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長編はみだし話(番外編)
・モデル6

逮捕されたカメラマンの取調べは、意外とスムーズに進んでいるらしい。

「大物実業家ってのはヤツの父親のことでね。つい最近代替わりしたってーので情報が入り乱れてこっちも混乱してたんでさァ」
「ふーん。自分が継いだこと、わざわざ隠してたとか?」
「そーだったみたいですねい。実業家が病に倒れて余命告げられてすぐ、側近や部下はそのまんまで実権だけあのカメラマンが握って裏で好き勝手やろうとしてたみてーで」

カメラマンの父親は大物と呼べるくらいの実業家だった。
裏で人身売買をしてのし上がってきたらしいのだが、表ではいくつもの飲食店やビルを保有し、
病気で倒れる直前までウエディング事業にまで手を出そうとするくらい、高齢でも精力的な男だったらしい。
それにくらべて息子は小物で、大きな視野まで引き継ぐことは出来ず、自分のしたいことを優先させ、自分の為にスタジオを作り、自分の思い込みで女性達を誘拐してきた。

「アイツさ、こういう形でバレてなけりゃ、汚ねえこと全部死期の近い親父になすりつけて罪を逃れようとしてたんじゃねえか」
「……かもしれませんね」

団子屋で並んで座る銀時と沖田は、少し無言で夕方に差し掛かり色が変わりつつある空を見上げる。
父親の代の時に誘拐され売られた女性達のリストなどは、家宅捜索しても出てこなかった。死期の近い実業家はもう意識のない状態で話も聞けない。
江戸では年間の失踪者はそれなりにいる。
借金、痴情のもつれ、失意の果て、それぞれの事情で失踪した人々とは別に、表沙汰になっていない事件での失踪者の数は把握しきれているとはいえなかった。
そのおおまかにまとめられた、まとめるしかなかった数字の中に、その女性達も含まれているのだろう。
誘拐されたと証拠もなく、目撃者もいないとなると、今回のようにとっかかりが無い限り、昔のことは真選組でも調べようが無いのだ。

「ま、オメーさんのとこもウチんとこも、一度狙われたとはいえお互い無事でよかったな」
「そういや旦那、あんたの奥さんも下手すりゃ新八くんと一緒に売り飛ばされるとこだったって知ってました?」
「新八はともかく名前はモデルなんてしてねえぞ……いや、そういやスタジオで撮られたな」
「素の表情で幸せそうに微笑む最高の写真が取れたのに、って悔しがってましたぜ。さぞかし高い値がついただろうにって」
「クソ、あのカメラマン一発殴っときゃよかったぜ」



カメラマンの男が沖田の手によって手錠をかけられ、背中を蹴られながらスタジオから去ると、
名前はすぐさま「銀さん!」と駆け寄ってきた。
まだ真選組の隊士達が、銀時によって倒された男達を担架で運んだりしている中、何のためらいもなくその胸に飛び込んでくる。

「怪我してない? 大丈夫?」
「ああ、名前は」
「どこも怪我なんてしてないよ」

銀時は名前の身体に両腕をまわしぎゅうと抱しめ、名前に少し遅れて駆け寄ってきた神楽と新八に微笑みかける。

「銀さん、これ一体何なんですかもう、僕達なにも聞いてなかったんですけど!」
「悪ィ悪ィ、ちと沖田くんに頼まれごとしててな」
「銀ちゃんそれより食べ放題は? あのカメラマンがくれたタダ券、ちゃんと使えるアルか!?」
「……あー、神楽ちゃん、残念だけどきっとそれ使えねーわ」
「裏切られたアル! 私あんなに頑張ったのに!」
「神楽ちゃんが何を頑張ったって言うのさ……」

疲れた顔をしてため息を吐く新八に、名前がよしよしと微笑みながら励ますように頭を撫でた。

全員大きな怪我もなく、報酬も入り、誘拐されていた女性達も全員保護された。
昨日はそんな、後味の悪くない一日だった。



銀時が食べ終えた団子の串を皿に置いたところで沖田が腰を上げる。

「じゃ、俺ァそろそろ」
「ごっそーさん」

奢るだの奢れだのといったやりとりもなく、支払いは沖田がした。
今回、事件解決を助けてくれた銀時へ、沖田なりの礼なのだろう。
片手を上げて去っていった沖田と入れ替わるように、名前と新八と神楽が仲良く揃って団子屋に顔を出した。

「銀ちゃん、夕飯前に何食べてるアルか!」
「ウォーミングアップだよ。それよりおめーら準備はいいか」
「おう! 私たっくさん食べるためにお昼も抜いたネ!」
「お店の料理、食べ尽くさないでよ神楽ちゃん」
「私も食べ尽くす勢いでいっぱい食べちゃおう! お昼も抜いたし!」
「二人共どんだけ張り切っちゃってんの!!」

銀時の懐には、カメラマンから渡された現金が入っていた。後ろめたいものではない。労働に対する報酬だ。
けれど、この金の裏で、過去どれだけの女性が泣いてきたのかを考えると、気分が重くなる。
捨てるわけにはいかない。金は金だ。だからさっさと使ってしまうことにした。
神楽が熱望していた食べ放題の店へ行くのだ。かぶき町にある、量も味付けもパンチが効いていると評判の店へ。

「うし、じゃあ行くぞー」

銀時は立ち上がって名前の肩に腕を回す。
名前の腕も背中から銀時の腰に回され、二人はいつものようにぴったりとくっついた。
その自分達の両脇には新八と神楽がいる。

ヒヨっ子のうちはまだ俺の手の届く範囲にいろよ、と銀時は微笑みながら視線を移動させ三人の顔を見ると、
とろりと落ちかけたオレンジ色の夕日に向かって顔を上げた。



最初は3回くらいの予定でしたが、倍の数になってしまいました。
しかも全然イチャイチャとかなくてすみません。矛盾とか変なところとかあったらごめんなさい。
でも書いてて楽しかったです。読んで下さってありがとうございました!

※オマケ※
これ入れたら話が長くなってしまうと、ざっくり削った会話です。
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「ところで、なんでアンタの奥さんは最初モデル断ったんです? いや、清楚系淫乱タイプの女はああいう誘惑に弱そうに見えたもんで」
「……清楚系淫乱タイプって何。変な分類しないでくんない。オメー俺の名前ちゃんの何を知って言ってんの。いや確かに夜になると自覚なしで男心くすぐってくるっつーか爆発させくるけどさー」
「旦那の頭は最初から爆発してますけどね」
「うるさいよ沖田くん」
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みたいな感じでした。

2014年9月14日 いがぐり

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