったの?」
「ええ、私にも本命の男性が居たら張り切ってつくってたところだけれどね、残念ながらいないから。今年はチョコレートより自信のある手作りの卵焼きがプレゼントよ」

名前達のトリュフの横で、皿に盛り付けられた志村妙の作った暗黒物質が異様なオーラを放っていた。
三人はそれぞれ作ったものを丁寧にラッピングする。

「明日が楽しみだね」
「今日持って帰って食べるアル!」
「まあ神楽ちゃん、バレンタインは明日よ?」
「そうだよ神楽ちゃん、銀さんと新八くんに一緒に渡そう」
「……まあ、作りすぎたしな、アイツ等にもめぐんでやってもいいアル」

赤い顔でもじもじしながらそう唇を尖らせて言う神楽に、名前とお妙は顔を見合わせて笑った。



「銀さん、待っててくれたんだね」
「ん?……んあー、寝てたわ」

一番に目に飛び込んできた名前の笑顔に、銀時はゆるやかな気持ちで瞼を開ける。
嬉しそうに作ったトリュフを新八に見せる神楽。
お茶いれてきますね、と声をかけて部屋を出て行くお妙。
銀時はそんな光景をぼんやり瞳に映しながら頭をぼりぼりとかきつつ身体を起こした。

「楽しかったー。みんなでいっぱいお喋りしながら作ったんだよ」

銀時の横へ座った名前からは、ほのかに甘い香りが漂ってくる。
その香りに誘われて、ついふんふんと首筋に顔を寄せて鼻をひくつかせた。

「ひょっとして、いま名前舐めたら甘いんじゃね?」

そう言うなりぺろりと首筋を舐められ、名前は座布団からぴょこんと飛び上がらんばかりに真っ赤になって動揺した。






前回に引き続き、今回もいただいた妄想から作らせていただいたお話でございます。

■主人公と神楽ちゃんできゃっきゃしながらチョコ作りをしているところへ、お妙さんやさっちゃんも加わって、気がついたら女の子だけで盛り上がってた♪

という、楽しい雰囲気の妄想本当にありがとうございます!
喋りっぱなしの女子達でしたが、新鮮な気持ちでとっても楽しくお話が書けました。
本当にありがとうございました!

いがぐり
2014年2月13日

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