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長編はみだし話(番外編)
☆背中


まだ意味のある単語のひとつも話せない、銀時と名前の息子である息子に向かって、
新八や神楽と共に毎日毎日うるさいほど話しかけている銀時だが、
たまに二人が揃って出掛けてしまった万事屋で、静かに息子を抱っこしその身体をゆっくり揺らして落ち着かせている光景を、名前はたまに見ることがあった。

洗い物を済ませた名前が銀時と息子のいる部屋へと向かう途中、
銀時のあやし声も息子の声も泣き声も、テレビの音も何も聞こえないことに気付き、銀時が寝かしつけてくれたのかとそっと部屋へ入る。

銀時は入り口を背にして立っていた。腕には大事そうに息子を抱いて。
どれだけの人々を助けてきたのだろう。逞しい背中。男らしい筋肉の乗った腕。力強い足腰。
そんな身体を持つ銀時が、今はそっと三ヶ月ほど前にうまれた愛しいわが子を全てのものから護るように抱しめ、
優しい眼差しをうとうとと瞼を重たげに瞬きさせる息子に注いでいた。

名前はその光景に吸い寄せられるように、銀時の背中にそっと頬をあて身体をくっつける。

「名前」

身体を反転させ、息子を揺らしつつ、銀時は名前を見て目を細めると名前の額に唇を押し当てた。
途端、息子は目をパッと開き抗議の声を上げるように「あーう!」と手足を動かす。
抱っこの角度を変えるんじゃないと言っているのだろう。

「悪ィ悪ィ」

そう言って、銀時は再び元の位置で息子の身体を揺らす。息子はみるみる満足そうな幸せそうな表情になった。

お腹を空かせている時や母親が恋しい時は、銀時や新八神楽がどれだけ抱っこしようがあやそうが、名前が抱しめるまで泣き止まない。
眠たくて、でもうまく眠ることができず大声で泣き叫ぶ息子をあやしていると
「母親って大変なんですね」と、毎回新八に尊敬の眼差しを送られるが、
名前は身体的に疲れたなと思うことはあっても、大変だなんて一度も思ったことがなかった。
仕事の無い日中は産後の名前を気遣い、銀時、新八、神楽が息子の世話から家事まで率先してやってくれて、
名前が手伝おうとしたときには「オメーは夜中も息子に乳やってんだから寝てろ!」と銀時に布団まで敷かれてしまう。
これで大変なんて言ったらバチがあたると名前はしみじみ思うのだ。

息子を真ん中にして、名前は正面から銀時の腰へ手を回す。
ふ、と父親の顔から男の顔になった銀時が、名前の唇に自らの唇を重ねた。
しっとりと重なり合う唇に、二人の背筋を甘い刺激が走り抜ける。
息子が産まれて三ヶ月。時間的にも身体的にも余裕が持てず、優しい触れ合いはあっても情熱的な時間はなかなか持つことができなくて、互いに密な交わりに飢えていた。
唇を少し離した銀時の、その色づいた名前を求める熱い視線に、名前はどうしようもなく銀時が欲しくてたまらなくなる。

「……ねえ銀さん、息子が寝たら、今度は私を抱しめて欲しいな」
「そんなもん言われなくてもやってやらァ」

もー銀さん限界だったかんね、と、銀時はこそっと名前の耳元に熱い吐息を吹きかける。
二人の間から「うー!」とまた息子の抗議の声が上がった。
銀時と名前は間近で互いの瞳を見つめあい、笑う。
そして息子の、父親譲りの色とふわふわとした髪を持つその頭に、銀時と名前は同時にそっと唇を当てた。




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