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長編はみだし話(番外編)
・新婚旅行(露天風呂編)


銀時と名前が今夜泊まる老舗旅館は温泉が名物で、男女別れた大浴場からカップルや家族で使える貸切風呂までいくつもあり、
その中で竹の衝立と緑に囲まれた、小さいながらも開放感と趣のある貸切の露天風呂のひとつで、銀時と名前は頬を上気させながら口付けを交わしていた。
照明は足場を照らすためにほのかに光っているだけで、あとは月明かりのみに抑えられている。

「お風呂には何度も一緒に入ってるのに、なんだかくすぐったい感じがするね」

少し照れた表情で、名前は濡れた手を同じく濡れている銀時の腕に滑らせる。
筋肉にそうようにして指をゆっくり動かすと「銀さん、つるつるだ」と笑った。
そんな名前の唇を奪うようにして口付けてから、銀時はその唇を名前の耳に当てる。
手は名前の太ももをゆっくり往復するように動かしながら、耳朶をくすぐるかのように吐息をふきかけつつ甘く囁きかける。

「名前のここも、ここも……こっちも、な」

耳朶まで赤くなっているのは湯の温度が高いからか、
銀時の腰の上に乗せられ密着して座る部分に銀時のものが反応を見せているからなのか。

「……ん」

やわやわと胸を触られ、名前はとろんとした顔で銀時の首に両腕を巻きつけるようにして銀時の唇に自分の唇を深く重ねてきた。
銀時が唇を少し開けば、待ち焦がれていたかのようにぬるりと舌まで絡ませてくる。

「おやおや名前ちゃん、今日はどうしちゃったんですか珍しい。なんかいつも以上にエロくね?」
「だめ?」
「だめじゃねーけどよ、いいの? 名前があんまり可愛いことすると銀さん暴走しちゃうよ?」
「二人きりだもの」

暴走して、と柔らかい唇が声を出さずそう告げた。

名前のことを、ただただ愛しいと思う。
いつだって名前の艶めいた微笑みに心をくすぐられっぱなしだと、口の端を緩めた銀時は、
「じゃ今夜は精が尽き果てるまでコースな」と熱く色づいた瞳を細め名前の細い腰に手を伸ばした。

ゆるくまとめた名前の髪の毛から雫が落ちる。
口付けの合間、月明かりに浮かぶ微笑。女性らしい柔らかな身体のライン。
絶景だった。名前と温泉と木々と夜空と月明かり。
互いに引き寄せられるように唇をあわせる。唇を離して微笑みあう。それだけの行為が幸せでたまらなかった。

しかしそんな気分も、ひゅうと吹いてきた風に一変する。

銀時の目に、湯けむりが風で膨れ上がり、大きな大きな口を開けたように見えた。
白く立ち上る湯けむりは、そのままぱくりと名前の身体をいともあっさりと飲み込んで、この世界から奪い去ろうとしている。
そう錯覚した銀時は、背筋に冷たくおそろしい震えがゾクリと走ると同時に目を見開くと、大きな水音を立て両腕で名前の身体をきつく抱しめた。

「きゃ、銀さん、どうしたの?」
「………別に、なんでもねェよ」

そう言いながらも、名前の身体にすがりつくように回された両腕から力が抜ける様子は無い。
こうやって抱しめられるのは初めてではなかった。付き合ったばかりの頃、よくこうして抱しめられたからだ。
名前は何も言わず、自分からも銀時を抱き返す。

銀時は目を瞑り名前の存在だけに集中する。
すべらかな肌。落ち着いた呼吸音。自分を抱しめてくる細い腕。
ようやくほっとして目を開けると、その気配を察したのか名前も顔をあげ、少し心配した顔で笑う。

たかが湯けむりに動揺しただなんて言えず、銀時は少々きまり悪そうに耳の下を指でかくと、
「出るか」と言っておもむろに名前を横抱きにして銀時が湯船から立ち上がった。

「自分で歩けるよ」
「いいのいいの。名前ちゃんは俺にぎゅーっとつかまっておきなさい」
「ふふ、うん」

嬉しそうに笑う名前のしなやかな重みを大事に抱きかかえ、銀時は振り返る。
もうもうと辺りに漂う湯けむりに向かって、こいつは俺のモンだ、と心の中で呟いた。




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