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長編はみだし話(番外編)
・モデル1



「お願いします! どのモデルもどの写真も却下されてばかりなんです! 貴女ならきっと……!」
「ごめんなさい私もう結婚してますので、未婚の方にお願いした方が」
「そんなこと関係ありません! ドレス着てにっこり笑ってくれるだけでいいんです! お礼もさせていただきますから!」
「いりません。私はやりません」

普段おっとりしている名前が珍しくきっぱりとした態度を取る。
自分をカメラマンだと名乗るこの男は、散歩中公園のベンチで一休みしていた名前にモデルになってほしいと声をかけてきたのだ。

この男はある大物実業家が結婚式場を作るということで、パンフレットを作る為に雇われているということなのだが、
その写真はプロのモデルではなくごく普通の女性をターゲットにしろとのことらしい。
そこで様々な女性に声をかけ写真を撮ってきたのだが、今のところ全て、渾身の出来とも言える写真が撮れても、
クライアントに見せるとゴミでも捨てるように却下され続けていると、同情を誘うようにたっぷりと悲壮を漂わせカメラマンは語る。
名前はその話に、カメラマンの腕は知らないが気の毒にと感じることはあっても、
ほのかに漂う怪しさと、モデルというものへの興味の無さで即座に断ったのだが、
男はなりふり構わずといったように名前をモデルに勧誘し続ける。

「ブランドもののドレス着て新しい式場のパンフレットに載れるんですよ!?」
「ごめんなさい。載りたくないです」
「もしかしてご主人がお許しにならないとかそういった理由でしたら私からご主人にお願いいたします。どうか私のためにドレスを着てくださ……、っ、ひいっ!?」

名前にぐいぐい迫ってくる男の肩に、後ろから手が乗せられた。
というよりも、凄い勢いで肩に手を置かれ、指で肩をぐっと握られる。
カメラマンの顔がるみる苦痛に歪んでいった。

「な、なんですかアナタ……!?」
「なんですかって、名前のご主人様だけど?」
「銀さん!」

名前を見て、銀時が柔らかく目を細める。
自動販売機にジュースを買いに行っていた銀時が戻ってきたのだ。
「ご、ご主人、」と男がこわごわ振り向くと、銀時は「そうそう。おたく、俺の奥さんになに迫ってくれちゃってんの」とニッと口角を上げる。
顔は笑っているが、自分の肩に置かれる銀時の手の力が緩むことは無かった。
このまま肩の骨が砕かれるのではないかと、男は真っ青な顔になる。
男に進路を塞ぐように立たれていたため逃げ出せなかった名前は、さっとベンチから立ち上がり銀時の後ろへまわった。
そして銀時の愛しい背中に手を当てると、先程言い返せなかった言葉を男に向けて放つ。

「私は、あなたの為にドレスを着ることはありません。着るとしたら主人の為だけに着ます」
「お、嬉しいこと言ってくれるじゃないの名前ちゃん。ところでドレスって何の話?」

銀時がパッと男の肩から手を離すと、男はその場にへたり込み、泣き出した。



泣き出した男を立たせ強引に連れてきた場所は、“パフェ祭り開催中!”と大きな看板が立っているファミレスだった。
一通り男の話を聞くと、銀時は「ふうん、あんたも大変だねー」と目の前のパフェに気を取られつつ同情の色を見せる。

「モデルを捕まえるのも一苦労だっていうのに、写真が撮れても却下され続け……しかも、モデルを断られた奥様のご主人様に何故かパフェを奢らされる羽目になって……」
「ちげーよ、アンタが困ってるみてーだからパフェで話を聞いてやってんだろ。この万事屋銀ちゃんが何か力になれるかもしんねーしな」

そう言って、銀時は半分ほどなくなった特盛チョコレートパフェの、
そのグラスの中間あたりにでんと存在するチョコレートアイスをすくい、幸せそうに口にする。

「万事屋さん……ですか」
「頼まれりゃ報酬しだいでなんでもやってやるぜ」
「では奥様をモデルに!」
「寝言ほざくな。名前がやりてーってんならともかく嫌がってんだ。写真に撮りたけりゃ百億ぐらいもってこい。ただし持ってきても撮らせてやんねーケドな」

銀時の言葉に、隣に座る名前は嬉しそうに笑みをこぼした。
その表情にカメラマンの男は釘付けになる。
幸せに溢れて、無垢な少女のように愛を疑わない、大人の純真さ。
さぞかし良い写真になっただろうにと、男はがくりと項垂れる。

「……この方だったらきっと、と思ったのに……」
「ま、落ち込むなって。俺がオメーさんにモデルを紹介してやっからよ。とびきりの美人達を連れてきてやるぜ」
「銀さん、見つけるって……銀さんが町で女の人に声をかけるの?」

心配そうな、さみしそうな、悲しそうな瞳で銀時を見上げれば、滅多に見られないそんな名前の表情に銀時が目を一瞬見開き、そして笑う。
名前の手をそっと取ると「いや、そんなこたァしねーよ」と安心させるように優しく指を絡ませた。



「それでは明日、どうぞよろしくお願いします」

と、カメラマンの男にスタジオへの地図を渡され、銀時と名前は男と別れ、喫茶店を出て家へと歩き出した。

「銀さん、モデルって誰に頼むの?」
「んー?」
「つっきー、かな」
「アイツがドレスなんて着てくれると思うか?」
「じゃあ、お妙ちゃん?」
「見返りくださいっつってドンペリ入れられそうだからやめとくわ」
「神楽ちゃんは可愛いけど、ウエディングドレス着るような年齢じゃないし……」
「名前、俺が誰を紹介するか気になってんの?」
「……とびきり美人って言うから、ちょっとだけ。ごめんね、しつこく聞いちゃって」

名前がしゅんと顔を下げる。
銀時は何も言わず、繋いでいた名前の手をぐっと自分の方へと引き寄せた。

「きゃ、」
「名前ちゃんかっわいーなオイ。愛されてんなー、俺」

銀時は自分の胸の中に名前を抱しめると、ここが外だということも構わずすりすりと名前の頭に頬をすり寄せる。

「俺が紹介すんのは、オメーが大好きなヤツらだぜ」
「つっきーもお妙ちゃんも大好きだよ。あ、わかった、たまちゃん? さっちゃん?」
「ちげーよ。ほら、いんだろーが。おさげの」
「………?」
「眼鏡かけた」

そんな女の子は名前の知り合いにはいない。
けれど、眼鏡とおさげというキーワードに当てはまる人物が一人だけ居た。

「………………もしかして、新八くん?」
「パチ恵な」
「じゃあもしかして、銀さんも、じゃなくて、パー子さんも、モデルに?」
「却下されようがなんだろーが、モデル探してくるっつー依頼はこれでOKだろ」
「でも女の人じゃなくて大丈夫なの?」
「いんじゃね? オカマは駄目、なんてアイツ言ってなかったしィ」

銀時に言い切られ、名前は銀時の胸の中で更にぎゅっと抱きつくようにして笑う。

「確かに美人さんだね」
「だろ」

名前は緩んでしょうがない唇を少し噛みながら銀時を見上げる。
男らしい精悍な顔。情熱的な眼差し。名前はそんな銀時の顔にそっと手を添え、伸び上がって頬に口付けた。




※たぶん続きます
※短編の沖田さんの「スカウト」と繋がっておりますが、両方読まなくても大丈夫です。

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