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長編はみだし話(番外編)
・バレンタイン前々日

バレンタイン前日に、名前は神楽や志村妙達と志村家にてチョコレートを作るのだそうだ。
しかし前々日の今日、台所から部屋中に甘いチョコの香りを充満させ、真剣な顔をしてチョコレートを湯煎にかけている名前が居る。

「今日12日だよな、なんでここで名前一人でチョコ作ってんの? 銀さんを誘惑でもしてるんですか」
「さすが銀さん。お昼寝してても甘い香りには弱いんだね」

チョコレートのようにとろけるような顔で、名前は台所に顔を出した寝起きの銀時に驚くでもなく笑いかける。

「明日神楽達と新八ん家で作るんじゃねーの?」
「うん、明日は銀さん達用にチョコつくりに行くよ」

ボリボリと頭をかき、銀時は重そうな瞼の下の瞳をゆっくりとボウルの中の溶けかけのチョコレートへ向ける。

「じゃあソレは何」
「こっそり作ってたのにバレちゃったな」
「おいおい、どこがこっそりなんだよ。ぷんぷんチョコのにおい漂わせやがって、こうしてくださいーって言ってるようなモンだろ」

言うなり銀時は名前の背後から湯煎にかけられた小さなボウルの中に指を突っ込んだ。

「もう、駄目だよ銀さん」
「なんで。明日チョコ作りに行くんならこれ試作品とか自分用とかなんかじゃねーの?」

チョコがゆっくりと垂れてくる指を、銀時は赤い舌でぺろりと舐める。

「ふふ、これもバレンタインのチョコレート。つっきーの分」
「あのー………なんで月詠?」
「欲しいって。私もあげたいなって思ってたからそう言ってもらえて嬉しかった。バレンタイン当日は忙しいみたいだから、明日お妙ちゃんのお家に行く途中に届けに行くの」

最近では、友達同士でチョコレートを交換することもあるらしいとはテレビなどで情報を得ていたが、
名前と月詠は普通の友達というよりも、もう少し雰囲気が違うような気がしていた。
銀時は男なので、そういった女同士の結びつきに疎いというより、さっぱり理解できない部分の方が大きいのだが、
要は愛する名前が自分以外の人間に情を傾けすぎないで欲しいだけなのだ。
嫉妬と言うには余りにも幼稚な感情だということは銀時自身わかってはいるが、それでも面白くは無い。

「オメーらマジでラブラブな」
「私と銀さんほどじゃないよ」

名前は不貞腐れ気味の銀時に向かって爽やかな笑顔で平然とそう言ってのける。
しかしその笑顔は、すぐに銀時からすっと手元のボウルへと移動してしまった。

「銀さん心配だわー、さらっと浮気とかすんなよ。女同士でも俺ァ許さねぇぞ。
 あの酒乱、吉原の女っつってもかなりおぼこいじゃん、そこらへん歩いてるふつーの女のほうがよっぽどアバズレじゃん、
 アッチのテクはぜってー銀さんの方が上だしィ、つーか上でも下でも名前ガンガンよがらせられんの俺だけだから。だから裸になるなら銀さんの前だけにしておけ名前」
「もう銀さん、どこまで壮大な勘違いをしてるのかな? 私はこれ以上ないってくらい銀さんのこと愛してるのに、浮気なんてすると思ってるんだ」
「いやいやいやいや、思ってねーよ。けど心配なもんは心配なんですゥー」
「何が心配なの?」
「なんだろなァ、俺にもよくわかんねーよんなこと」
「変な銀さん」

最初、名前から心からの信頼を得ていたのは銀時ただ一人だけだった。
知らない土地。慣れない習慣。一から築かなければならない人間関係。
名前はそんな環境の中でも、銀時に縋りつこうとはしなかった。しかし頼りにはしてくれた。
しっかりと自分の足で立ち上がり、たえず柔らかな笑みをたたえる名前は、一生乾きを抱えて生きていくと思っていた銀時のひび割れた心を優しく潤し癒してくれた。
そんな名前だ。みんなからの評判はすこぶる良い。好かれ、可愛がられ、そして人が集まってくる。
銀時だけでなく神楽や新八をはじめ、周囲のさまざまな人々ともいつの間にか仲が深まっていた。
嬉しい反面、ほんの少しハラハラすることもある。

自分だけを見つめていて欲しいという独占欲と、名前が自分以外の人から愛されるかもしれないという不安、
果てしない愛情の底には名前にも見せられない醜く哀れな欲望が渦巻いている。

「こんな変な銀さん一生愛してくれるの名前ちゃんだけだろ」
「うん、きっとずっと愛するよ。だから変なやきもち焼かないの」

滑らかに溶けていったチョコレートに、銀時は再びその指を浸けた。
名前が「あ、」と、またそんなことしてといった表情で、可愛い困った悪戯に微笑みながら銀時を見上げる。
そんな名前に熱い眼差しを注ぎながら、銀時はわざと唇の端にチョコレートが残るよう指を舐めた。

「ついてるよ」

指で銀時の唇をなぞろうと腕を持ち上げた名前の手首が、銀時にやわらかく掴まれる。
優しく手首を拘束され不思議そうな顔で見上げてくる名前に銀時が目を細めて名前の方へ顔を寄せれば、
ようやくその意図がわかったのか、名前は銀時の顔が間近までくるのを待たず、背伸びして銀時の唇の端を舌先でちろりと子猫のように舐め上げた。





2/11の朝から夜までの間に、ふわっとバレンタインに誰とどんな感じで過ごしたいか教えて下さいと
皆様からの妄想を募集していたのですが、もうにやにやがとまらなくなるほどに嬉しい妄想をいただきましてですね、
速攻で書いちゃいました。

このお話は

■台所でチョコ作りをしてる夢主に構ってもらいたくて、自分の鼻や唇横にチョコをつけてウロウロする銀さん。
そして夢主がペロッと舐めとる。

■ヒロインが日に日に交友の場を広げていったことに銀さんが喜ぶに喜べない


というお二方からいただいた素敵妄想にて出来ております。
本当にありがとうございました!!

2014年2月12日
いがぐり

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