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長編はみだし話(番外編)
・モデル2
※短編の沖田さんの「スカウト」と繋がっておりますが、両方読まなくてもだいたい大丈夫です。




「邪魔してますぜ旦那」

カメラマンの話をファミレスで聞き、ゆっくりと買い物をして万事屋へと帰ってきた銀時と名前を出迎えたのは、
いつもの神楽や新八や定春ではなく、ソファにどっかりと座り込んだ真選組の沖田総悟だった。
この様々な面でゆるゆるとしている万事屋の空気は、かっちりとした隊服を着た沖田のおかげで、どこか緊張感を孕んだものになっている。

「それにしても遅かったですねィ。奥さんとどこでしっぽりしてきやがったんでィ」
「今日は外ではしてきてねーよ。これからやんだよ、ガキ共が帰ってこねー内に」

ぎ、銀さん! と、名前が真っ赤な顔をして銀時の袖を引っ張る。
銀時はそんな名前にちらと悪戯っぽい視線を送った後、にやりと口元を緩めた。
名前は「もう」と、銀時の笑みで更に熱の上った頬をパタパタと手であおぐ。

「私、お茶いれてきますね」
「俺のこたァお構いなく。まあどうしてもって言うなら渋めの茶でいいですぜィ」

名前は沖田の言葉に楽しげにくすりと笑みをこぼす。
何度も会っているので、名前は沖田の性格のことはだいたい把握していた。
この年下の友人の前だと、銀時は時折悪戯盛りの子供のような表情を見せる。
そして土方の前だと、喧嘩友達のような、ライバル同士のような、そんなヤンチャなものになって、名前はそんな様々な銀時の顔がどれも全て大好きだった。

いつもはわざわざ丁寧に中にからしやらタバスコやらワサビやらを仕込んだ菓子などを手に、
ふらりと私服で厄介な事件の話を銀時の耳に入れにきたりする沖田だが、
今日の雰囲気は少し違った。隊服をきてそこにいるというだけでなく、どこか表情が引き締まっている。
深刻な話なのかな、と名前は自分がその話の妨げにならないよう、ゆっくりとお茶を用意することにする。



名前の姿が台所へ消えると、銀時は沖田の向かいのソファに座った。

「で、何の用」
「最近、ちょいと洒落になんねーくらいの数の若い女達が姿を消してんの知ってます?」

沖田はふうと短くため息を吐くと、長い足を組み、手で何気なく愛刀の鞘に触れる。

「……あー、毎回毎回ニュースで女が行方不明だっつって流れてんな。誘拐か神隠しだか知らねーが、おたく達もっとちゃんと仕事してくんない?」
「してますって。それでとある大物が裏で他の星に売る為に、かぶき町で組織組んで女を攫いまくってるっつー情報を苦労してようやく掴みましてね」
「ふーん、じゃあそれさっさと捕まえてよ。ウチにゃ一応女が二人も居んだ、気が気じゃねえよ」
「それが奴等も馬鹿じゃねえ、なかなかこっちに尻尾つかませてくんねーもんで」
「証拠が無いってか?」

沖田がゆっくりと物憂げな眼差しを銀時へと向ける。

「あるのは情報だけでさァ。誘拐された女達はみんな、その大物が今度作る式場のパンフレットのモデルに誘われて、撮影が終わった後に忽然と姿を消してんです」
「モデル?」

さっき、名前はカメラマンと言う男に強引にモデルに誘われていた。
このかぶき町でスカウトといえば、だいたいが水商売系のものが多く、
モデル、それもウエディングドレスのモデルという真っ白で女性が憧れるような話は、そうそうない。
まさか、と銀時の瞳に素早く浮かんだ鋭さに微塵も物怖じせず、沖田は言葉を続ける。

「……まだ、こんな情報掴んでなかった頃にあいつもスカウトされてやしてね。断ったんで無事ですが、もし承諾して姿消してたら今頃俺ァこんなとこにいないでしょうね」

あいつとは、沖田の恋人のことだろう。
銀時は大袈裟に肩をすくめた。

「こっわ、証拠もなしにその大物んとこ直接乗り込んでその一味皆殺しする気だったんだろ沖田くん。彼女に超惚れてるもんな〜」
「まァそんなところでさァ」

否定せずしれっと笑う。

「けど、証拠はねーが、クロに違いねえ」
「なんでわかんの」
「その大物さんとやら、裏で痛いお遊びしてたことがありやしてね。権力の力でうやむやにされちまいましたが今回、この筋の奴等がチラチラ動いてんでさァ」

事件と結びつけるにはその話だけでは証拠とは言えず、より確実なものが必要となってくる。
うかつにスタジオに乗り込んだところで、相手はカメラマンを尻尾切りし、雲隠れするだけだろう。
そうなっては、誘拐された女性達が危ない。
きっと一定の人数が集まるまではこの地のどこかに隠されているだろうが、
真選組がそこまで近づいていると知られたら、証拠隠滅の為にその女性達をさっさと他の星の取引相手に渡してしまう可能性が高い。
そうなってはもう、おしまいなのだ。
しかし証拠もない今の段階では真選組でも手は出せない。
どこに属することなく自由に動ける銀時は、こういう時、沖田にとってありがたい存在だった。

「それで旦那、俺達真選組は奴等が尻尾見せねェかとここ数日見張ってましてね。そんな中、旦那がその一味の末端と接触してたと報告を受けまして」
「ああ、さっきのカメラマンのこと」
「さすが旦那、察しがいい。つー訳で、会話までは拾えなかったんですがだいたいのところは把握してます。名前さんにモデルはさせない方がいいですぜ」
「最初からんなもんさせねーよ」
「おや、話し込んでたっつー報告受けてたんで、てっきり」
「やるのは俺と新八だ」
「…………」

今まで淡々とした表情で話を進めていた沖田の表情がはじめて変化を見せた。

「そりゃーさぞかしおぞましい写真になるでしょうねィ」
「そんなことないよ沖田くん、銀さんってお化粧したらすごく綺麗になるんだよ」

湯気の上がるお茶を運んできた名前が、一輪の花のような柔らかな動きで沖田にお茶を出した。
沖田は名前を見上げて「どーも」と礼を言う。
銀時の前にはグラスにたっぷり注いだイチゴ牛乳を置く。
そして名前は話の邪魔にならないよう、和室で洗濯物を畳んでくるねと再び二人の前から姿を消した。

「旦那、あんたの奥さん眼病患ってるみてーですぜ。一刻でも早く目医者連れていきなせェ」
「名前はどこもかしこも健康体ですゥー」
「……話を戻しやしょう。旦那が乗り込んでくれるなら話は早い。撮影の時に旦那方に盗聴器とGPSを仕掛けさせて欲しいんですが」
「構わねえよ。けどあのカメラマン、少し話しただけだけどよ、そんな誘拐やらするようなタマにゃ見えなかったけどな」
「カメラマンは自分でも知らねー内にやつらに利用されてるだけでしょう。俺達の目的は撮影後どこに女を攫うのかが知りたいだけでィ。それがわかればこっちのもんだ」
「ところでギャラは」
「撮影はいつで?」
「ねえ沖田くん聞いてるの。ギャラは?」

銀時の言葉を無視すると、沖田は唇を潤すように名前のいれたお茶に口を付けた。





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あきゅろす。
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