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長編はみだし話(番外編)
・モデル5

新八と神楽は、広いスタジオで手持ち無沙汰にトイレへ行った銀時と名前を待っていた。
カメラマンは携帯で誰かと通話中で、その表情を見るにあまり良い内容ではないのだろう、少し険しい顔をしている。

「銀さんと名前さん遅いね、神楽ちゃん」
「きっと銀ちゃん大の方ネ」

神楽から視線をちらとカメラマンの方へ向けると、何時の間に通話を終えたのだろうか、愕然とした表情をしていた。
なにかあったのかな、と新八は視線の端でカメラマンを見つめ続ける。
カメラマンは手に持ったままだった携帯を操作し、耳に当てる。抑えた声で何かを喋り、すぐに通話を終えた。
そしてゆらりと灰色に見える瞳を新八の方へ投げかけてきたので、新八は目が合うなりぺこりとおじぎした。
カメラマンは新八に対して微かに笑みを浮かべてくれたものの、それはどこかぎこちないもので、
内心焦って苛々しているように見える。居心地が悪かった。
女の子を撮る予定だったのに自分がきてしまい、カメラマンをガッカリさせてしまったことは完全に銀時のせいなのだが、新八は少々負い目を感じていたのだ。

「すいません、銀さん達戻ってくるの遅くて……」
「あ、いえいえ、どうぞゆっくりしていってください。もうすぐ来ると思いますので」

その“来る”は、銀時が来るという意味ではなかった。
別の入り口から、複数の足音が聞こえたかと思うと、屈強な男達があっという間に新八と神楽を取り囲む。

「な、なんなんですかアンタ達!」

この状況にわけがわからず、新八は思わず大声を上げる。
男達は威圧的な雰囲気を全身から放ち、冗談でも撮影を見学しにきました〜なんてものには見えない。
ある者は拳を握り、ある者は刀を構え、新八と神楽が少しでも動けばいつ飛び掛ってきてもおかしくない。

「これから、楽しい場所へ行っていただこうと思いまして」
「食べ放題アルか!?」
「そんなところよりもっと素晴らしい場所ですよ」

男達の一人が新八の腕を捻り上げる。
ぐ、と顔をゆがめる新八に「大事に扱って下さいよ。大切な商品なんですから」とカメラマンが声を上げて笑った。
その笑い声が不快だったのと、新八に乱暴なことをされたからだろう。
神楽はまるで兎がぴょこんと飛び上がるように軽々とした動作で「ヨッ」と床を蹴ると、
次の瞬間には靴の裏をカメラマンの顔面にめり込ませていた。

「よくわからないけど、食べ放題の方が大切ネ」

ぐあ、と呻き鼻血を出しながらカメラマンが倒れる。
倒れる際に丸テーブルに身体が当たり、大きな音を立てた。
それを合図にするように、男達が一斉に新八と神楽に襲い掛かる。
新八は腕を捻り上げられたまま、流れるような動作でくるりと身体を反転させると、その男の腹に重い膝蹴りをお見舞いし昏倒させる。

「神楽ちゃん、一体どうなってるの!?」
「知るわけネーダロ! けどこいつら倒さないと食べ放題に行けないアル! それだけは確かネ!」

神楽と共によくわからいまま自分達に襲い掛かってくる男達をなぎ倒していく。
二人がいくら強いとはいえ、それなりに経験を積んだらしき男達だ。
次々と相手にしていると、次第に息が切れ、集中力も落ちてくる。
神楽が磨き上げられた床に足を取られつるりと滑りそうになり、新八が後ろから受け止めた。
その二人の腕に、短い発射音と共に弾丸が掠る。
弾丸の飛んできた方を見ると、鼻血を出しながらよろりと銃を構えるカメラマンが、目を殺気で血走らせ二人をギロリと睨んでいた。



「大人しくしていればいいものを」

カメラマンは片手で威嚇するように銃を持ったまま携帯に何か打ち込む。
すると瞬く間にカメラマンの後方にある、資材などを出入りさせるらしきドアから、更に先ほど以上の数の男達が駆け込んできた。
新八と神楽がその人数と拳銃に、下手に動けず唇をかみ締めた時

「ずいぶんとたくさんのエキストラ使っての撮影だなオイ。けどウチの従業員まで怪我させるなんて聞いてないんですけど」

木刀を肩に乗せた銀時が、背中で名前を護るようにスタジオの入り口に現れた。

「銀ちゃん! 何やってたアルか! 便秘だったアルか!?」
「神楽ちゃんそんなこと聞いてる場合じゃないから!」
「おいオメーら、大丈夫か」
「こんな傷、平気アル!」
「よし、このコワい顔したオッサン達は俺に任せとけ。オメーら怪我させた分、きっちりお返ししとかねーといけねーかんな」
「銀さん、僕達もまだ戦えます!」
「だったら名前を頼まァ。俺の奥さんに怪我させたらテメーら給料なしだからな」
「もともとろくにくれてねーだろ銀ちゃん!」

優しい瞳でニッと笑うと、銀時は素早く名前の額に口付け床を蹴った。
名前に対する柔和な表情から一変、男達に向ける銀時の強い瞳の迫力に思わずたじろぐ男達を容赦なく木刀でなぎ倒す。
そして、木刀の先端で自分達に狙いを定めていたカメラマンの銃を弾き飛ばした。
銀時のおかげで道が開いた神楽と新八は、走って名前の元へ掛け、二人で名前の盾になるように背筋を伸ばし腕を構えたが、
あれだけ居た男達は銀時が駆け抜けた時の一閃でほぼ床へ落ちていた。

「銀さんって、やっぱりすごく強いんだね……」
「ええ。普段はだらしないから時々忘れそうになるんですけどね」
「行け! 銀ちゃん!」

三人はしなやかな動きで木刀を振るう銀時を視線で追う。
幾多の死線を越えてきた銀時にとって、この程度の、この人数くらい、片目を瞑って戦ったとしてもたやすかった。



「さーて、残りはオメーだけだぜカメラマンさん……いや、最近の誘拐事件の黒幕さん」
「気付いてましたか」
「いや今状況的にそうだったら面白いかなって適当に言ってみただけだけど、当たったんだ。ふーん、じゃパンフレット作るってオメーを雇った人物とやらなんてのも本当はいねーってこと?
つーか、裏で糸引いてたの全部オメーさんって考える方が簡単だな。どうよ、こっちも当たってるんじゃね?」
「はは、すごいですね万事屋さん。どこまでご存知なんですか」
「真選組に知り合いが居るモンでな、人身売買する為に女誘拐してんの、とっくにあちらさんにバレてるよ」
「…………」
「女の子に嘘ついて写真撮って誘拐して売るって、どーいう胸糞悪ィ商売継がせてんのオメーさんの親」
「私は写真家でもありますからね、父のように表向きの商売の裏でただこそこそ誘拐して売るだけじゃありきたりだと思い考えたんですよ、自分のやりたいことと継いだ仕事、両立できないかと」

カメラマンは続ける。
べらべらと、銀時たちが顔をしかめても、むしろ誇らしげに喋り続けた。

「だからお金をかけてスタジオを作ったんです。そこで完璧に仕立てた商品をちゃんとしたスタジオで撮影して現像した写真をお客様へお見せし、
 気に入ったらその撮影した時のドレスを着せてお渡しする、そんな商売も楽しいじゃないですか。
 最初はやはり戸惑いもありましたよ。人身売買だなんてね。風景や、自然な写真を撮ってる方が何倍も楽しいと。
 けどね万事屋さん、思ったんです。好きと向いているのは違う。現像した商品の写真を見て驚きました。これが私の天職だと。
 レンズ越しに幸せそうに楽しそうに微笑む女性達を見ていると、
 その価値を認めてお金を出してくれるお客様の元へ早く渡してあげなければと思うようになったんです。
 そしてこの町から消えても写真にはいつまでも残るんですよ、嬉しそうに、ドレスを揺らして笑う商品が」

もう逃れられないと観念したらしい。
虚ろな目でベラベラと全てを話すカメラマンに、銀時は心底軽蔑の眼差しを投げかける。

「腐ってんな。けど、もうそんな商売もテメーごとしめーだよ。オメーはムショで腐ったメシ食ってんのが似合いだ」
「私を警察へ突き出したところで商品は戻りませんよ。先ほど、急いで出荷するよう指示を出しましたので」

にやりと笑い、カメラマンは木刀を喉元へ突きつけてくる銀時にひるむことなく、余裕たっぷりに携帯をチラつかせる。
そこへ携帯の着信音が響いた。「出ろよ」と銀時が口の端を上げてカメラマンに言う。

「……何だ」

少し間を置いてカメラマンの顔色がハッキリと変わった。
青から白へ、そしてドス黒くなり、血走った目に殺意を浮かべ銀時を見上げると、ギリリと唇を噛む。

「あーもしもし、こちら万事屋の坂田銀時ですけどー」

銀時がカメラマンの手から携帯を奪い、のんきに話し出した。
指先で画面を弾くと、スピーカー通話にしたのか、銀時と同じくらい飄々とした声がスタジオに響く。

『旦那、協力どーも。旦那につけさせてもらった盗聴器のおかげでこっちは全部片付きましたぜ』

銀時につけた盗聴器で拾った情報で、真選組は迅速に動くことが出来たらしい。
向かいのビルに突入し、みてくれだけの実際は営業などしていない飲食店に踏み込み、そこに居た男たちをあっさりと制圧したと沖田は銀時に簡単に報告した。

『てな訳で、そこの男すぐ逮捕しにいきやすんで、暴れるようなら適当に殺さねえ程度にやっちゃってて下せェ』
「ねえ沖田くん、誘拐されたやつらはどーなった? いやね、この人自信たっぷりに“出荷するよう指示を出しましたので”とかドヤ顔で言ってたモンだからさあ」
『もちろん真っ先に救出しましたぜ。その間抜けなドヤ顔さんに謝っておいてくだせェ、部下もビルもつい手加減すんの忘れてズタズタのボロボロにしちまいましたって』
「えー、そんな伝えにくいこと俺に言わせないでくんない」

「はは、なんて喋ってる間についちまったみたいですねィ」

携帯のスピーカーではない声が入り口から聞こえた。
ひょっこりとスタジオへ顔を出した沖田に続き、ドタドタと真選組が飛び込んでくる。

「これ、ありがとさん」

銀時は携帯をカメラマンに放り投げた。
携帯は受け止められることなく、怒りに震えるカメラマンの身体に当たり、床へ音を立ててごとりと落ちた。





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