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長編はみだし話(番外編)
・雷、大雨、二人きり



「悪ィな、そうしてくれっと助かるわ。おー、じゃ」

そう言って黒電話の受話器を置いた銀時の前に、にこにこと笑みを浮かべた名前が湯気の立つお茶をそっと差し出した。

「依頼の電話?」
「いいや、お妙から。雨が酷くなってきたから今夜は神楽と定春そのまま泊まらせてくれるってよ」

銀時の言葉に、そっか、と小さく返事した名前が銀時の座る椅子の後ろにある格子窓から外を見る。
名前の淹れたほうじ茶に口を付けた銀時が、その場から動かない名前に視線を向けた。

「その方が安全かもしれないね。雷かな、さっきから空がゴロゴロって鳴ってるみたいだけど」

空から絶え間なく降り続ける雨は、まるでバケツをひっくり返したように強く激しいというにもかかわらず、
名前はどことなく楽しげな表情を浮かべていた。

「こわくねーの? キャー雷ー銀さん助けてーなんつって名前ちゃんが抱きついてきてくんねーかななんて銀さんは思ってたりするんですけど」

そう言うなり銀時はよいしょと立ち上がり名前の横に立った。
自分と同じように外の雨を見る銀時を見上げ、名前が嬉しそうに笑う。

「こわくはないんだ。えっとね、少しだけワクワクしてる」
「ガキですかオメーさんは。俺ァこんだけ降ってっと雨漏りが心配になってくるぜ」

その時、青白い稲妻の光に続き、身体の中心を揺さぶるような大きな音が空から落ちた。
二人は息をするのも忘れて窓を見る。

「すごい……おっきい雷」
「こりゃどっかに落ちたな」
「神楽ちゃんこわがってないかな」
「大丈夫だろ」

雷は鳴り続ける。
激しい雨粒が窓を叩く音を聴きながら、銀時と名前は二人きりで黙って身体を寄せ合うようにして窓辺に立ち続けた。
雷が落ちるたび名前の身体が小さく跳ねる。
こわくはないが余りにも大きな音に驚いてしまうのだろう。
その様子に笑みを浮かべつつ、銀時は手を伸ばして名前の肩を抱き寄せる。

何回目かの大きな雷で、とうとう部屋の明かりが消えた。

「停電しちゃったね」
「ろうそく点けるか?」
「ううん、このままでいいよ」

夕日もとうに落ち室内は暗いが、時折光る雷で互いの存在はしっかりと感じられる。
窓の外をじっと見つめていた名前が、ゆっくりと銀時の方へ顔を上げた。
言葉にせずとも何を求めているか手に取るようにわかった銀時が、静かに笑いながら名前の唇に自分の唇を重ね、腰を引き寄せる。

名前の唇を柔らかく吸う銀時の、閉じた瞼に雷の光が透ける。

どこか日常とは離れた場所に居るような気持ちだった。
今は目の前の名前だけが銀時の現実であり日常なのかもしれないと、おぼろげによくわからないことを思うが、
舌を差し入れればすぐさま絡んでくる名前の舌に、その取り止めの無い思考を中断し、夢中になって口付けを続けた。


二人の熱い吐息は互いの耳から雨の音だけをかき消した。








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