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長編はみだし話(番外編)
☆にやり

「名前、息子、行ってくるなー」
「あ、待って待って、そこまで送るよ」

顔はまん丸、手も足もむちむちとして健康そのもの、最近ますます銀時に似てきた息子を抱っこしたまま、
名前は仕事へ向かう銀時達三人を玄関先まで見送るために草履に足を入れる。
銀時はそんな妻の姿に目を細めると「まだ時間あっから、ゆっくり履けよ」と言って、名前の腕の中から息子を抱き上げた。

「ありがとう銀さん」

銀時に抱っこされた息子は、両親がそんなやりとりをしている間、
にこにこと自分を見ている新八と神楽に向かって、覚えたばかりのバイバイを得意げな顔をして大きな動作で披露する。

「わあ、息子は銀ちゃんと違って天才アルなー!息子ー、私でかけてる間にさみしくて泣くなヨー」
「行ってくるね息子くん、帰ったらいっぱい遊んであげるからね」

新八と神楽はしっとりとしていてあたたかな息子の手を握って言う。
この小さな万事屋の一員が、かわいくてかわいくてたまらないらしい。

「気をつけてね、いってらっしゃい」

ほがらかに笑う名前の頬を、銀時の手のひらがするりと撫ぜる。
それを合図に、名前は瞼をゆっくりおろした。
髪に、額に、そして鼻先に銀時の軽く唇が押し当てられる。
全部愛してると、言葉にせずとも伝わってくる優しい口付けを、実はさっきも交わしていたのだが、まだし足りなかったらしい。

最後にゆっくりと唇を重ねる為に、銀時が顔を傾ける。
薄く開いた口で名前の唇を塞ごうとしたその時、

「あー」
「っ!?」

小さな手のひらがぺしっと二人の唇が重なる直前にその隙間に入り込んできた。
銀時がちらと視線を降ろすと、銀時の口を塞ぐ息子の笑顔が飛び込んでくる。
神楽達に言わせると、天使のような笑顔だと言うが、銀時の目には、にやりとした悪戯っぽい笑顔にしか見えない。

「悪ィな息子、とーちゃんはかーちゃんにチューしてもらわねえと仕事行けねーんだよ」
「まー?」
「そうそう、オメーもいつか惚れた女ができたらわかるからよ」
「う」
「だからチューする間、大人しく待っててなー」

そう言った途端、またパシリと銀時の口が息子の手のひらで力一杯叩かれた。
「なっ!?」と困り顔をする父親のリアクションが楽しいのだろう。
息子はきゃあと笑い声を上げて更にバシバシ叩き出す。

「ちょ、神楽! ぱっつぁん! コイツ頼む」
「はいはい、ほら息子くん、僕のとこおいでー」
「ズルいネ! 私の方がいいアルよ、そっちは眼鏡がうつっちゃうからネー」
「変なこと言わないでよ神楽ちゃん」

二人は奪い合うようようにしながらも、銀時の腕から息子を抱き上げてくれる。
息子は泣くこともなく、一瞬ムッとした顔をしたものの、いつも遊んでくれる大好きな二人だから許してやるかというように、手足を動かしすぐ笑顔になった。

銀時は自由になった両腕ですぐさまくすくす笑っていた名前を抱しめると、
今のうちに、とでもいうように、出てきたばかりの玄関に名前を連れ込み引き戸を閉めた。

「銀さ、……ん、……」

何か言おうとする妻の唇を素早く奪うと、銀時はそのまま壁に名前の身体を押し付けるようにして更に深く唇を重ねる。
玄関の戸に隔てられたこちら側だけ、やけにしんとして薄暗く、互いの切なげな吐息がやけに艶かしく耳に響いた。

「ヤベーな、仕事行きたくなくなっちまいそうだぜ」

ぼそりと呟く銀時に、名前が言葉を返そうと口を開きかけたところで、玄関の戸がバンバンと叩かれる音が響く。
すりガラス越しに見えるのは小さな小さな手のひらだ。
それを見て、銀時と名前がふっと笑みをこぼす。

名前の耳を甘噛みし「……この続き、夜にしていい?」と低く柔らかな声で囁けば、
潤んだ瞳で銀時を見上げ、名前がこくりと頷いた。





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あきゅろす。
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