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長編はみだし話(番外編)
・新婚旅行

「最近はスマホやパソコンで手軽に応募できるから、手書きの葉書が珍しくて当選したんだと思うんだ」
「いや、それもあるだろーけどよ、葉書の上から下までビッシリ感想書いてた名前の超真剣な熱意が当選を呼んだと俺は思うね」
「あのドラマ、面白かったから」

数週間前、名前が毎週楽しみに観ていたテレビドラマが終わり、
番組へのご意見ご感想をお寄せいただいた中から三名様に、老舗旅館のペア宿泊券をプレゼントするというキャンペーンがあった。
名前は宿泊券が欲しいというより、楽しかった、素敵なドラマをありがとうという気持ちをこめて感想を葉書に書いて番組へ送ったのだが、
そんなこともすっかり忘れた今頃に、番組の方から応募のお礼の言葉と共に旅館のペア宿泊券が送られてきたのだ。
予想もしていなかった嬉しいプレゼントに名前は顔をほころばせて喜んでいたが、ハッと何かに気付いたようにいきなり顔を曇らせる。

「ねえ銀さん、この旅館って犬もOKかなあ」
「どう考えても無理だろ」
「定春連れていけない……」

名前のしょぼんとした表情を見て微笑んだ銀時が、名前の頭をぽんと叩く。

「オメーさんもしかして新八と神楽も連れてこうとか考えたりしてんの?」
「うん、だって旅行だよ。銀さんと私の宿泊費用はかからないから、あと残りを出せば行けちゃうかなあって」

銀時の指に髪を梳かれ気持ちよさげに目尻をとろりと下げながら名前がふんにゃりと笑う。
二人きりの甘い旅行、というのを真っ先に考えないところが名前らしいと銀時は思う。
銀時も名前と同じで旅行ならみんなで、とは思うのだが、それよりも重大な問題があった。金だ。

「旅館に無理言って一部屋に四人泊まったとしてもだ。超が何個つくかわかんねーくれーの高級旅館だぜ。あいつ等の宿泊代なんざ到底だせねーぞ」
「私、少しなら貯めてるお金あるよ」

その言葉に銀時は少し驚き、感心したように眼を見開く。

「何時の間にへそくり作ってたんだよ。つーかこのジリ貧生活でよくへそくりにまわす金あったな」
「ちょこっとずつコツコツとね。人生、何が起こるかわからないから」

この言葉、名前が言うと妙に説得力がある。
「私のへそくりじゃなくて、みんなの為のお金だよ」と言って、ふふ、と柔らかく笑った。



しかし、お金の面はクリアできたものの、旅行の話を新八と神楽にしたら、二人に即答で断られてしまった。

「遊園地の横のホテルなら行ってやらなくもなかったけどナ、ここスゲー退屈そうアル。名前と銀ちゃん二人で行くヨロシ」
「僕も遠慮しときます。たまには夫婦水入らずでゆっくりしてきたらいいんじゃないですか? 新婚旅行だと思って」
「え、そんな、新八くんも神楽ちゃんも、みんなで行こうよ」
「でも僕、もうすぐ大事なお通ちゃんのコンサートがあるからファンクラブのみんなで毎日振り付けの練習しなきゃいけなくて。正直旅行どころじゃないんですよね」
「私も友達と毎日約束入ってるアル。モテる女はつらいネ。定春と留守番してるから、お土産よろしくナ」

二人の余りにもアッサリとした返事に名前は「そんなあ」と、ふらりと部屋の隅まで歩くとみんなに背を向け体操座りして盛大に落ち込みだした。
新八と神楽はそれを見てそれぞれの手でポンと銀時の肩を叩く。
ガキが気ィ使いやがって、と銀時は口元を緩めると、大きな手のひらで新八と神楽の頭をわしわしと乱暴に撫でた。
そしてがっくりと落ち込んでいる名前に優しい笑みを浮かべながら近寄ると、自分も床に腰を下ろし名前を後ろからがばりと抱しめる。
しばらくそうした後、名前の肩に顎を乗せ、耳元で囁くように声を出した。

「あいつらに土産、たんまり買ってってやろうな」
「……うん、びっくりしちゃうくらいたくさん買おうね」

気持ちを切り替えたのか、名前が顔をあげ銀時の方へ振り向き明るく笑う。

「ねえ銀さん、温泉一緒に入ろうね。露天風呂、貸切にできるらしいよ」
「マジでか。入る、入っちゃうぜー、最高じゃねーか」
「その温泉ね、お肌がすべすべになるんだって」
「名前ちゃんはいつだってすべっすべじゃん。これ以上触り心地良くなったらやべーぞ。銀さん撫でまくっちゃうかんね」

名前の頬に自分の頬をすり寄せるように動かすと、銀時は名前の手を握った。
そのまま床から腰を上げると、名前も一緒に引っ張り上げる。

「どれだけすべすべになったか確かめてね」
「おー、すみからすみまで確認してやらァ。電気も点けちゃっていい?」
「だめ、銀さん見ないでーってところまで見るんだもん」
「かてーこと言うなって。せっかくの旅行なんだぜ」
「だって銀さん恥ずかしいことするし。そういう時はいつもちょっぴり意地悪になるから」
「嫌いじゃねーだろ?」
「……でも、や」

どれだけ身体を重ねようと、身をよじって恥じらう姿を見せる名前は、心底銀時の心を掴んで離さない。
腰を抱き寄せると、銀時は名前の唇に自分の唇で軽く触れた。

「銀さん名前さん、旅行の相談なら二人きりの時にして下さい」
「唐突にやらしい話に突入しないでよね銀ちゃん。新八の顔がチェリーみたいに真っ赤になってキモいアル。はっきり言ってキモいネ!」
「神楽ちゃん今キモい二回言った!?」
「新八はチェリーだからしょーがねーんだよ。なんてたってチェリーなんだからよ」
「だから二回言うな! もう黙ってろこの歩くスケベ男!」

ギャーギャーと騒ぎ出した三人にくすりと笑うと、名前は昼寝中の定春のところへ行き、優しく頭を撫ぜる。

「銀さんと二人きりの旅行ももちろん楽しみだけど、みんなとも行きたかったな」

残念そうな名前の呟きに、定春は重そうに瞼を開けて名前を見ると、一度大きく欠伸をしてまた眠ってしまった。





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