長編はみだし話(番外編)
・もう少しだけ雨宿り
銀さんとお散歩に出かけたら、突然の雨に見舞われてしまった。
最初はポツポツとした細かい雨に、銀さんと「降ってきちゃったね」なんて笑いあいながら急ぎ足になり家まで急いでいたのだけれど、
雨はそんな私達に遠慮などすることなく瞬く間に激しく降り出してしまう。
さっきまであんなに晴れていたのに、と、手を引かれながら銀さん越しに空を見る。
けれどすぐに雨に濡れていく銀さんの銀の色した髪の毛や、時折こちらに視線を送り、瞳だけ細くして笑ってくれる横顔に、もう空模様などどうでも良くなってしまった。
「このままじゃ帰るまでにずぶ濡れになっちまうな」
そう言うなり、銀さんは路地裏に私の身体を抱きこむようにして足を踏み入れる。
大通りの明るさから一転、静かで薄暗い路地裏は、突然入ってきた私達に驚いた野良猫がさっと逃げていった以外誰も居ない。
「すごい雨だね」
「ま、すぐ小降りになんだろ」
銀さんは私の身体を抱きしめながらそう囁く。
名前、と私を呼ぶ低い声が雨の音にまじって、いつもと違う響きに聞こえた。
路地裏は狭く、かろうじて雨が当たらない程度にしか屋根がないためか、銀さんは私を抱きしめたままでいる。
あたたかな胸の中、強い鼓動に目を閉じる。
「雨、まだ降っていて欲しいな」
銀さんの唇がゆっくりと降りてきて、私の唇にそっと被さってきた。
目を閉じると視覚の代わりに聴覚が敏感になるのか、さっき銀さんが言った通り、もう雨の音が弱くなってきていることに気付く。
このくらいなら、走って帰れるかもしれない。それにきっともうすぐ雨は止む。
「…………もー少しだけ雨宿りしてくか」
一度唇を離してそう言った銀さんが、今度は更に深く唇を重ねてくる。
雨は止み、分厚い雲から待ちかねたように光が差し始めたが、私はそれを見ないよう瞼を閉じた。
私の耳はもう、銀さんの甘い吐息しか聞こえない。
元拍手お礼でした。ちょこっとだけ加筆修正してあります。
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